第26話 修学旅行(3)

 コンコン


 僕の部屋に集まって、みんなでトランプをしているとノックの音がした。


「は〜い。今出ま〜す!」

「こんばんわ、三上くん。廻里さん達もこんばんわ。」


 あれ?小森先生?

 どうしたんだろう?


「先生、どうかされたんですか?」


 桜花が先生に尋ねると、先生は苦笑した。


「実はね?何人かの他の生徒から、三上くんが女生徒を自室に入れて、いかがわしい事をしていると連絡があってね?一応担任である私が確認に来たのよ。」


 ええっ!?

 修学旅行でそんな事をするわけ無いじゃないか!?

 誰だよそんな事言ったのは・・・


「私達は何もしていませんよ?」

「そうでしょうね。というか、そんなの信じられなかったけれど・・・教師としては確認しないといけないのよね。お邪魔してごめんなさい。」


 は〜・・・先生も大変なんだなぁ・・・そうだ!


「もし、よろしかったら、少しだけ僕達とトランプでもしませんか?勿論、時間が無いのであれば無理にとは言いませんが、先生達にも少しは気を抜いて貰いたいし。」


 僕がそう言うと、先生は少し嬉しそうに笑った。


「ありがとう三上くん。先生にも気を使ってくれて。でも、一応職務中だからね。遊んでるわけにはいかないわ。お気持ちだけ貰っておきます。」


 ・・・真面目だなぁ。

 やっぱりいい先生だ。


「先生たちに、休憩は無いんですか?」

「そうね・・・葛城さんの言う通り、休憩はあるわよ。というか、今まさにそうではあるけれど・・・」

「あっ!だったら先生!一緒にどうです?少しだけでも!」


 宏美がそう言うと、先生は迷った様子だった。

 

「あ、あの・・・先生。私も、先生と楽しい思い出作りたい、です。」


 梨花が遠慮がちにそう言うと、先生は苦笑し、


「そうね・・・じゃあ、少しだけ、ね?」


 そうウィンクしながら参加を示してくれた。

 ・・・やっぱり美人だなぁ。

 思わず見とれちゃったよ。

 イテッ!?

 桜花にお尻をつねられた!?


「それでは始めましょうか。そうね・・・罰ゲームはさっきのままで良いのかしら?」

「あら?罰ゲーム?どんなのかしら?」


 桜花の質問に、先生が小首を傾げる。

 こういうのも似合うなぁ・・・

 うぐっ!?

 今度は瞳がつねってる!?

 なんで!?


「さっきの通りだと、一番最初に上がった人が、一番最後に負けた人に質問をするとなっています。」

「なるほど・・・学校の成績なんかじゃなければ、良いわよ。」

「では、それでいきましょう。」


 こうして、みんなでトランプをする。

 内容はババ抜き。

 何度かやって、僕はドベを逃れていた。

 そして・・・遂に最後の一回。


「うぐぐ・・・」

「どっちにしよっかな〜・・・こっち!」

「ああ!?」


 宏美が僕の手札から数字の札を取り、残るはジョーカーのみ。

 という事で・・・


「はい、龍馬の負けね。」


 う〜・・・ずっと上手いことドベにならなかったのに!

 はいはい、罰ゲームしますよ〜。


「勝者は葛城さんだったわね。じゃあ、三上くんに質問どうぞ?」

「う〜ん・・・それじゃあね〜・・・あっ!そうだ!あのね龍馬くん?カラオケに行った時に後から来た人達との、本当の関係を教えて?」

「そ、それは・・・」


 うわっ!?

 それはまずい!

 う〜どうしよう?


「あら、それはどんな事なの?」

「それはですね先生。二年生クラスの打ち上げの時に、クラス全員でカラオケに行った時、後から桜花ちゃんと凄く綺麗な女の人たちが、龍馬くんを連れ去ったんです。それで、関係性を桜花ちゃんに聞いたんだけどはぐらかされちゃって。」

「ああ・・・噂の。」


 ええっ!?

