第285話 ヴァリス
「面白いものを見せてもらった。」
ヴァリスはそう声を響かせた。
「そして、その実験動物は頂いていくぞ。」
ヴァリスが手を振ると、黒瀬の遺体は消える。
何をしたんだ?
「お前がヴァリスか。」
「不快だぞ人間。我は神であるぞ。」
僕は鼻で笑う。
「何が神だ。ただの管理者の癖に。それに、お前よりしっかりと世界を管理していたセレス様を封印して、この世界を自分のモノとして、
乗ってこい!
今ここで決着をつけてやる。
しかし、ヴァリスは落ち着いた声だ。
「騙されたセレスが間抜けなのだ。しかし人間、貴様それをどこで知った?答えよ。」
「言うわけ無いだろ。知りたかったら力づくでやってみろ。」
「・・・興味深いがやめておこう。先程の力・・・負けはしないだろうが驚異だ。万が一があってはならんしな。」
くっ・・・乗ってこないか。
「ふ〜ん・・・あっそう。でもどうするの?依然、この世界はセレス様を信仰する人で溢れているよ。さっきの黒瀬の事もあって、お前を信仰する真神教徒は駆逐されるだろうし。」
「別に構わん。」
「えっ?」
「別に構わんと言ったのだ。人間、貴様の寿命はどれくらいだ?後50年か?100年か?永きを生きる我にとっては瞬きほどの時間だ。今更危険を犯してまで無理をする気もない。貴様が死んでから動けばいい。黒瀬ほど短絡的でもない。挑発は無駄だ。虫が何を言った所で気にならぬ。」
くそ・・・駄目か・・・
僕は臨戦体勢をとる。
しかし、ヴァリスは、
「無駄だ。貴様の攻撃より、我がここを去る方が早い。それに一つ手を思いついた。」
「・・・なんだ?」
「うむ。この世界を一度リセットすれば良い。そして、再度我が作り直せばいいのだ。今度は我を唯一神としてな。」
「なんだって!?」
「今思いついたのだ。この黒瀬の死体にある因子・・・魔狂薬と神力、異世界人の身体、それを端末として利用すれば、この世界を作り出した装置に干渉できそうだ。」
まずい!
僕はヴァリスに向かって対神砲を放とうとした。
「残念だがもう遅い。さらばだ人間。」
ヴァリスは空間に溶けるように消えた。
くそっ!逃げられたか!
桜花やリディア達が走り寄って来る。
「どうします?このままではこの世界は・・・」
「ええ、リセットされてしまうわ。」
僕は考えた・・・しかし、すぐにいい考えは浮かばない。
どうする?
周りでは、色々な人が混乱の中にある。
しかし、その中で、一人質素な祭服を来た古希を越えているであろう男性が近寄ってきた。
「申しわけございません。何が起きていたのかお教え願えないでしょうか?」
「あなたは?」
「私は、セレス教の元枢機卿のレアルでございます。今の教皇様に変わられた時、元教皇様と共に、退いた者でございます。今の教会のあり方に不安を覚えて、教会からは離れており、孤児院を経営しておりました。」
元枢機卿か・・・僕はちらりとリディアを見ると、リディアは頷いた。
どうやら嘘は言っていないようだ。
「レアル様!?」
「あなたは・・・おお、確かカエラさんでしたね。お久しぶりでございます。」
「カエラさん、知っているの?」
「はい。この方は教会の中でも、取り分け清貧を旨とされている方で、信仰心もとても厚い方です。」
そうか。
なら丁度良いかもしれない。
僕は、ストレージから、椅子を人数分取り出した。
「長い話になります。聞いて頂けますか?」
「是非お願いいたします。ああ、そうそう、少しお待ちいただけますかな?」
そう言って、レアルさんは民衆に近づく。
「私はレアル。元枢機卿です。今から、こちらの方々に事情を教えて頂きます。皆様は、一度離れていただけないでしょうか?そうですね・・・次の鐘が鳴ったら、もう一度ここに来て頂けますか?」
レアルさんがそう言うと、民衆や騎士、シスター達は、「レアル様が言うなら仕方がない」と、それぞれ離れてくれた。
どうやら、人望も厚いようだ。
僕たちは、今までの経緯と、僕たちの正体を全て話した。
レアルさんは神妙そうに聞いていたけれど、セレス様が封印されていた事や、裏に先程のヴァリスがいた事、今の教会と、教皇が、ヴァリスの庇護下にあり、好き放題していた事を話すと、震えながら涙を流し、手を強く握りしめて、
「・・・おいたわしやセレス様。それに教会がそのような状態に・・・なんという事だ・・・」
と、心を痛めていた。
そして、核心である、世界のリセットについて話すと、無言で俯いた。
どうも、何かを考え込んでいるらしい。
しかし、意を決して顔を上げると、僕の目をまっすぐ見て、
「リョウマ様、お話したいことがあります。その為には、大聖堂の祭壇の地下に行く必要があります。」
と言った。
祭壇・・・地下か。
僕は瓦礫の山を見る。
片付けるか・・・
僕がため息をついた時、桜花が、
「何言ってるのよ。祭壇があった付近の瓦礫を、ストレージに入れてしまえばいいじゃないの。」
あ、そうか!
流石桜花!頭いい!!
「あなたが抜けているのよ。」
ぐむむ!
僕はすぐに片付けを始めた。
祭壇があったところの床板を外すと、そこには偽装された扉があった。
レアルさんの案内で、地下に進む。
すると、そこには古ぼけた祭壇があり、鈍い青色に輝く水晶があった。
レアルさんは、その水晶に目線を送りながら、
「あれは、教会の大司教以上にしか伝わっていないものです。しかし、本来明かされるのは、3年以上その立場に立って経験を積んだ者のみとなっていました。おそらく、現在の教会には、誰も知るものはいなかったでしょう。何せ祭壇を動かすことはありませんでしたから。」
なるほど。
黒瀬達は、今の立場になってすぐに、前教皇や大司教を、軒並み始末しちゃってたからね。
「正直、何が修められているのかはわかりませんでした。それに、触れるなとの申し送りもありましたから。ただ、先程のセレス様のお話をお聞きし、もしや・・・と思いまして。」
ふむ。
僕は、魔力感知や、鑑定なんかも利用して、青い水晶からどのような力が放たれているかを確認する。
すると、驚くべきことがわかった。
「この水晶から、力を奪い、教会の結界が保持されている。」
「本当ですか!?それは神の奇跡だと言われていたのですが・・・」
レアルさんは驚愕していた。
嘘で塗り固められていたんだね・・・ヴァリスによって。
青い水晶からは静謐な力が流れている。
絶対に悪いものではないね。
よし、封印を解いてみよう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます