アリス【主人公】の転生 12
「……ん?」
アリスが次に目覚めたとき、そこは知らない室内の大きなベッドの上であった。
「……知らない天井だ」
単に言いたかっただけである。
「うんしょ。ってあれ?ここどこだ?ホテル?」
アリスは辺りを見回す。
周りの調度品から、ホテルだと理解は出来たが、部屋の広さからしてかなり料金が高めの部屋だと理解できる。
景色を見ようとしたアリス、だが本来外を見るはずである窓にはカーテンがかけられており、外を見ることはできない。
それどころかカーテンに触れようとすると結界?なのかよくわからないが見えない壁のようなものに遮られてしまう。
「………」
(よし、よく考えろ私。あの男は言っていた、自分は日本国籍を持っているのだと。それに私が目覚めた場所は日本の領土であると。この世界の日本の領土の広さは分からないけど気を失ったときの時間は夕方に近づいていたはず。外の様子は見れないけど部屋の時計を見るに夜の八時、数時間程度で国境は越えられないと思うからここはまだ日本のはず!それより気になるのは)
アリスは部屋を観察する。
「なんか内装だけは現代っぽいけど置いてあるものがちょくちょく古いのはなんでなん?多分これ教科書とかで見たことあったのかな?ブラウン管テレビだよね?これは黒電話だっけ?実物見るの初めてなんだけど。っていうかこの部屋広すぎね?スイートルームってこのくらいが普通なの?あの男そんなに金持ってる風には見えなかったけど」
ここまで考えた私だが重要なことに今気が付いた。
「あの男…いや、そもそもなんで私ここにいるんだ?つーかあの男どこ行った?意味わかんないことさんざん言ってたけど、最終的には私の体が目当て!?ま、まあ私?結構な美少女だと思いますし?ホテルに連れていきたい気持ちもわからんでもないけど?あたしゃまだ一五歳だぜ?……なんで年齢わかるんだ?」
何故誕生日もわからないはずなのに年齢が出てきた事に困惑するアリス、だがそんなこと考える暇もすぐさま無くなる。
少しずつ冷静になってきたのだろうかアリスの耳にある音が聞こえた。
ホテルにいるならばこの音に疑問を覚えることは少ないだろう、宿泊してるのが自分だけの場合は除くが(それはもう怪談か不審者の類)。
そう水の音。もっと正確に言えばシャワーの音である。
アリスの脳内で不安な憶測によるパズルが次々と組みあがってく。
「い…いやいやいや、そんなことないって。だって私のことそういう風に見てないって言ってだじゃん!少しいらつくけど。だとしたら知らない人?杖どこだっけ?火球の魔法は忘れたけど魔素球ぶつけりゃあ行けるか」
杖を探し出した時だった。
「おお、起きたのか…って何してんだ?お前」
アリスの顔が蒼白になっていく。
それどころか全身から血の気が無くなっていくのさえわかるほどである。
予想以上の速さで最悪なパズルがそろっていくがまだ完成していない、あと一ピース必要だ。
(まだ、声は後ろからだ。もしかしたらシャワーを浴びてるのは別の人であいつは買い出しで戻っただけかもしれない。ただ、さっきまでしてたシャワーの音がないってことはもうほとんど確実だろうけど!)
