第300話 希望

 身なりが立派な50代位の男性が語り始めた。


『儂は、セレスティア王国国王ディバイド・クレスト・ベン・ハー・セレスティアである。この世界に生きる全ての者よ。耳を貸して欲しい。』

 

 続いて、30代位の美しい女性が話す。


『わたくしはネモス小国女王アネモネ・クレイ・ディア・ネモスです。今起きている事は、先日あった、教会の事件に連なるものです。どうか落ち着いて下さい。』


 次は、壮年な男性だ。


『私はネメ共和国大統領セルヴァン・アンタレスだ。こんな事が起きて混乱していると思う。だけど私達はこの事態を予想していた。今から全てを話す。聞いてほしい。』


 珍しい格好をした、50代の位の男性も口を開く。


『儂は火の元の国の王ツカサ・カドタニだ。今回の件、全ては偽神ヴァリスが仕組んだものだ。ヴァリスは、セレス様を封印し、自らが唯一神となり、この世に生きる全ての者を、いじくりまわして人を超えさせようとしておったのだ。それを止めたのが前日の教会の事件だ。』


 次に話す者は、耳の尖った歳を取った男性だった。


『儂はエルフ族族長のエヴァンテスじゃ。ヴァリスは以前にも、セレス様の名を勝手に使い、神託として魔神と呼ばれた者を世界の敵と定め、殺させた。全てが狂ったのはそこからじゃ。儂は良く知っておる。何せ、1000年前、儂が小僧じゃった時の事じゃからの。』


 その男性は、角と羽があり、一見若く見えた。


『我は王竜グレイガルムだ。人の姿をしておるが、我は竜である。ほれ、この通り。』


 男性の腕が竜の腕に変わる。


『何せ、本来の姿は巨大すぎて、写りきらぬからな。この姿で話す。我もエヴァンテスと同じく、ヴァリスが暗躍した時に生きていた。あやつは罪も無い、魔神と呼ばれたジード殿を、自分を脅かすかもしれぬと言う理由だけで、その時を生きる者たちに多大な犠牲をださせて殺しよった。その後は、少しづつ教会を乗っ取り、セレス殿を崇める教会を、自分を崇めるモノへと作り変えていった。全ては奴の欲望の為にだ。しかし、奴の計画は、先日潰された。ヴァリスに協力していた前教皇と共にな。』


 その後を、神聖な格好をした高齢の男性が引き継いだ。


『現教皇のレアルです。私が教皇を引継、内部調査をしていた所、それを裏付けるものが多数出てきました。皆様、それが真実です。偽神ヴァリスは、生きるものの命など考えず、命を搾取する者です。突然こんなことを言われても戸惑うでしょう。』


 事実、民衆は混乱した。

 何せ、自国の王や他国の王、はたまた、多種族までいる始末だ。

 混乱しないわけがない。

 しかし、混乱は更に大きくなる。


『しかし、我々には証明する手段がある。』


 そう言って、レアルは隣にいる、蒼髪の人のものとは思えないほどの美しい女性に頭を下げる。

 

『セレス様、お願い致します。』


 その瞬間、世界中の人々が目を見開いた。


「セレス・・・様?」

「お、おい・・・本物なのか?」

「いや・・・でも・・・見るからに神々しい・・・」

「・・・美しい・・・」


 世界の人々はざわめく。

 それもそうだろう。

 何せ、神が姿を現しているのだから。


『みなさん。はじめまして。私はセレス。この世界の管理者です。突然このような事を言われても信じられないでしょう。ですから、まずは私がこの世界の管理者である事を証明致しましょう。この世界の全ての花よ!咲き誇りなさい!!』


 その瞬間、世界中の花・・・季節を問わず、全ての花が咲いた。


「奇跡だ・・・」

「本物だ・・・」


 季節を問わず咲き誇る花々・・・これを神の奇跡と言わずなんと言うのか! 


『これで信じていただけたでしょうか。まずは皆様にお詫びを。同僚であるヴァリスが、ご迷惑をかけました。私がヴァリスに封印された事が全ての始まりでした。その後の教会の所業は全て知っています。とても許される事ではありません。ですが、全ての咎は、ヴァリスと私にあります。現教皇のレアルや、清く正しい信者に責はありません。』


 セレスは心苦しそうに話す。


『今現在、ヴァリスは、己の欲望のまま、この世界を破壊し、作り変えようとしています。それが空の亀裂なのです。そして、それは私には止められません。』


「そ・・・そんな・・・」

「終わりだ・・・」

 

 世界中の人がその言葉に絶望する。


『しかし、それを止めようと戦っている者達がいます。一人は、以前ヴァリスの計略に嵌り殺された、魔神と呼ばれた魔族のジード。彼は、私と同じく蘇り、今は、世界の崩壊を防ぐために、力を奮っています。みなさんも確認できる筈です。空の亀裂は止まっているでしょう?』


「ほ、本当だ・・・」

「止まっている・・・」


『そして、ヴァリスの兵であるモノと戦う者達、その者たちは、この世界における、Sランクと呼ばれる冒険者の力を遥かに越える者たちです。・・・今は名前を伏せておきます。』


「Sランクを遥かに越える・・・まさか!?」

 

 その者達に心当たりがあった、セレスティア王国の冒険者ギルドの幹部達は息を飲む。

 かってSランク冒険者を軽々と打ち破り、その仲間もあっという間にSをランクに至った冒険者パーティ。


『そして、最後に、ヴァリスを討つ者。これは、その者たちのリーダーで、とても頼りがいのある方です。この方が、私やジードの封印を解いてくれたのです。言わば、救世主でしょうね。』


「・・・まさか・・・」


 Sランク冒険者で花弁騎士団のリーダーのフィルの脳裏に、一人の男の子の姿が浮かぶ。

 Sランクである自分がまったく勝てるイメージの沸かない人物。

 その者達のリーダー。


『みなさん。彼が敗れれば、我々の世界は消滅します。しかし、諦めないで下さい。彼はきっとヴァリスを討ちこの世界を救ってくれるでしょう。皆さんに出来ることは一つです。混乱せず、祈って下さい。私にではなく、今も戦っているみなさんの為に。困り事があれば、国の兵士に頼って下さい。この日の為に、各国の王達は、民衆が傷つくことが無いよう、厳戒態勢をとっています。問題が起こった時には、すぐに兵士に願い出て下さい。』


 セレスはそう言った後、手を前で組み、祈るように目を閉じた。


『最後に、彼らは我々の希望です。どうかみなさんもその無事を祈って下さい。』


 そして、映像は途絶える。

 

 世界中の人々は、その場で祈る。

 どうか、この世界が救われますように、と

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