第242話 帝国へ 

 僕たちは、砦の責任者と話をしていた。


「本当に君たちだけで、帝国に行くのだな?」

「はい。」

「・・・わかった。ならばもう何も言わない。君たちの強さなら、生きて帰って来ると信じられるしな。王城には伝令を出しておく。」

「お願いします。それでは。」

「ああ、ご武運を。」


 僕たちは、馬車に乗り込み、帝国王都の方角に向かう。

 途中、シュバルツカッツェに乗り込み、最大船速で移動した。

 方針は変更して、僕たちだけで、本隊を叩いて、時期を見て撤退する予定だ。


 僕はずっと無言だった。

 考えることは桜花の事だけ。

 でも、僕に出来るのは、違っていてくれと願う事だけだった。

 

 桜花がこの世界に来ていて、ひどい目にあっているなんて、考えたくない。

 もっとも、オウカというのが、あの桜花とは限らない。

 いずれにしろ、勇者を救出する必要がある。

 

 早くつけ!


 sideリディア


 砦を出てから3日がたちました。

 今、見る限り、リョウマさんは普通に見えます。

 しかし、砦での膨大な殺気と威圧・・・あまりにも凄すぎて、思わず後ずさってしまいました。

 リョウマさんはあれからずっと無言です。

 

 馬車の中で、うわの空のリョウマ様に気づかれないよう、こっそり皆さんと話した事が思い出されます。


「・・・なぁ、勇者は、あのオウカだと思うか?」

「わからん・・・が、あの時のリョウマは正直恐ろしかった。」

「そうですね・・・迂闊なことを言ったら殺されるかと思いました。リディアちゃん、よく、話しかけられましたね。」

「・・・止めないといけないと思いました。あのままだと、捕虜も皆殺しになると思ったから。だから無理やり口を動かしました。」

「メイも怖くて、震えていました・・・あんな怖いお兄ちゃんを見るのは初めてだったのです・・・」

「リョウマくんが、あそこまで怒るのも、無理はないわね。もしかしたら、恋人かもしれないのだもの。」

「そうでございますね。あれほど強烈な殺気は、初めて感じましたわ。はっきり言って、父様とは比べ物にならないくらいでした。」

「もし、もしだぜ?勇者があのオウカだとしたら・・・」


 皆さんが、ごくりと喉をならした様子が見えます。

 

「おそらく、帝国は地図から消えるでしょうね・・・」

「考えるだけでも恐ろしいが、リョウマには、多分それが出来る。出来てしまう。」

「しかし・・・そうなると・・・」

「ええ、わたくしたちでリョウマ様を止めないと行けませんわね。」

「そうね。愚かな帝国の貴族や、王族が死ぬのはどうでもいいけど、一般人まで死ぬのは見過ごせないわね。」

「メイたちにできるでしょうか・・・」

「出来る出来ねぇじゃねぇ。やらなきゃいけねぇ。じゃねぇと・・・」

「はい。多分、リョウマさんは壊れます。後から、罪の意識に耐えられなくなるでしょう。」

「なら、私達がやることは一つね。」

「はい!己の身に替えても、リョウマ様を止める!」

「リディア、いざとなったら・・・」

「ええ、シエイラも勇気を持つのよ。」


 私達は覚悟を決めます。

 リョウマさんを、物語に出てくるような、魔王にしてはいけない。

 

 私達で止めなくてはいけません!

 

 そして、どうか、勇者があのオウカさんではありませんように。


 

『そろそろ、帝国王都が見えてくる頃合いだ。』


 伝声管から聞こえる、グレイスの声で、私の意識は引き戻されました。

 いよいよ、帝国王都が近いようです。


 私達は、こっそり、お互いの顔を見合わせます。

 みなさん、決意に満ちた顔をしています。


 おそらく、見張り室にいる、グレイス、アイシャ、エスメラルダもそうでしょう。


 帝国の王よ。

 教会の大司教よ。


 どうか、愚かな選択だけはしないで下さい。

 

『見えてきたぞ!帝国軍が進軍している!およそ10万!』


 その言葉に、リョウマさんの目が変わりました。

 シュバルツカッツェを着陸させ、馬車で向かいます。

 接敵はまもなくでしょう。


 今、賽が振られます。

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