アリスは決死の覚悟で振り向いた。
「……おっほーんなるほど」
最後のピースがカチリとはまった。
しっとりと女性か!と突っ込みたくなるほど腰まで伸びていた髪の毛を結わってタオルを巻き、湯上り後の薄い浴衣のようなものを身にまとっていた。
誰がどう見てもさっきまで風呂浴びてました!とわかるものだ。
アリスの体と思考は完全にフリーズした。
「どうした?」
龍が聞いてももちろん返答はない、絶賛フリーズしてるのである。
「しかし、俺の体も大変なんもんだ。体の成長は止まっているはずだから髪も伸びないはずだといわれるんだが、この通り新陳代謝が立派に働いている。ちゃんと髪も伸びる、まあ最近はもう髪切るのめんどくさいから伸ばしてるんだが、そうなると一部の奴らがきれいな髪だからちゃんとケアしないとだめだと言ってな…って聞いてるか?」
結構重要な言葉を言っているががそれでもフリーズ中のアリスの耳には入ってこない。
本能が悟ったのかは定かではない、だがもう逃げられないと考えたアリスの体は静かに正座の姿勢を取りお辞儀した。
「初めてなのでお手柔らかにお願いします。あと、出来れば痛くしないようにしていただければ幸いです」
「……何言ってんのお前、正気か?しかもいきなり敬語て」
「だって誰どう見ても今から血が流れますよレッツヴァージン卒業!適な雰囲気なもので」
「は?ヴァージン?処女のことだっけ?お前そうなの?卒業?どういうことだ?」
「へ?違うの?」
「俺は単にあそこから帰ってきて一戦闘やったから体中に埃やら血やらが付いたから洗っただけなんだが…何想像してたんだ?」
アリスは正座の体制から動けなかった。
「まあいい、お前もついでにシャワー浴びてきたらどうだ?湯船に入りたければシャワー浴びながら待つといい俺はシャワーしか浴びなかったから湯船はってない」
「はい、そうさていただきます」
アリスは赤くなった顔を隠しながらそそくさと浴室に向かっていく。
浴室もさすがスイートルームというべきか広さは普通だが壁の色やバスタブ、シャワーのヘッドに至るまですべてが高級感漂っていた。
浴室で服を脱ぎ、バスタブに湯を溜めていく間、シャワーで体を洗う。
「うおおおおおおおおああああああああ!何言ってんだあたしゃあああああああ!」
ひたすら顔を真っ赤にしながら先ほど無意識ながらに口走った言葉の数々を思い出しながら頭を高そうな浴室の壁にたたきつけていた。
「普段の!私から!絶対に!口にしないような言葉だよ!しかもめっちゃ流暢な言葉が私の口から飛び出したよ!ありえねえよ!どうしたんだ私いいいいいいいい!死にたいいいいいいいい!つーか痛ええええええええ!」
痛みによってようやく冷静さを取り戻す。
「……よし」
何かを決心し体を洗い、溜まっていた湯船につかっていた。
数十分後、久しぶりのお風呂にゆっくり浸かったアリスは浴室から出るとホテルに常備されているのだろう服を着るとあいつのところへ向かう。
龍はベッドのそばにある机で優雅に煙管を吸っていた。
「ん?おお上がったかやはり女性は毎日風呂に入りたいんだろう?昨日はさすがに無理だったからなゆっくりできたか?」
「ええ!お気遣いどうも!おかげさまでゆっくりできました!」
「…?そ、そうか」
「ところでなんですが!杖って今あります?」
「まああるがなんでだ?」
「いやあ!私前の日本で杖を使った魔法の映画が大好きなんですよ!小説も全部読んだはずです内容覚えてますから!昨日今日で魔法は使いましたけど昨日は暗くてあまり杖をじっくり見れなかったなあと思いまして、今じっくり見たいなあって!」
「あーなるほど、じゃあお前が昨日言った呪文はその物語の中の呪文なのか道理で魔法が発動しないわけだ。ほれ、よく見な」
龍から杖が渡される。
「ありがとうございます!わーすごーい!」
杖を受け取りじっくり観察する。
昨日の夜見たときは焚火の明かりでしか見れなかったために全体がよく分からなかった。
じっくり観察すればするほどハリーポッターの杖とそっくりである。
「本当にそっくりなんですよねー、映画の杖と。なんでだろ?」
「そういえば最近変わったんだよな杖のデザイン。何年前?だったかな転生してきたやつが『やっぱり魔法の杖はこうでないとだめでしょ』ってことで今のデザインになった」
アリスはガッツポーズをとった。
(日本人わかってるうう!そうちゃんといいところはもらわないと!魔法の杖はこうよ!)
