徒然なるままに書くエッセイ
神里みかん
押井守総監督『ぶらどらぶ』を見た
私はにわか押井ファンだ。彼との出会いは『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』だった。その後、パトレイバーシリーズのOVA、テレビ、劇場版を全部見て、『イノセンス』や『人狼 JIN-ROH』もかじった。まあ、彼の有名作品をペロッと見ただけなのでにわかと言って差し支えないだろう。具体的に話すと長くなるので、割愛するが私は押井監督のことを好意的に見ている。なので感想が贔屓よりになるのは仕方のないことである。それほどに私は彼をアニメ監督として信用しているのである。
世界的にも有名な押井監督であるが、そんな彼が今季、総監督として参加する作品があるというではないか!(今回、彼は総監督だが、いちいち総監督いうのは面倒なので押井監督とする) そこで、私は思い出したようにその作品を観た。そう『ぶらどらぶ』である。(忙しすぎてはっきり言って忘れていたのだが)まだ、3話までしか見れていないが、そこで思ったことを簡単に記していく。
話としては、献血マニアの主人公(女子高生)と吸血鬼の少女の百合物語である。(献血マニアとは?)まさかの百合ものである。しかも、ギャグコメディだというのだからさらに驚きだ。まあ、押井監督はパトレイバーでも秀逸なギャグ回の脚本を担当していたので、分からなくもない。だが、押井監督は攻殻機動隊など硬派な作品の印象が強い。そんな彼が描く百合物語とはどのようなものだろうか? 少しの期待を膨らませつつ、私はリモコンのスイッチを押した。
まず、全体評価からいきたいのだが実を言うとこの作品で押井監督が何をしたいのかよくわからなかった。原作まで彼が担当した本作だが、ギャグアニメとして何か突出したものは感じなかった。作画クオリティは個人的に高いと思ったし、声優も豪華だ。そして音楽が川井憲次で挿入歌には冨永さんの名前が見えて、長年の押井ファンならにやりとしただろう。だが、どうして押井監督がこの作品を作ったのか理解できなかった。どのような熱意が彼にこの作品を作らせたのか? 飯を食うことしか考えない二流創作家が監督をしているのなら、「まあ、こんなもんだろう」と割り切ることができたが、今回はかの押井監督である。何かあるのではないかと勘繰ってしまう。
そこで、作品の細部から感じたことを私なりにまとめてみた。まずこの作品、私がまだ幼稚園児だった2000年付近のアニメの雰囲気がするのだ。あの頃の作品にみられた脚本の言葉遊びであったり、子供が見るとは思えない映画のオマージュがあったり、といった感じだ。(最近見た『クレヨンしんちゃん』ではコッポラ監督の『地獄の黙示録』を意識したシーンがあった。)最近の作品でこうしたものが見られなくなったのは誠に残念だ、と私自身思っていた。(アニメ関係者はアニメしか見なくなってしまったのだろうか?)
もう一つ決定的なのは脚本だ。今作では押井監督が脚本に関わっている。そうした中で、脚本にメタ的なセリフがいくつかあるのだ。そして、そのうちのいくつかがどうも同じアニメ制作者に対する皮肉のように感じた。具体例は避けるが、(気を悪くする方もいるだろう)そんな皮肉から感じたのは、昨今の脚本のいい加減さと男性の欲求のはけ口としてのアニメである。後者についてだが、確かに昨今のアニメはファンに媚びすぎて、メッセージ性などを失っているように感じる。男性の性的欲求を満たすための女性キャラ。そして、そうしたキャラが多く登場する作品がこの時代にはあふれかえっている。そのことを押井監督もあまりよく思っていないのではないか?
そんな風に少し考えてみて私が思い至ったことは、押井監督はあえてそうした批判対象のアニメと同じ土俵で戦おうとしているのではないか? ということである。反戦を伝えるために戦争映画を作るようなものだろうか。実際、この作品では昨今の他アニメと同様、女性キャラがたくさん登場する。(渡部 マキが推しかな)そして、メッセージ性や方向性が見えないのも、あえて昨今のアニメを皮肉っているのではないか? そう思えてしまうのである。
以上がこのアニメで私が妄想した内容である。根拠があいまいな内容も含まれているのであしからず。押井監督は『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』でデジタル編集をアニメに初めて使用した監督である。そして、当時のインタビューでこれから(デジタル技術などによって)表現の幅が広がっていくにつれてどのような新しい映像が生まれるか楽しみだ、とおっしゃっていた。だが、CGやデジタル技術が進歩した末に量産されるようになったのが、だれも知ったる学園作品や、昔々の設定を流用した異世界物語である。(登場人物のメタセリフにこれに関する批判のようなものもあった)当時の発言などからすると、押井監督はそんな業界の現状に不満を持っているのではないか。また、今回このように妄想を膨らましたのは、押井監督が以前スピルバーグ監督の『プライベート・ライアン』のメッセージに関して批判を行っていたからである。(詳しいことは割愛するが、私も最後のシーンのアメリカ国旗は不要だと感じた)要は、他人の作品(しかもオスカー受賞作品)を批判してまで、メッセージに関して強いこだわりのある監督が、今回担当する『ぶらどらぶ』で手ぶらだとはとても思えないのである。
短く1000文字程度で書くつもりが、倍近くになってしまった。これはあくまで押井ファンの若造が書いた素人のエッセイである。そのことを十分に留意していただきたい。今回、私は『ぶらどらぶ』の真意に近づけなかったが、元々押井監督作品は一発で全貌が理解できるものではない。何十回見てもメッセージを読み間違える人間もいるくらいだ。(私もその一人かもしれない)後、残念だったのが感想のまとめなどが今作にはほとんどないことだ。フリードキン監督の『エクソシスト』のワンシーンが映った時、ネットで元ネタが分かった同志を探そうとしたが、見つけることができなかった。(本当に昔の洋画ネタ扱うアニメ減ったなあ)
余談
今回ヒロインが吸血鬼であるが、吸血鬼の主人公が登場するあの有名な『BLOOD』シリーズは押井監督が関わっていたりする。
4話を見たが、知っている人ならにやりとしてしまう『機動警察パトレイバー 2 the Movie』のパロディがある。セリフから音楽まで再現度が高い。押井さんや川井さんと同じメンバーやもんね。
あまり、演出に詳しくないため、本文では取りあげなかったが他のアニメで見られない表現方法が使用されたりしている。(実写とアニメーションの融合など)
他にも小ネタなどが細部に見られるようなので、ぜひ確認してみてはいかがだろうか?
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