第271話 大聖堂の中で side桜花

 私達はシスターの案内で大聖堂を進む。

 ちらりと周りの様子を伺うと、所々に騎士が配置され、こちらを目で追っているのがわかる。

 ・・・果たしてこれは、私達を警戒してなのか、ただの警備としてなのか・・・


 奥まで進むと、一際広い空間に出る。

 正面奥は、少し段差があり、床よりも高くなっていた。

 一番奥には大きな女神像があり、何かを求めているようにも、苦しんでいるようにも見える。

 その手前には、祭壇が設置されていた。

 祭壇の奥には、若い男性が立っている。

 

 祭壇を降りたところの脇に、豪華な鎧をつけた壮年の男性がいるけど・・・何か険しい表情でこちらを見ているわね。

 多分こいつは敵ね。


 私が中央を過ぎた所で、シスターは止まり、それに合わせて私達も止まる。

 シスターは一礼して部屋から出ていった。


「ようこそ、大聖堂へ。私は大司教の一人シギャク。勇者よ歓迎します。」


 男の見た目は整っていて笑顔ね。

 でも・・・何かしら。

 凄く胡散臭い笑顔に見えるわね。

 

「こんにちは。私は勇者ではないわ。只の桜花よ。」

「ご謙遜を。かの帝国に喚び出された異世界の方。」

「そうね。喚び出されたわ。頼んでもいないのに勝手にね。」

「おや、中々に手厳しい。」

「そんな事より、わざわざ用事があって呼びつけたのでしょう?要件を言って頂戴。早く返りたいのよ。」

「おい!貴様小娘の分際で、大司教様になんという口の聞き方をするのだ!!」


 そこで、豪勢な鎧の男が怒鳴って来た。

 しかし、ここは無視ね。


「で?要件は?」

「舐めているのか!今吾輩が話しているだろうが!!」

 

 男は更にがなりたてる。

 でも無視ね。


「要件が無いなら帰るわ。もう二度と来ないけど。」

「貴様ー!!」

「さっきからうるさいわね。名乗りもしない人と話す気はないわ。黙っててくれるかしら?知らない人と話す趣味は無いの。」


 そこで初めて目を合わせると、その男は顔を真っ赤にして睨みつけてきていた。


「吾輩を誰だと思っているのだ!吾輩はセレス教の・・・」

「だから知らないって言ってるじゃない。何度も同じことを言わせないで。」

「〜〜〜!!」


 男は、こちらに剣を抜いて斬りかかろうとした。

 私が身構えると、


「ゴンゾ騎士長待ちなさい。」


 と、シギャクが男を止めた。

 男はシギャクに振り向き、


「大司教様!この小娘は、こともあろうにこの吾輩に向かって!」

「ゴンゾ騎士長。私は待てと言ったのだ。」


 シギャクが威圧混じりにそう言った瞬間、男は動きを止め、


「・・・わかりました。」


と口にした。


 ふ〜ん・・・関係性は完全にシギャクの方が上みたいね。

 大司教・・・あのペインと同じ立場か。

 強さも同じであれば・・・今の私がどこまで通じるのか・・・

 さっきの威圧もかなりのものだったしね。


「勇者よ。あまり、騎士長を刺激しないで頂けますか。」

「最初に言っておくわ。私は、セレス様の事は信仰していないにしろ、敬ってはいるつもりよ。でも、教会に忠誠を誓っているわけではないわ。」

「と、言いますと?」

「帝国である程度知識は学んだし、帝国を出てからも常識を勉強したの。その中で、セレス様の教えと、あなた方の立ち位置はあまりにも違いすぎている。そんなあなた方教会に使われるつもりも、配慮するつもりもないわ。」


 私がそう言い放つと、シギャクは一瞬眉を潜めた。


「・・・なんの事です?何か誤解があるのでは?」

「別に追求するつもりは無いわ。私が知っていれば良いことだもの。でも、強いて言えば、あの薬はいただけないわね。力と引き換えにあんなに殺意を増幅する薬をセレス様が広めるとは思えない。少なくとも私が知っているセレス様は、ね。」


 そこで、シギャクはわかりやすく表情を変えた。

 訝しむようなものへと。


「何を知っている?」

「話すつもりはないわ。要件はそれで終わり?じゃあ帰るわね。」

「帰らせると思っているのか?」

「あら?地が出ているわよ、エセ紳士さん。」


 シギャクはそこで、カエラさん達を見る。


「カエラ・セリン。五剣姫を率いて勇者を止めろ。彼女は異端の可能性がある。情報を引き出すために、ある程度痛めつけても構わん。ゴンゾ、お前もだ。」

「はっ!了解であります!小娘、先程の態度が二度と取れぬようにしてやる。」


 ゴンゾという男は嫌らしく顔を歪めた。

 私はカエラさんを見る。


「どう?カエラさん。これが真実の一端よ。」

「・・・そう、ですね。真に悲しいですが・・・これが真実なのですね。真摯に受け止めましょう。」


 カエラさんは、そう言って悲しそうにした。

 しかし、すぐに意を決した顔をし、


「私、カエラ・セリンはその指示には従えません!!」


とシギャクに言い放つ。


「なんだと?」


 シギャクはいらただしげに問いただす。

 

「今の教会は、私の信仰する、セレス様の教えのあり方にはとても思えません。私は勇者オウカにつきます。」


 カエラさんは毅然とそう言った。

 カエラさんに合わせて、レーナやグレイスやウルトさん、オリビアさん、キリアさんも戦闘準備に移行した。

 シギャクは舌打ちを一つし、


「・・・まぁいい。教皇様は貴様らもご所望のようだ。ここは少し調教を手伝うとするか。ゴンゾ!」

「は!!者共!!勇者と五剣姫共が乱心した!!取り押さえよ!多少痛めつけても構わん!祝福を持って全力を出せ!!」


 ゴンゾの叫びで、騎士が次々現れる。

 

『龍馬!大聖堂で戦闘が始まるわ!教皇はいないけど大司教はいる!準備して!』

『了解!気をつけてよ!やばくなったらすぐに呼んでよ!』

『分かってる!その時は頼むわね!』


 私は龍馬に教えて貰った念話で合図を送った。

 まずは、私達だけで様子見。

 教皇が出てきたら龍馬も参戦する。

 絶対逃さない!

 ここで、終わらせるんだから!!

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