第265話 五剣姫筆頭カエラ・セリン

「はじめまして。五剣姫筆頭のカエラ・セリンと申します。」


 そんな挨拶から始まったカエラ氏との会話。

 予想通り、カエラ氏達は、早朝にホームを訪問してきた。


 総勢、30名位だ。

 その中には、先日追い払った騎士たちもいた。

 奴らは、ニヤニヤとしてこちらを見ている。

 感じ悪いなあ・・・


 カエラ氏は更に口を開く。


「教皇様の命により、勇者桜花には、協会本部があるリヴァレス聖国に同行して頂きます。拒否権はありません。」


 有無を言わさぬそんな言葉に、桜花は答えた。


「ふ〜ん。拒否したらどうなるの?」

「無論、痛い目に合わせて連行します。」

「出来るのかしら?」

「出来ないとでも?」

「そう思っているわ。」

「・・・わかりました。」


 そう言って剣を抜くカエラ氏。

 ちなみに、今この場にいるのは、桜花とレーナ、僕とアイシャとメイちゃん、シエイラ、エスメラルダだけだ。

 リディアとグレイス、ウルト、ガーベラ、エルマは、隠れて様子を伺っている。

 もともと、冒険者ギルドには、教会の人が来た場合、パーティ構成は伝えていいけど、桜花以外の名前は言わないようにして貰っている。

 情報は極力与えないほうが有利だからね。


 桜花は、自前の刀を抜く。


「あら、一人で来るのかしら?どうせなら全員でかかってきたらどう?こちらは私以外手は出さないわよ?」


 そんな桜花の煽りに、他の五剣姫が切れた。


「・・・勇者とか言われて調子に乗っているようね。」

「カエラ様、五剣姫最強の強さを見せてやって下さい!」

「言われずともそうしますよ。」


 カエラ氏が構えた。

 しかし、桜花は動かない。

 不思議に思ったカエラ氏が、桜花に尋ねる。


「来ないのかしら?怖気づいたの?」


 桜花は鼻で笑って言う。


「?格下から来るものでしょう?」

「・・・減らず口を!!」


 カエラ氏が斬りかかる。

 うん、中々早いね。

 出会った頃のグレイスじゃまず勝てない。

 僕と戦った頃のウルトでも無理だ。

 しかし、


「遅いわ。」

「!?」


 桜花はそれを余裕で上回る。

 剣を横薙ぎに振り抜いたカエラ氏の後ろを既に取り、刀を突きつけている。

 その状況に、カエラ氏は勿論、他の五剣姫や、騎士たちも驚愕していた。


 桜花は刀を下ろす。


「油断してたんでしょ。仕切り直しましょう。」

「・・・後悔させてやります!」


 今度はカエラ氏は細かく剣を振り、隙を減らして攻撃している。

 桜花は難なく打ち払いって行く。


「何故攻撃しない!!」

「だって、まだ本気じゃないんでしょ」

「っ!!馬鹿に!!」

「ほら、あなた達も見てるだけでいいの?かかって来なさいよ。」

「お前!」

「切る!!」


 そこからは、桜花対三人の戦いになる。

 しかし、桜花は危うげなく対応している。

 ここまでは予定通りだ。


「そろそろ終わらせていいかしら?」

「・・・はぁ・・・はぁ・・・」

「・・・嘘・・・でしょ・・・?」

「・・・五剣姫・・・三人いて・・・子供扱い・・・なんて・・・これが勇者・・・」


 余裕な桜花と、息も絶え絶えな三人。

 カエラ氏が意を決した表情になる。


「こうなったら・・・神の御力を!」


 カエラ氏が小瓶を取り出した。

 桜花が顔色を変える。

 グレイスとウルトの予想通りだ。

 カエラ氏は、薬無しで戦うけれど、ピンチになったらプライドよりも、神の意向を優先すると。


 カエラ氏を見て、他二人も薬を取り出し煽る。

 三人の圧力が一気に増す。


 桜花、ここからが本番だぞ!

 頑張れ!!


「流石・・・セレス様の・・・御力・・・?」

「力は増したのはわかりますが・・・なんだか・・・」


 二人の五剣姫が、薬の力に違和感を感じているようだ。

 しかし、一番信仰が厚いカエラ氏は違った。


「確かに違和感はありますが・・・教皇様がセレス様の御意志に反する訳がありません・・・怨敵を切る!」


 その教皇が、セレス様の敵なんだけどね。

 連れて行く、が、切るになっちゃってるし。


 一気に強くなった三人。

 強さだけならフェイルにも迫るかもしれないね。

 実際、桜花も防戦一方だ。

 

「ははは!どうした!」

「さっきまでの威勢が無いぞ!」

「おとなしくセレス様のために切られなさい!」


 あかん・・・完全に魔狂薬の影響にあってるじゃん。

 このままだと桜花は負ける。

 このままなら。


「起きなさい『雪月花』」


 桜花は持っていた刀を、腰に差していた鞘に納め、右手に聖剣を呼び出す。

 桜花の力が増幅されるのがわかる。


「何をしようと同じこと!!」

「あら、そうかしら?」


 桜花は、不用意に飛び込んで来た五剣姫の脇腹を一閃する。


「廻里流剣術『旋風』」


 五剣姫の一人は鎧を破損され吹っ飛んだ。

 そして立ち上がってこない。


「何!?おのれ!!」

「っ!待ちなさい!!」


 カエラ氏の静止も聞かず、もう一人も飛び込んでくる。

 桜花は、剣戟を上手く躱し、相手の突きを誘う。

 

「死ね!」

「残念。廻里流剣術『流転』」

「ぐはっ!?」


 桜花は突きを刀でいなしながら回転し、そのまま横薙ぎにする。

 背後から打たれた五剣姫は、鎧を破損させながら倒れ込み気絶した。


 そう、打たれた、だ。

 桜花は、『桜』を刃引きの形状にし、殺さないようにしていたんだ。


 カエラ氏はそこで初めて躊躇した。


「流石は、勇者、という事かしら。」

「お褒めに預かり光栄ね。ところでまだやるのかしら?」

「・・・私にも剣士としての矜持がある。」

「・・・剣士は安易に薬に頼らないと思うけどね。」

「くっ!!」


 さて、予想ではそろそろ・・・


「者共!神の怨敵を捕縛せよ!!」


 やっぱりな。

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