 先生たちも知ってるの!?


「・・・先生方にもそういう噂は届いているのでしょうか?」


 桜花が難しそうな顔をして言う。

 先生は少し考えた後、桜花に対し口を開く。


「・・・そうね。確かに、生徒間の噂話は教師にも届くことがありますよ。三上くんのその噂もそうです。もっとも、教師の中では笑い話になっていますがね。そんなわけが無いって。」

「・・・そう、ですか。」


 桜花は少し苦しそうな顔をした。

 ・・・もしかしたら、あの場にみんなで現れた事に責任を感じているのかもしれない。

 ・・・駄目だ。

 僕はこの関係が出来た時、みんなを守るって決めたんだ。

 だったら、悪者は僕だけでいい。


「・・・桜花、良いよ気にしなくて。」

「・・・龍馬・・・」


 僕は桜花の頭を撫でる。

 先生や瞳達は、いきなり僕が桜花の頭を撫でた事に驚いていた。


「瞳、正直に言うよ。その人たちは、僕と付き合っている。勿論、桜花もだけどね。軽蔑した?」


 僕がそう言うと、桜花以外のみんなは驚いていた。

 多分、正直に言うとは思わなかったんだろうね。

 もっとも、婚約者だとは流石に言えないけれど。

 向こうとこっちじゃ法律が違うしね。


「・・・ん〜ん。まさか、認めるとは思わなかったから。それに軽蔑はしないよ?ねぇ?」

「そうだね〜。あれ見て無関係だとはとても思えないし、それに、あの感じだと、龍馬っちからそういう関係迫ったって言うより、押し切られた感じがするしね〜?」

  

 宏美鋭いな・・・


「そ、それに・・・龍馬くんは魅力的だから・・・気持ちもわかるもん・・・とっても。」


 梨花の言葉に驚く。

 み、魅力的?

 僕が?

 その辺の普通の高校生と変わらないと思うんだけど・・・


「僕なんか、とてもそんな風に言ってもらえる人間だと思わないけど、ありがとねそんな風に言ってくれて。正直、ドン引きされると思ってたし。」


 僕が苦笑しながらそう言うと、みんなは首を振る。

 そこに、嘘はなさそうだった。

 でも、先生は難しい顔をしている。


「・・・三上くん。私は教師として、生徒を正しい道に導く必要があるわ。あなたのその関係は、公序良俗に反するものであると思うのだけれど・・・でも、廻里さんの感じを見ると、そうとも思えないのよね。廻里さん、あなたはどう考えているの?」


 先生は、一方的に話すのでは無く、ちゃんと受け止めようとしていた。

 つくづくいい先生だね、ホント。


「・・・私は・・・私達は、仲間です。とても大事な仲間なんです。誰かが欠けたりしたら身を引き裂かれる位に大事なんです。だから、今のコミュニティを築き上げたと言っても過言ではありません。どちらかと言えば、龍馬は反対していました。だから、悪いのは、押し切った私達・・・」

「桜花、それは違う。」


 僕は桜花の言葉を遮った。

 桜花達は悪くない。

 悪いのは、気の多い僕の方だ。


「先生、僕達の関係は普通じゃない。それは分かっています。確かに、最初は押し切られるような感じだったかもしれないけれど、最終的に決断したのは僕なんです。だから、悪いのはみんなでは無く僕なんです。もし、先生が嫌悪感を覚えるのであれば、決断した僕にして下さい。瞳たちもね。桜花は悪くありません。お願いします。」


 僕は真剣に先生や瞳達にそう言った後、頭を下げた。

 みんなは固まっていた。

 誰も言葉を発しない。

 僕はこっそり顔を見る。


 ・・・あれ?なんかみんな頬が赤くなってるような・・・


「はっ!?あ、み、三上くん!?頭を上げてくれるかしら?その・・・わかったわ!あなた達が納得しているのならそれで良いのよ?私も学校には言いませんし、誰にも言いません。」

「あ、ありがとうございます!」

「い、いえ(あんな真剣な顔して・・・本当に高校生?普通に大人の男性に見えたわね・・・三上くんが女子に人気があるのもわかるわ・・・私も学生だったらやばかったかも・・・それにしてもカッコよかったわね・・・こんな人と付き合いたい・・・はっ!?私は何を考えているの!?)」


 良かった!

