第277話 聖女という名の人形 sideリディア

「私は聖女ナイ。教皇様の命により、あなた方を拘束させて頂きます。」


 その女の人はそう言って魔力を噴出させてきました。

 ・・・いえ、これは・・・魔力以外にも何か・・・

 よくナイという女性を見ると、金色に輝く何かが溢れ出ています。

 

「貴方は聖女と言いましたね。あのような事を言う教皇に従うのですか?」

「私は造物主様により、教皇様に従うよう指示をされました。」


 淡々とそう言う聖女。

 あまりに意思というのもが感じられません。


「リディアちゃん。あいつ普通じゃないぞ。気をつけよう。」

「ええ、わかっています。」


 騎士の方は、エルマとシエイラ、メイちゃん、エスメラルダ、カエラさん達に任せてあります。

 エルマ達は圧倒しているし、カエラさん達はうまく連携を取っているので問題なさそうです。

 私はこちらに集中しましょう。


 私は詠唱を開始します。

 無詠唱でもいいのですが、やはり詠唱したほうが威力はあがります。

 生半可な攻撃をするよりも、威力重視で一気に決めたい、そう思わせる不気味さがこの女性にはあります。


 牽制のため、グレイスが飛び込みます。


「オーラブレード モードヘヴィ!」


 魔力を乗せた剣で思い切り振りかぶって攻撃します。

 

 バチィ!!!

 

 しかし、その攻撃は、聖女の障壁に阻まれました。

 グレイスの攻撃を防ぐほどの障壁・・・侮れません。


「まだまだ!リュース流剣術『デュアルトラスト』!」


 高速の二連突きです。

 障壁は撓みたわみました。

 聖女は顔色一つ変えず避けようともしません。


「オーラブレード モードヒュージ!リュース流剣術『ビーサラウンド』!」


 グレイスの連撃が始まりました。

 凄まじい剣速で、大量の蜂が聖女を囲い込むかの如く、攻撃を繰り返します。

 その様子を観察していると、聖女の張った障壁が、徐々に狭まっていくように見えました。

 そして、ついに障壁を越え、数カ所の切創を聖女に刻みます。

 ・・・まったく焦りは見受けられませんね。

 それに・・・血が流れていない?

 人間ではないのでしょうか?

 聖女は最初と同じ様に、右手を前にかざしたままです。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 グレイスが裂帛の気合で剣を引き、突きの構えを見せた瞬間、聖女は動きました。


「Laaaaaaaaaaaaaaaaa!!」


 聖女の声がその場に響き渡ります。

 その瞬間、聖女を中心に凄まじい衝撃が周囲を襲いました。


「ぐぁっ!?」


 グレイスはその衝撃で吹き飛ばされます。

 こうしてはおれません!!

 援護しなければ!


 急いで詠唱を完成させ、聖女に放ちます。


「嵐魔法『ストームボルテクス』!!」


 私の放った、ダブルキャストの嵐魔法による、水と風の狂乱が聖女に襲いかかります。


「Laaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」


 聖女の声は、私の放った魔法を跳ね除け続け、しのぎきっていました。

 まさか、ダブルキャストですらノーダメージなんて・・・やはり強敵です。

 

「Luoooooooooooooooo!!」


 すると、聖女はまた違った発音で声を張り上げます。

 聖女の周りに、光り輝く多数の剣が現れ、高速でこちらに飛来しました。

 私は魔力で障壁を張りました。


 ゾンッ!!


 一瞬で貫通した!?

 私は身をよじって躱しましたが、何度か掠って肌を切ってしまいます。

 しかもまだ飛んでくる剣は多数です。

 

「リディアちゃん!!」


 グレイスが立ちはだかり、剣を切り落として行きます。

 ・・・どうやら魔力を無干渉にするようです。

 その証拠に、迎撃の為に放ったサンダースピアが、光の剣に接触した瞬間に霧散していきます。

 ・・・これは強敵ですね。


「リディア、グレイス大丈夫ですか!?」


 こちらの様子を見たエスメラルダが、加勢に来てくれました。

 正直助かりました。

 

「何人来ても同じことです。私の『歌』の前には無力です。おとなしく拘束を受け入れなさい。」


 そう言って、こちらを見る聖女が、また声をあげようと口を開きかけた瞬間、グレイスが高速で飛び込みました。

 アイシャのスピードに対抗するため鍛え上げた『縮地』です。


「何度もやらせるか!リュース流剣術奥義『サウザンドトラスト』!!」


 ガガガガガガガガガ!!!


 グレイスの凄まじい連続の突きが、障壁を削り取り聖女にまで届きます。

 

 ズがガガガがガガガ!!!

 

 直撃した聖女は吹き飛ばされました。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」


 奥義と言うだけはあり、グレイスはかなり消耗した様子です。

 しかし、聖女は何事も無かったように立ち上がりました。

 着用していたシスター服は、見るも無残に破れていますが、その肌には当たった跡は残っていても、血が流れていません。

 なんなんですかあれは!?


「無駄です。私は神が作りしモノ。その程度で活動を停止することはありません。

「くっ・・・化け物め・・・」


 聖女がグレイスに手を向けます。

 

「させませんわ!!」


 エスメラルダが聖女に横合いから突っ込み、顔面を殴りつけます。

 エスメラルダは、正体が竜種なだけあって、腕力だけならリョウマさんにも迫るほどです。

 しかし、聖女は仰け反りはするものの、出血やアザ等はありません。


「ああああああああああ!!」


 エスメラルダはそのまま殴り続けます。

 聖女は、殴りつけるエスメラルダの腕を掴みました。

 そして、無造作に振り回しはじめました。


 地面に何度も打ち付けられるエスメラルダ。

 最後に壁に思い切り叩きつけられます。


「がはっ・・・」


 エスメラルダが吐血します。


「くっ!?エスメラルダ!!おおおおおおっ!」


 グレイスがエスメラルダを助けるために、また飛び込みました。

 私は考えます。

 私には物理攻撃力は、あの二人ほどありません。

 魔法師である私に出来ることは、考えて状況の打開のための一手を見つけること。


 徐々に傷が増えていく二人を見て、助けに行きたくなる気持ちを、歯を食いしばって耐えます。

 口からは食いしばり過ぎて、血が流れてしまいましたが、知ったことではありません。

 考えるのですリディア!私に出来ること!考えろ!!考えろ!


 その時、天啓を得ました。

 『真実の眼』!

 私は煌々と輝いているであろう両眼で聖女を凝視します。


 やはり!!


 次で勝負を掛けます!!

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