そしてアリスは何の躊躇もなく杖を龍に向けた。
「?返すのか?もっと見ても構わんぞ?」
杖の先でゴルフボール大の魔素球が生成される。
「は?ちょっお前何して」
「先ほど私が言った言葉覚えてますか?」
「ああ、一言一句覚え…、いやどうだったかな、最近覚えが悪くてな」
ここで私が魔素球を出した意味を悟ると龍は言葉を濁した。この間もちろん私は笑顔だ。
「曖昧でも覚えてるんですね!ちゃんと私が土下座したこともまだ頭に入ってますよね?」
魔素球がサッカーボール並みに巨大化する。
それを見た男は笑みをこぼした。すべて察したのだろう。
「ふふふ、なるほど先ほどは脅しのためか。で今回はなんだ?」
「ふふふ!なんでしょう!?」
(てめぇの記憶と体を吹っ飛ばすためだよ!)
「そうか…、ならやってみるといい今のお前がどれほど無知なのかを教えてやる」
龍は笑みをこぼすと右手を伸ばし挑発するかのように曲げた。
アリスは杖を少し引くと思いっきり杖を振った。半透明の魔素球が男に向かっていく。
半透明の球体が向かっていたが標的であるはずの龍の顔は変わらなかった。しかし懐に持っていた予備の杖を持つと向かってくる魔素球に向けた。
「?」
(何をする気?今更魔法を放とうが遅すぎるはず!)
男に当たると思っていた魔素球は男の向けた杖の少し先で見えない壁に当たり形を崩した。そして……。
バン!
壁のようなものに衝突した魔素球は小さな爆発こそ起きたものの肝心の龍には何一つダメージが入っているように見なかった。
「は?」
(何が起きた?経験上あの大きさならぶつかって結構大きな爆発するはずなのにその手前で爆発した?てかその前に杖構えただけだよね?呪文も唱えた気配もないし…無詠唱呪文?わからない。駄目だ。現状で、この男にかなう気がしない。ほかに使える呪文ないし…クッソ!)
目の前で起きた状況から流れてくる情報が多すぎて頭がパンクしかけるアリス。
今仮に他の呪文を知っていようが全てあの壁に阻まれて意味がないと悟ると。杖を下ろした。そして顔も下に向いた
「今のは魔法結界。まあ読み方呼び方はシールドとも言われているが、日本人は基本的にこっちの読み方だ。それに俺はその程度の魔法どころかどんな方法でも死なないよ」
予想外の言葉を聞いたアリスは顔を上げる。
「どういう意味です?」
「どういう意味も何もないよ信じられないかも知れないが俺は呪いを受けていてな不老不死なんだ。まあ死ぬ痛みはあるがな」
「あの…それって転生してる人たち全員…」
「呪いだって言っただろ!俺だけだ」
「ふーん」
「時間も時間だ本題を話すぞ」
「は、はあ」
アリスはベッドに座った。
「いいか?よく聞け?」
「はあ」
「アリス、お前は俺が見る限り特別な転生者のようだ。少々特殊なユニークを持っている…おい!聞いてるのか?」
特別なのところでアリスは前のめりになる。
「おっと、失敬失敬。続けて」
「いきなり偉そうになったなお前。まあいいけど。少し長くなるぞまずは…」
龍は聖霊魔法のこの世界の扱いを説明した。
聖霊魔法は医療のためにある『治癒魔法』と闇の魔法に対抗するための『闇滅魔法』があるということ。
しかしここからだった。本来、この世界の聖霊魔法は【男性】しか使うことができない魔法であるということ。
「え?ん?は?はああ!?」
私は無意識に手を胸や下へあてようとしたが止めた。
「まあ、驚くのも無理はない。俺も最初お前が魔法を使ったときにアリスという名前の男かと思ったが違うようだし……ちょっ!ちょっ!待って!」
「見たんですかー?」
杖ではなくこぶしを構える。
