第258話 二人の気持ち アナの場合

 アナが僕を見た。

 その瞳に映るのは、不安と期待。


 僕はしっかりとアナを見る。


「ご主人様。私は・・・私はこれまでずっとレーナ様に仕えて来ました。そして、レーナ様の苦悩を見てきました。そして、レーナ様は、私を今まで助けてくれてもいました。私はレーナ様を一生支えて行こうと思っています。」


 そう言って一呼吸置くアナ。


「そして、リョウマ様、私はあなたにも助けられました。私の尊敬するレーナ様とオウカ様、そして自分自身、あなたは私にとって物語に出てくる英雄のような方なのです。」

「私もレーナ様と同じ様にご主人様を見てきました。格好いいところ、情けない所、可愛らしいところ、お優しいところ・・・ご主人様は、今まで私が見て来た男性とは何もかもが違いました。」


 「そして私は段々とご主人様に惹かれていきました。ですが、私はご主人様に仕える身。この想いは秘めておこうと思っていました。ですが、ある時、ルーさんに言われました。腹に何かを抱えたまま仕えられたとして、ご主人様がどう思うのか、と。」


 僕が・・・僕は・・・もし、何かを我慢しながらであれば、多分・・・


「考えました。ですが、短い間ですが、私が見てきたご主人様であれば、おそらく私やルーさんのような使用人であっても、我慢するのをお認めにならないのではないかと思いました。」


 うん。

 そうだね。


「それからは、ルーさんによく相談をしていました。そして、ある結論を得ました。それは、私は使用人、そこにはプライドを持っています。私がしたいこと、それはご主人や皆様を支えたいという事。そして・・・その上で、このお気持ちを受け取って頂けたら嬉しい、という事でした。」

「私もルーさんと同じで、奥方という立場は望みません。使用人ではいられなくなります。私はあくまでも、使用人として仕えた上で、皆様を支えたい。私は、レーナ様やオウカ様のように戦えません。ですが、これこそが私の戦いなのです。」


 アナは顔をしっかりとこちらに向けて告げた。


「ご主人さま、いえ、リョウマ様。私は、私達を救ってくれて、生きる希望までくれた貴方を愛しております。奥方という立場は望みません。ですが、このままお仕えさせて下さい。そして、いずれ、ご寵愛を頂けると嬉しいです。これが、私の望みです。」


 ・・・・・・

 僕は考える。

 どうも、事前に二人の話をみんなは聞いて、その上で打ち明けるよう促したようだ。

 となると、みんなは認めていると言うことだ。

 そうすると、大事なことは僕の気持ちになる。


 僕は二人をどう思っているのか。


 レーナは・・・頑張り屋だ。

 それは、日々の訓練を見ていればわかることだし、さっき聞いたレーナの話でもわかることだ。

 それに、気持ちはしっかりと伝わった。

 僕は・・・僕もレーナと話をするのは楽しい、それに、癒やしになっているのも本当の事だ。

 もし、レーナが困っていたら助けてあげたいし、いつも笑顔でいて欲しい。

 一緒にいた期間は確かに短い。

 でも、その期間は、僕も動けないところを助けてもらったこともあって、密度は濃かったと思う。

 僕はレーナを・・・好きかどうかで言えば・・・好きだろう。

 愛せるかどうかは・・・いや、多分、愛せるだろうなぁ・・・

 

 僕の性格上、好意を持って接してくれる人を、嫌いになれるわけがないし、愛情を持って接しられれば、愛情を持つだろう。


 アナも同じだ。

 僕やみんなを支えようと頑張ってくれているのがわかる。

 貪欲に自分の出来ることを向上させようとする姿勢も好ましい。

 そして、好意を打ち明けてくれた。

 はっきり言って、嫌いになれる要素がない。


 間違えちゃいけないのは、みんなが何を望むかではなくて、僕がどう思うかだ。

 僕は・・・レーナとアナも一緒にいたいと思う。

 じゃあ、答えは決まっている。


「僕の答えを話すよ。」


 二人は前のめりになって緊張している。


「僕は・・・二人を受け入れようと思う。正直、まだ愛しているとまでは言えない。でも、言えるようになる、と思う。それくらい、二人の愛情はしっかりとしたものだった。だから、僕とこれからも一緒に居て下さい。お願いします。」


 僕は頭を下げた。

 これは僕のけじめだ。

 責任は二人じゃなくて、受け入れる僕に。


「リョウマ様!ありがとうございます!!ありがとう!」

「ご主人さま!」


 二人は涙を流しながら飛びついて来た。

 僕はしっかりと二人を受け止める。


 少ししてから、みんなの所に戻った。

 さて、みんなに説明しなきゃなぁ・・・

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