閑話 その頃の桜花(8)

「元気を出してレーナ。」


 私はそう言ってレーナの手を取る。

 そしてこっそり手の平に文字を書く。

 幸い私はもうこの世界の言葉の読み書きが出来る。

 

 レーナの手に『このまま会話を続けて』と書く。

 レーナは、少し驚いた顔をした後、


「うん。ありがとう。」


と言って私の手に『何か話があるの?』と書いた。


 よし、通じてるわね。

 私はまた、レーナの手に文字を書く。


「レーナが元気がないと私も元気が無くなって泣いてしまうわ。」

『レーナ。私はもう少し強くなったら帝国を出るわ。あなたも一緒に行こう?』


 私がそう書くと、レーナは一瞬固くなった。

 そしてこちらを向いた。


「何言っているのオウカ、本気?」


 レーナは真剣に私を見る。


 私は勿論本気だ。

 この国にはいられない。

 この国はおかしいのよ。


 攻めてくると言うわりには態度を改めようとしないとか。

 他の国や人種を見下しているとか。

 普通に考えれば、王国が理不尽に攻めてくるなら、他国に協力を依頼すればいいはず。

 にもかかわらず、すべての国が帝国を攻めていると言っている。

 そんな筈はない。

 王国がそんな外道な国であれば、明日は我が身、帝国に協力して、王国に攻め入るはずだ。

 しかし、そんな様子は無い。

 と、すると、考えられるのは・・・その逆。


 帝国が理不尽に王国や他国に攻め入っている。

 おそらくコレが当たりの筈。


 昔はこんな風に戦略を練るような頭は無かった気がするけど、これも勇者特性かしら。

 妙に冴えるのよね。

 おっといけないいけない。

 レーナに答えなくちゃ。


「勿論冗談よ。」

『本気よ』

「そう・・・よかったわ。」

『わかったわ。でも考えさせて。』


 レーナはすぐには決断できないみたい。

 そりゃそうよね・・・

 でも、私はあなたも守りたいのよ。


「私はあなたとずっと仲良くしたいわ。だからこれからもよろしくね。」

『私の勘では帝国はおそらくあなたにも嘘をついている。一度調べて見て。』

「そうね。わたしもそう思っているわ。」

『うん。そうしてみる。』

「よかった。うれしいわ。」

『危ないことはしちゃ駄目よ。危険になったらすぐに私の所に来て。』

「私の初めての友達だもの。」

『そうするね。』

「ちがうわよレーナ。そういう場合は親友って言うのよ。」

『絶対よ。王国との戦争についてが一番引っかかってるからそこを重点的にね。』

「そっか。じゃあこれからは親友って言うね。」

『わかったわ。何かわかったらこうやって伝えるね。』

「そうして。」

『うん』


 そしてレーナの手を離す。

 よし、これでレーナが確定的な何かを調べられたら二人で脱出出来ると思う。


 ・・・できればあのレーナ付きの侍女も助けてあげたいわね。

 責任取らされそうだし。


 私のやることは変わらないわね。

 強くなる。

 思い出す。

 この2つ。


 頑張ろう!


 でも・・・

 なんかたまに『あいつ』を思い浮かべる時にイラッと来る時があるのはなんだろう?

 早く会わないといけないって勘が働くのよね。

 何故かしら・・・

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