第196話 帝国の剣

 僕たちが戦闘を進めて、帝国軍はおよそ半数を切った頃合いかな。

 そうしていると、敵軍を割って男が出てきた。


 男の両脇には騎士が二人いる。

 すると、代表と思われる男が口を開いた。


「貴様がこの甚大な被害を引き起こした男か。ふん!下賤な顔立ちの男だな。冒険者風情が!平民の臭い匂いがプンプンするわ!よくもこれほどの被害を起こしてくれたものだな。どう責任を取る気だ?」


 なんだこいつ?


「だが俺は寛大だ。この帝国の剣と呼ばれる帝国最強の男が今後貴様を使ってやろう!!貴様も嬉しいだろう?勇者よりも強いこの俺に仕えることができるのだからな!!」


 なんかふんぞり返って偉そうにそんな事を言い出した。

 馬鹿じゃないの?


「どうした?嬉しすぎて言葉もないのか?ああ、平民だから言葉を知らぬのか。まあ、良い。この被害はこの後の戦いで穴埋めしてもらう。良いな?」


 良いわけ無いだろ。やっぱり馬鹿だ。

「良いわけ無いだろ。やっぱり馬鹿だ。」


「なんだと!?貴様!!この俺に向かってなんという口の聞き方だ!」


 しまった。

 考えがそのまま口に出ちゃった。

 てへっ。


「やはりやめだ。貴様は惨たらしく殺して、貴様の仲間を引き入れるとしよう。なんでも見た目美しい女だと聞いたしな。使い方はいくらでもあるだろう。」


 はぁ?何いってんのこいつ。

 これでこいつの運命は決まったね。


「勇者は中々の美しさだったが、あれは王から手を出すなと厳命されているからな。そちらで憂さ晴らしをさせてもらお・・・なんの真似だ?」


 僕は指弾で小石を飛ばす。

 男は小石を腕で防いだようだ。

 へ〜・・・中々強いじゃないか。

 僕は頭を振った。


「なんの真似も何も馬鹿を相手にするのも疲れるからね。さっさとかかってこいよ傲慢クソ野郎。」

「・・・殺す。」


 剣を抜いて殺気を飛ばしてくる。

 確かに強いね。

 魔狂薬を使っていないみたいだけど、それでもあのSランクだったゲルムスを圧倒できるくらいには強そうだ。


「やってみれば?無理だと思うけど。」

「っ!!」


 剣を構えて一足飛びに間合い内に切り込んできた。

 僕は最上段から来る唐竹割りを半身になって躱した。

 男はそのまま片手を剣から離し、僕に手の平を向ける。

 

 魔法か・・・いや魔力弾か。

 僕は顔に向けられた手の平から飛び出してくる魔力弾をしゃがんで躱した。

 すると、今度は蹴りが飛んでくる。


 僕はそのまま後方へ飛び退って躱した。

 ・・・やっぱり戦い慣れているな。


「中々良い動きをするじゃないか。驚いたぞ下民。だが逃げているだけとは情けないものだ。」

「僕の方は拍子抜けだけどね。バカ貴族。」

「貴様ぁ!!」


 煽り耐性低いなぁ。

 僕は男が突きを打ったのを確認して、片手でいなしながら懐に潜り込んだ。

 男は一瞬目を見開いたが、冷静に左手に持った剣を横薙ぎににしてきた。

 けど、それじゃ遅いよ。


 僕はまず、震脚で前に出ている男の左足の甲を、僕の右足で踏み抜く。


「っ!?」


 男は顔を顰めたがそのまま剣を振り抜く事を選択したようだ。

 でも甘い。


 足の踏みつけをそのままに、男の剣をもつ左手首を左手で掴み、その左手肘に僕の右肩をぶつけた。


 ボキッ!!


「ガッ!?」

 

 男の骨が折れる音が聞こえる。

 でもまだ終わりじゃない。


 今度は男の左手首をつかんだまま、僕の右手を水平に上げ脇腹に肘打ち、

  ゴンっ!!


 男の鎧に凹みが出来る。

 仕上げはその状態から右手甲で裏拳を顔面に打つ。


  バキィッ!


 男の鼻はへしゃげた。

 鼻が折れたか。


「ウガアァァ!?」


 そのまま踏んでいた足を離し、男のももに僕の膝をぶつけると、男は仰向けにひっくり返った。


 八極拳の大纏崩捶だ。

 僕は鼻を押さえて呻いている男を見下ろし、


「そんなもの?帝国の剣って大した事ないんだね。」


 そのまま止めを刺そうと足を上げた所に・・・殺気!

 後ろから騎士二人が突きを放ってきた!

 僕はそこから前方に飛び距離を取る。


 騎士二人を見ると既に目は赤くなっている。

 これは魔狂薬を使ったか。


「シュエン様!薬を使ってください!」

「時間は稼ぎます!!」


 そう言って僕に飛び込んでくる二人。

 その力はいつかのフェイル司教の側近に伍するだろうね。


 しかし、僕はそのまま切り込んできた騎士の狙い通りに時間を稼がせる気はない。

 騎士たちは微妙に僕の間合いを外して相対している・・・ので、半歩前に踏み込みながらしゃがみ込み、前足を軸にさらに回転し蹴りを打つ。


 前掃腿という蹴りだ。

 騎士の一人には突然消えた様に写ったかもしれない。

 そのまま両足を刈り取られて空中にいる間に、さらに回転し、浮いている騎士の背中を蹴り上げる!

 変則の後掃腿だ。

 

 騎士は背骨を折られながら蹴り上げられ、そのまま落ちてきた所に、止めの踵落としを首に決めた。

 そしてそのままもう一人の騎士を見ると、冷や汗を流しながら後ずさりしている。

 

 目的が時間稼ぎなのに瞬殺されているからね。

 でもだめ。


 僕はその場で大きく足踏みをし、肘打ちをする準備をする。

 騎士の顔が険しくなるが、まだ距離が5メートル位離れているので、届くことはない事から、身構えているだけだ。


 僕は大きく足を踏みつけ、前に飛び込み、着地後、足を滑らせながら騎士の懐に飛び込み、手の平を水平に保ちそのまま肘打ちをした。


 外門頂肘だ。

 予想だにしない間合外からの肘打ちに、騎士は対応できずクリーンヒットした。

 

「ぐふっ・・・な・・・ぜ・・・とどいた・・・?」


 そして騎士は吐血し倒れ付した。

 思い切り頸を流し込んだのでもう息はないだろう。


 僕がやったのは活歩という技術。

 勢いをつけ、遠間から飛び込み、ローラースケートの様に足を滑らせながら攻撃する歩法だ。

 初見で対応するのは難しいだろうね。


「貴様・・・よくも俺の部下を・・・」


 そこで、僕は帝国の剣・・・シュエンって言ってたか。

 シュエンに目を向ける。

 既に怪我は完治し、魔力も増大していた・・・怪我はポーションだとして・・・なんか違和感があるな。

 

 なんだろう?

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