第55話 ゾルディア商会での攻防(4)sideグレイス


 私は、リディアちゃんが戦えることを確認して、笑みを浮かべた後、敵に向き直る。


 この薬を使用した、ゾルドの私兵は、たしかに強い。


 しかし、リョウマから指導を受けた、私の身体強化魔法なら、十分以上に戦うことができた。


 たった3日の指導だったが、目から鱗の魔法理論で、とても効果が出ている。


 でも、ここで圧倒したら、おそらくゾルドは出てこない。


 だから、私は、戦えるけど苦戦する、という演技をしなければならなかった。


 ううぅ・・・私、演技苦手なのに。


 ガッと暴れてズバッと倒したい・・・


 くうぅぅ・・ストレス溜まる!


 もうちょっと我慢!もうちょっと我慢!


 おい!ちゃんと受けろ!切られてるんじゃない!!


 あっ!バカ!体勢崩すな!!そこはうまく避けるんだよ!何やってるんだ!!


 ・・・あ〜・・・ほら切っちゃった・・・


 慣れない演技と、敵を思い切り倒せないストレスによって、冷や汗をかく私。


 ・・・ゾルド・・・早く出てこい!


 こっちはある意味限界なんだ!


 ほら!苦戦してるよ!私今苦戦してる!!


 マウント取るチャンスだよ!!


 早く!早く来てぇ!!

 

 懇願するようにゾルドが来るのを待つ私。


 リディアちゃんはうまいこと立ち回っているようだ。


 敵が殺到しないよう、うまく領軍兵の動きを利用している。


 流石、学院で天才と言われるだけはある。


 私もうまいこと、時間稼ぎたいのに・・・ああ、また切っちゃった。


 でも、私のせいで失敗するなんて、格好悪いところ、リディアちゃんには見せたくない!


 私はいつでもリディアちゃんの前では、できるお姉ちゃんでいたい!


 ゾルド早く〜!


 そうこうしていると、正面出入口の扉が開き、ずんぐりむっくりした男が出てきた。


 周りには、20人位の男を連れている。


 みんな、薬使用しているようで、殺気立っている。


 ずんぐりむっくり男は、一際偉そうで、一際悪そうな顔してる。


 私が大っきらいなタイプだ。


 こいつが多分ゾルドだ!


 やった〜!出てきた!


 私は、ようやく出てきたゾルドの登場に、緩む顔が崩れないよう必死に真面目な顔するのであった。

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