アリス【主人公】の転生 6
「…えっ?」
火球は木に当たると、先ほどの魔素球のように形を崩した。しかし、先ほどと違うとすればその後、火球が起こしたのは破裂ではなく燃焼だった。球体からただの火になると当たった木を少しずつ燃やしていく。
アリスは今起きた現象をただただ茫然と見ていることしか出来なかった。
「はい?え?なんか燃えてますけど?」
アリスは目の前に映る光景を受け入れるのに少しばかし時間を要する形だが、すぐに状況を理解した。
「燃えてますけどー!」
「ああ燃えてるな……明るくて……温かい」
アリスが振り向くと龍は燃えていく木を眺めながら煙管で一服とっていた。さながら優雅に暖を取りながらくつろぐ老人である。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょうが!燃えてるって!結構燃えてるって!しかも木の間隔が狭いからすぐに延焼しますよ!?水!水!あ、魔素球!」
アリスは直ぐに杖みてイメージした。
(ゴルフボールじゃダメ!さっきの火球ぐらい大きいやつ!たぶんサッカーボールぐらい!)
イメージすると、杖の先にサッカーボールの大きさをした魔素球が出来上がる。
「ッシャア!行けえ!」
それを燃えている木に向かって放つ。放たれた魔素球は木に当たって先ほどの魔素球に比べて少し大きい音で破裂した。
「おし!いったか?ん?」
木は今もなおメラメラと燃えていた!魔素球の爆発では消せなかったようだ。
「やっぱり水か…、だけどこの状況で水なんて…、…!」
アリスは自分の体の下の方に視線を送った。そうこの状況で真水ではないが自分の体から出せる唯一時によっては大量であり少量水分が出る場所がある!それは大抵の人間が生理現象によって出さなければならないもの…尿である。
(よりによって?ここで?ここでしろと?いやいや、男なら竿があるから簡単でしょうよ!でもあたしゃ女だぜ!?男みたいに狙い通りにいく自信もないよ!?あの男も使い物にならそうだし…、ここで女としての尊厳を捨てるか?だが、ここで逃げても人がいる場所まで逃げられる自信はない、明かりも食料も地図も無い。それにまたあの猛獣に襲われたら人生終わる…。やるしかない。一人見てるけど、その時はあいつを殺せばいい!)
アリスは覚悟を決めて涙目になりながらズボンとショーツを一気に下ろしにかかる。アリスは少しずつ穿いてるもの下ろしていく。
その時だった。
カーッン!という乾いた木の音が龍がいた方向からした。アリスがその方向を見ると、龍はどこから取り出したのであろうか、木の箱に煙管の灰を落とすと、すくっと立ち上がる。
そしておもむろに杖を握り燃えている木に向けた。
「だから!その魔素球じゃ消えないんだって!私の見てたでしょう!」
涙目どころか半べそになりながら少しだけ脱がした服を握りしめ龍に訴える。
「そりゃあ、魔素球と火球しか知らないお前だからな、当たり前だ。だがな少なくとも俺は人としてこの世界に一番長く住んでる魔法使いだし、お前より使える魔法の呪文の数は比じゃない」
(覚えてるかどうか、別として)
そういうと燃えている木に向かって唱えた。
「ネロクステ《水球よ飛べ》」
龍の杖から出たのは魔素球でも火球でもない、先ほどの火球と同じ大きさだが魔素球よりも透明度を増した球体である。
その球体は燃えている木に飛び当たる。そして崩れるとともにバッシャーンという音とともにシュウウウウウという火の消える音がすると消えずに木の根っこや土に吸い込まれていく。
「……」
しかし、消火までの時間が掛かりすぎたのか木の上の方の火はまだ消えていない。
「…もう一発」
今度は何も唱えずに木に向かって杖を振る。すると先ほどの球体がまた木の燃えている部分に当たり、同じく音を立てて火を消した。鎮火完了である。
「ふう、鎮火だな、どうだ、魔法を覚えるとこんなこともできるんだ。ちなみに今のは水球…、水の玉だな!魔法はすごいだろ?…ん?」
龍がアリスを見ると、途中まで下ろしかけていたズボンとショーツをもとに戻し、フリーハンドになった両手のうち左手を龍の肩に、右手を腰に据えファイティングポーズをとりながら満面の笑みで龍を見ていた。その顔は涙でぬれていたが。
「あ……え……ん?」
「ふふふ」
「あ…、あはははは」
(どこかで……同じようなものを見た気が……)
そう思うや刹那、アリスの右手から龍の腹へのボディーブローが炸裂した。
「ちょっ!うぐふぉ!」
アリスのパンチ力では吹っ飛びはしなかったが、強烈なパンチは龍の腹をえぐり、強烈な痛みを脳に伝達する。金的には及ばないかもしれんがボディーブローも十分痛い。
龍はお腹を押さえてその場でうずくまりながら、右手でグッジョブのサインを上げる。
「い、いいパンチだ、まあさっきの金的に比べれば楽なもんだが」
「そうですかーそれはよかったですねー!」
アリスはガンガン、龍を足の裏で蹴りまくる。
「ちょっ!ま、ま」
「私が!どんな!思いで!下を脱ごうとしたかわかりますかー!」
「え?なんで?」
「とぼけるんじゃないわー!」
アリスの最後のけりをなんとか手で受け止める。そしてなんとか立ち上がると、服についてる泥をはたき落した。
「落ち着け、なんでお前が脱ごうとしたのかは知らないが、ある意味テストのつもりだったんだ。お前の適応能力のな」
「は?何のテスト?」
「簡単だ、いいか?お前は【転生者】だ。だから生きる上の必要最低限の知識は最初からあるはずだ。そこに魔法という新たな知識を頭に入れたお前があの状況に対して、どんな行動をとるのかな。だから俺は何も言わなかった。そして今回、お前は転生者として出来る限りの行動をした。この世界に来たばかりのお前がちゃんと頭脳を回せるかをみたんだよ。たまに一切頭が回らない奴も来るからな。だが、ちゃんとお前は状況を理解し、火を消そうと試みた。最後の脱ぐという行動に意味が分からなかったが、十分合格だ」
アリスは腑に落ちないという顔だったが、納得?はしたように見えた。
(まあ、嘘なんだけどね…。初対面でいきなり金的食らわせれたから、その仕返しだし、こんなテスト他の転生者にしたことないし、ほとんどの転生者はここじゃなくて【あそこ】にもう着いてるし。とりあえずテンパるところ見たかっただけだ。)
ちなみに龍は下を脱ぐという行為の意味もちゃんと理解していた。
(もし、あそこまでやらせると、本気で殺しにかかる危険があったから途中で消しにいったんだ……死にはせんが……痛いもんは痛い)
「そ、そう!だったら最初に言ってくれない!言ってくれたらこんなに焦らなかったのに!」
「それだと、適応試験にならないだろ?抜き打ちでしないと…。こういう試験は抜き打ちでやるもんだ」
(くっそ、この野郎…)
やはりまだ腑に落ちないという顔だが、それはさておきアリスはもっとも聞きたかったことを聞こうとイラつく感情を胸にしまった。
「それとさっきから言ってる【転生者】だっけ?どういう意味?転生って生まれ変わるとかそういう意味でしょ?説明しなさいよ。私のキャラ設定がそういう立場ってこと?」
(やっとか、結構時間かかったな…、まあ半分が俺のせいか)
「ああ、今からそれを話す。だからそこの椅子に座れ」
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