アリス【主人公】の転生 7
二人はまた、竈をはさんで座り直した。その際龍は竈に木をくべて杖を構える。それを見たアリスが身構える
「ちょっと!火つけるぐらい火球で無くたってライターとかマッチでもあれば…」
「フォフト《火よ起これ》」
杖の先から数センチぐらいの火柱が噴出した。それを竈の木に点けると、少しずつ木の方からパチっパチっと木が燃える良い音が聞こえてくる。
「……」
「なんか言ったか?」
龍はニヤニヤしながらアリスの顔を見る。
「…な、なにも」
ある程度火が大きるなるまで少し待つと、龍が口を開いた。
「さて、予定が大きくずれてしまったがまあいい、俺にも原因はあるからな」
「なんのこと?」
「なんでもない。それでだ、もうめんどくさいから単刀直入にいうぞ?一応最初に言っとくが結構ショッキングだ、心して聞いてくれ」
アリスの顔が真面目になり龍の言葉にうなずく。
「アリス…、非常に残念なんだが、お前は一回死んでいる。そして、この世界、【セア】に転生してきた【転生者】なんだ」
………。
不意の沈黙が流れた、やはり聞こえるのは先ほどの森の音、それに木が燃える音が追加されただけである。
しかし、アリスの顔は変化した。真面目だった顔からおかしくてたまらないという顔に。
「ふふふ、あははは!意味わかんない!私が死んだ?そんなのおかしいでしょ!?だって今私はこうやって生きてるわよ!?さっきだってあんたにパンチ食らわせたじゃない!」
「もう一度言うぞ?死んだことは確かだ、この世界にいて俺と会話してるからな。だがなお前が前いた世界、地球、日本では死んでるんだよ。その証拠にお前には日本や日本以外の国の知識はあるだろうがお前自身の記憶や自分のことについて思い出せないだろう?それにここに来るまでの記憶があるか?」
「何言ってんのこの人…。思い出そうと思えば思い出せるわよ!たぶん…」
アリスは目をつむり、必死に自分のことについて思い出そうとした。しかし、思い出せるのは恐らくアリスが生きていた時代に起きた事象や現象、人物の名前、物の名前。アニメの名前や内容。それは思い出せた。
しかしどう思い出そうとしても自分の本名や家族構成、友達の顔や名前、アリスの生きてきた約15年間に及ぶ記憶、その時の感情、自分が何をしたのかどう感じたのかを思い出せなかった。
自分の事について明確に思い出せるのはただ一つ「アリス」という名前だけだった。
「……お、おもいだせない…、おもいだせないよう」
アリスは自然と涙を流していた。先ほどの下を脱ぐときの羞恥の涙ではなく純粋に悲しみによる涙だ。
「……」
龍はその様子をただただ煙管を吸いながら眺めていた。
(俺の経験だが、この世界に来た転生者の反応は大きく分けて3つ。一つはアリスのように自分の死を悲しんでるというわけではないが、自分の事を思い出せないことによる悲しみに暮れるもの。二つ目に、思い出せないことや自分が一度死んでいることをすぐに受け入れ、すぐさまこの世界を生きるために歩き出そうとするもの。そして三つ目、…これが一番最悪だ。状況を受け止めきれずに狂い自決するもの。まあ、最近は減ってきてはいる。あいつらの話だと、旧日本のライト?ノベルだがなんたらのおかげだとは言っていたがよくわからん。でもそういう人間が減ってきているのは感謝したいな、そう見るものではないよ、人が目の前で自決する姿なぞ)
「ねえ?」
「ん?」
龍がアリスを見ると、目を真っ赤にして泣いていた。龍は静かにローブからからハンカチを取ると、アリスに渡す。
「ありがと…」
顔を流れた涙をふき取ると、ハンカチを返した。
「いや、いらん。やる」
「そう?ねえ質問していい?」
「ちょっとまて」
龍は持っている懐中時計を確認した。
(19時か…、明日も早いが…、すこしなら良いか)
「少しだけだ、明日も早いから晩御飯を食べながらでいいか?」
「…だいじょぶ」
「ならどうぞ」
龍は飯を食おうとカバンを漁りだした。
「私みたいに記憶を無くした転生者?だっけはよく来るの?」
「ああ、結構。ていうか転生者は例外なく記憶をなくしてるな。転生者は月一ぐらいでくる。あ、あった」
龍は完全密封された袋を取り出した。
「月一!多くない!?日本人ってそんなに死んでるっけ?まあ今は良いけど。それより私…、身内の名前も思い出せないだけど…、あんたが女性の名前を言ってくれたら思い出せるとかない?人の名前は思い出せるんだ。例えば最近の総理大臣の名前とか」
龍は袋をナイフで切り、中身を取り出す。そして、鍋を出すと、中に杖呪文を唱えで水を張る。そして、袋の中身も鍋に入れて竈の火の上において湯銭を始める
「それはない。仮にお前の母親の名前を俺が当てたとしよう、お前はその人を知っていると言うだろうが、それは違う。お前はその女性を母親としてではなく、“そういう人”を知っているという知識としての記憶で覚えているだけだ、名字付でな。だが、もしだ、かなりの低い確率で次に転生してくる人がお前の母親だったとしてその人物も自分の名字は忘れているだろう、そしてお前との続柄についても記憶にはないはずだ。だから二人がこの世界であったとしても、親子であると気づくことはないだろう。いままででそういう事象は無い。単に、人物を知っているだけで、自分との間柄、続柄、関係性が一切記憶から削除されているんだ、この世界に来る転生者は」
「そう…なんだ。あと、さっきから気になっているんだけどそれ何温めているの?」
自分が満足いく回答が来たのか、アリスは鍋の中の物体に興味をしました。
「質問はもういいのか?これはレトルトパウチだ」
「それはもういい、また明日でも質問するわ。てかそんなことはもうどうでも良い!レトルトだってことは見ればわかるわ!なんでそんなもんがあるのよこの世界に!?」
「そりゃあ、これは戦闘糧食だ、この国の自衛隊を管轄してる防衛省が開発してんだからあるだろ。日本人の食べ物に対する執着凄いぞ?俺もびっくりするレベルだからな」
アリスは今、自分の耳を疑った。
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