ヒロインではなく、隣の親友です

月島ミサト

序章 頭痛と吐き気の中で





小説を読むことやゲームするのが好きだった。


とくに心に響き、惹かれていたのは恋愛を扱った物語だ。


いつかこんな物語のような恋をして、


結婚をして家族に囲まれて逝くのが私の夢だった――


――私の夢、だった?









強い疑念と違和感を覚えた途端、激しい頭痛と吐き気に襲われる。










「――っ!!」




目を開けると、窓の外から入ってくるまぶしいほどの光が目をさして目が眩む。


頭痛と吐き気が強く感じて不快感も合わさって、目覚めの気分はこの上なく最悪だった。




「ああ!! カメリアお嬢様、お目覚めになられたのですね!?」




光の強さに繭を寄せると、ベッドの隣に立つ女性が起きたことに気付き、感嘆の声をあげる。


女性は、私の頭に手を添えると、まだ酷い熱だと悲しげに呟く。


混乱する頭の中で周りを見回すと、自分が深蒼を基調にした豪華な部屋にいることに気付く。




「あの……ここは? それに私は……」


「記憶が混乱されているのですね。無理もありませんね、


 五日間も、意識がお戻りにならなかったのですから。


 私、ご主人様と奥様をお呼びしてまいります!」




女性は早口でそう告げると、私の制止を聞く間もなく部屋を出て行く。


一人残された少女は収まる事のない頭痛と吐き気にめまいを覚えつつも、冷静に状況を確認する。




「私の名前は……」


(さっきの女性は、私のことをカメリアと呼んでいたということは、きっとそれが私の名前なのだろう。


 だけど、何故だろう。しっくり来ない)




ゆっくりと立ち上がると、大きな鏡のついている化粧台の元へと歩みを進める。


動くたびに僅かな痛みを感じて、繭を寄せる。


鏡の前まで歩み寄ると、


そこには包帯などが頭や腕に巻かれた栗色の髪に深緑の目をした10才ほどの女の子が映っていた。




「これが私……?」




自分の顔に触れてみると、鏡の向こうの女の子も自分の顔に触れる。


その様子をみて、これが自分であることはわかる。しかし、強い違和感を覚えてしまう。




(自分のはずなのに、自分なきがしないのは……どうして?)




窓の外をみると、桃色の花が目に入る。




「桜……」




花の名前を無意識に口すると、一気に何かの記憶が流れ込んでいく。


そこには、今の容姿とは違う少女が自分で『ゲーム』や『小説』、『漫画』を楽しむ記憶が


脳裏へと一気に入り込んでくる。




「ここは、日本じゃない……? それに、なんでこんなに若いの?」




無意識に呟く言葉に自分で驚きながらも、後ずさる。


色々な情報が脳裏を駆け巡る中、


最後に思い出したのは車に引かれかけた猫を助けようと、道路に飛び出した記憶。




「ああ、これは……私じゃなくて『前の私』だ」




冷や汗が止まらず、心拍数が上がると先ほどとは比にならない


立っていられないほどの頭痛と気持ち悪さに襲われる。


膝から崩れ落ちると、扉が開く音が聞こえたのを最後に、カメリアは再び意識を手放すのだった。






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