「……ああ、見たよ、転生者は全員例外なくな。だがその時でも俺は確実にお前を女性だと認識したんだ、それに旧日本の……キラキラネームだったか?それでも男にアリスと名付ける親なんていないだろうとの判断だ」
「まあ確かに…」
構えたこぶしを下す。
「そしてだこの世界にやってくる転生者はユニークと呼ばれる特殊な能力を持って転生してくる、使えるものだったり使えないものだったりだ。お前の場合、女性で聖霊魔法が使えること、そして聖霊魔法に関しては魔素量が普通の4倍以上だということだ」
「なんで魔素量が分かるんです?」
「お前が使った治癒魔法は…」
「第四治癒魔法でしょ?」
「ああそっか、あの本読んだんだな、そう第四治癒魔法、本来は聖霊魔法師が四人で使わないと発動できないんだ。だから第四と呼ばれてるんだがな。それをお前は一人でやってのけた。」
「でも私は治療を終えたら気絶しましたけども?」
「それはこの世界の聖霊魔法の最大は第四まで、つまり、ギリギリ魔法を発動できる魔素がお前の中にあった。なら鍛えて増やせばいい」
「それは鍛えてどうにかなるんですか?」
「イメージは筋トレだな。筋肉が無い人間でも筋トレすれば筋肉付くだろう?」
(ああ、なるほどそういうイメージか)
「でここからが話の本題だ。お前には俺の弟子になってもらう」
「ちょっ…と待ったいきなり話が飛びすぎ。なんで私があんたの弟子にならにゃならんのだ」
前振りこそあったが、今までの話で弟子になるプロセスを一切踏んでないことにあきれるアリス。
「先ほども言ったが聖霊魔法は本来男性しか使えない。しかもすべての男性がなれるわけではない、数百人、数千人に一人で聖霊魔法師になれる素質が持った男がいる。まあ実際はもっと少ないが。一国に対しての聖霊魔法師一人の価値が尋常じゃない。それに加えてだ、お前は一人ですべての聖霊魔法が使えるんだ一国的にもこの世界的にも貴重な存在なんだ、存在を知る俺の弟子として手元に置いておき一人前の魔法使いに育てる。俺はこの世界、日本で唯一【神報者(オブザーバー)】という職業だ、情報が洩れる心配はほとんどないからな俺の身の回りの奴らは信頼できるやつで固めてる」
「………」
「まあいきなりこんな事言われてもって感じだよな。だから今すぐでなくてもいいいいぞ?明日までに決めてくれ…って聞いてる?」
「……じゃん」
「ん?なんだって?」
「それって!主人公じゃん!しかも世界規模で唯一なんでしょ?それってチートと同じだよ!やっぱあたしが主人公なんじゃーん!あ!弟子?いいですよ!しかもそのオブザーバーって世界であんたが唯一なんでしょ!その弟子なんでしょ?主人公だよそれ!やるやる…ってなんちゅう顔してんの?」
アリスは主人公であるということを確信し、コロンビアのポーズを行うが男の顔があきれていることに気づく。
「いや、まあいいが。そこまで意欲的なことにこっちはうれしい限りだよ。それじゃあ第一歩だ」
男は立ち上がる、それに少し遅れてアリスも立ち上がる。
男は手を差し出す。
「なんです?」
「今日…今から俺たちは師弟関係、師匠と弟子の関係になるんだ今から俺のことは……そうだな師匠とでも呼んでくれ。それから言葉使いは…いいや今更強制すんのもめんどくさい」
「イエッサー!」
アリスは師匠の差し出した右手を掴んで握手した。
「今日から私は師匠の弟子になるんですね!よろしく!」
こうしてアリスは神報者(オブザーバー)龍の弟子になったのである。
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