 先生にわかって貰えた!!

 でも、なんか焦ってるか感じだけど・・・

 そう言えば瞳達はどうだろう?

 僕は瞳達を見る。


「・・・(ヤバい・・・ヤバいわ・・・龍馬くんの真剣な顔カッコよすぎ・・・あれ、桜花ちゃんの為に、自分が悪者になろうとしたのよね?なんて優しい・・・ああ・・・好きぃ・・・大好き・・・)」

「・・・(嘘でしょ?私達に軽蔑されても桜花ちゃんを守ろうとしたの?先生もいて、内申が下がったり、下手したら退学になったかもしれないのに・・・は〜、駄目だ・・・これ完全に好きになっちゃった。あ〜あ・・・他人事だったから面白かったのになぁ・・・)」

「・・・(龍馬くん・・・龍馬くん・・・ああ・・・やっぱり素敵…龍馬くん・・・こそっと迫ってくれないかなぁ…)」


 なんだかポーっとしてる?

 なんだろう?

 なんか段々にじり寄って来てるような・・・


「あの・・・みんな?」

「「「はっ!?」」」

 

 あ、目の焦点があった。


「あ、き、気にしてないよ!?むしろ好都合・・・」

「え?好都合?」


 瞳の言葉に目が点になる。

 何が好都合なんだろう?

 しかし、瞳はすぐに手を振りながら口を開いた。


「あ、あ、なんでもない!なんでもないよ!?」

「そうそう!瞳ちゃんの言う通り!別に軽蔑もしないよ〜?むしろ、その人達と話てみたくなっちゃったかな〜?」

「そ、そうだね。ねぇ龍馬くん・・・一度会ってみたいんだけど・・・駄目、かな?」


 瞳達の言葉にホッとしつつも、その申し出について考える。

 どうしよう・・・

 僕は桜花を見る。

 すると、桜花は苦笑しながら、


「・・・まぁ、良いんじゃない?リディア達も、こっちの人たちと話してみたいって言ってたしね。」


 そっか・・・それなら・・・


「あ、三上くん、廻里さん、その・・・教師として、私も同席させて頂いても良いかしら?」

「えっ?先生もですか?」


 僕が驚いてそう言うと、先生は咳払いをした。


「んんっ!その・・・教師として、どんな方たちかは気になるというか・・・一応大事な教え子である、あなたの信頼を勝ち取っている人達に、興味があると言うか・・・」


 ・・・凄いなぁ。

 多分、会うとしたら休みの日になるだろうけど、先生はプライベートでも生徒の事を考えているんだね。


「わかりました。良いよね桜花?」

「はぁ、そうね。良いわよ別に・・・でも、先生?一言だけ良いかしら?」

「何でしょう廻里さん?」

「私は、年齢は気にしません。中には私よりもずっと年上もいますので。ですが、瞳達にも言いましたが、協力はしませんので、もし、ご自分の力で頑張って下さいね?」

「っ!?な、何の事かわかりませんが、気に留めておきます。」

「・・・先生も、か〜。」

「まぁまぁ瞳ちゃん・・・あたしは小森先生良い人だと思うよ〜?」

「う、うん。私も宏美ちゃんの言う通りだと思うよ?」


 ・・・なんの事?

 ねぇ、女性陣だけでなんの話ししてるの?

 全然わからないんだけど・・・

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