第253話 桜花との対話

 僕が目を覚ますと、そこはホームの自室の天井だった。


「戻って来てたのか。」


 僕は、起き上がろうと身体に力を入れると、全身に痛みが走る。

 イテテテ・・・こりゃ起きるのは無理だな。

 僕は、最後の記憶を思い返す。


 ・・・そうだ。

 対神兵装の影響で、暴走していたところを、みんなに助けられたんだ!

 その後、ここに連れてきてくれたんだな・・・

 やっぱり黒水晶が全部集まりきる前に全力を出すのは無理があるか・・・負担が大きすぎる。

 このダメージはおそらく、ジードの魂をつなぎとめようと無理しすぎて、自分の魂にまでダメージを負っているんだろうな・・・


 そんな事を考えていたら、ドアが開いて、ルーさんが入ってきた。


「・・・ルーさんおはよう。」

「リョウマくん!?いえ、ご主人様!!目を覚まされたのですね!良かった!すぐに、皆様を呼んでまいります!」


 そう言って、バタバタと出ていった。

 ・・・別に、リョウマくんで良いのに・・・


 少しすると、ドタバタと音が聞こえる。

 そして、みんなが姿を見せた。


「みんなおは・・・」

「リョウマさん!良かった!!」

「痛ってぇ〜!?」

 

 そしてみんな飛びついてきた!

 僕は痛みで叫び声をあげる。

 まだ、全身バキバキなのだ。


 一通り謝ったり、お礼を言ったりしていると、後ろから桜花が出てきた。

 やっべぇ・・・

 まだ、なんにも考えて無かった・・・

 僕は冷や汗を流す。

 桜花は、腕を組んだまま、冷ややかに口を開いた。


「あら、龍馬、おはよう。良いゴミぶんね。」


 今、御身分がゴミぶんって聞こえたような・・・

 僕は、ごくりと喉を鳴らす。


「皆さん、無事は確認できました。オウカさんとリョウマさんだけにしてあげましょう。積もる話もあるでしょうから。」


 リディアが気を使ってそう言った。

 待って!ちょっと待って!

 この状況で二人きりはきつい!


 桜花は無言で僕の横に、腰を掛ける。

 少しの間、無言が続いた。


 ・・・こうしていても仕方がない。

 覚悟を決めよう。


「桜花、久しぶりだね。身体はもう大丈夫?」


 僕がそう言うと、難しい顔していた桜花が、ぷっと吹き出した。

 なんか変なこと言ったかな?


「この状況で最初に言うのがそれ?変わらないわね龍馬は。ええ、もう大丈夫よ。あれから1ヶ月たっているもの。」

「1ヶ月!?」


 そりゃ、身体が動かない訳だ。


 そして、桜花は帝国の結末を話しだした。

 その結末に対して、僕に異論は無い。

 というか、完全にやりすぎてた気がするし。


 そして、桜花がこの世界に来ることになった状況と、セレス様とのやりとりなんかを聞いた。

 セレス様は桜花を助けてくれてたのか・・・こりゃ、絶対封印解いてあげないとね。


「そういえば、今、この家にレーナと、侍女のアナさんも住まわせて貰っているけど、いいかしら?」

「勿論だよ。友達なんでしょ?」

「ええ、親友ね。アナさんもいい人よ。」


 なら、全然問題ないね。

 そして・・・


「桜花、聞いてもらいたいことがある。」

「・・・何かしら。」


 桜花は正対して真剣な顔をした。


「僕は、この世界に来てから、色々な人に出会った。その中には、今の仲間もいる。」

「リディアさん達のことね。」


 僕は頷く。


「そして、みんなから、好意を寄せられた。僕は最初その好意を拒否した。僕には桜花がいるからってね。でも、みんなは諦めなかった。」


 今度は桜花が頷いた。


「みんなで、色々な苦難を越えてきた。一生懸命努力もした。みんなつらいことを乗り越えてきたんだ。それで僕も・・・好意を持った、持ってしまったんだ。」


 桜花は少しつらそうにした。

 ごめん・・・


「みんなは、僕と結婚したいと言っている。そして僕も・・・そう思えるようになってしまったんだ。勿論、桜花への愛情が薄れたわけじゃない。むしろ、会えなかった事で、更に深まったと言える。でも・・・もう、みんなを蔑ろにできないくらい情も涌いているんだ。」


 僕はもう一度ごくりとつばを飲む。


「桜花!僕は桜花と結婚したい!みんな共だ!もし・・・もし、こんな不誠実な僕を許せないと言うのであれば、見限って貰っても構わない。出来れば僕は、桜花とも一緒になりたい・・・けど、嫌われるのも・・・仕方がないとも思っている。僕たちの価値観は、現代日本のものだから・・・正直、殺されてもしょうがないと思うくらい、酷いことをしているのも分かっている。」


 桜花は顔を伏せているので、表情はわからない。


「桜花!絶対に幸せにするから、僕と結婚して欲しい!そして、みんなとも結婚するのを許して欲しい!わがままなのはわかってる!だから・・・だからお願いします!」


 僕は、そう言い切って、桜花を見続けた。

 これで、桜花に振られたら、その時は、なんとか帰る手段を見つけて、桜花だけでも絶対に無事で帰せるようにしよう。

 この命にかえても。

 殴られても、蹴られても、切られても、甘んじて受けよう。

 

 そう覚悟して待っていると、桜花が顔を上げた。

 その顔には、不思議と怒りの色は、見受けられなかった。


「・・・はぁ〜。いざ言われると、どうなるかと思っていたけど。私も馬鹿ね。最低な事言われているのに、それよりも、プロポーズされた事に、喜びを感じているのだから。仕方がないわね。」

「それって!?」

「た・だ・し!条件があるわ。」

「何?」

「私を正妻にすること!私以外のみんなも幸せにすること!絶対に目的を達成すること!そして・・・もうあんな悲しいことはしないこと・・・」


 桜花はそう言って目に涙を浮かべた。


「ねぇ、龍馬。私悲しかったよ?あんな風に、無実の人を苦しめようと、殺そうとする龍馬なんて、私嫌だよ?だから、もう二度とあんな風にならないで。お願い、お願いよ・・・」


 そう言って覆いかぶさってきた。

 そして、わんわん泣いている。


「私、龍馬が助けに来てくれて、凄く嬉しかった。あのまま、死んでもいいと思うくらい嬉しかった!でも、龍馬があんな風になるのは・・・龍馬の心が傷つくのは耐えられない!だから、もう二度としないで!!」


 桜花・・・

 僕は腕が痛むのも無視して、無理やり腕を動かし桜花を抱きしめる。

 そして、桜花の、僕を想う愛情の深さに涙が出てきた。


「もう・・・もう二度と、自分を捨てるような事はしないよ。ごめんね。そして、許してくれてありがとうね。」

「絶対・・・絶対幸せにしてくれないと許さないからね!龍馬も一緒に幸せになるんだからね!絶対よ!!」

「ああ、わかったよ。必ず約束は守る。」


 僕と桜花は、お互い涙を流しながら口づけをしたのだった。

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