第40話 エリィーの消失


バイトに行く前、ユウカは変な人に会っていた。 それは少し前の事だ。 まだ夕日が空をオレンジ色に染めていた時、一人のサラリーマンがユウカに近寄ってきた。 彼は酔っぱらっているのか、歩き方がぎこちなく、奇妙な動きに見えた。


 表情はよどんでいて、目の奥が真っ暗で何もないような感じ。 だけど、ユウカを認識して向かっているように見えた。


 サラリーマンはユウカに近づくと匂いを嗅いでいるのか、鼻を鳴らしながら、触ろうとしてきた。

 ユウカもそれは嫌なので距離を話そうとするが、とうとうユウカはサラリーマンの手につかまった。


「な、なんですか? 止めてくれますか」



 ユウカの声は届いていないのか、何やらうねり声のようなものを上げながら、ユウカをつかみに来る。


 気持ち悪いと思ったユウカだったが、とてもしつこい。 そいつはユウカを壁際へ押すと、噛みつこうとしてきた。


 流石にそれは困る。 ユウカはサラリーマンを殴って突き飛ばした。


「アンタ、しつこぞ。 何なんだよ」



 だがサラリーマンは、何も言わずただ、ユウカを求める様に、歩み寄ってくる。 取っ組み合いが始まると、我慢の限界になったユウカはサラリーマンをけり倒すと、全速力でバイト先へと向かっていった。







カラオケ帰りの四人は偶然一緒に居る2人を見つけた。


「あれ? あれって」


 さっきまで話題になっていた2人が4人の前に現れたのだ。


「ユウカじゃん!」



 仲良く歩いている二人という訳ではなく、何やら走っている。 走っている人を見ると追いかけたくなるのは何故だろうか。 それが、さっきまで気にしていた舞とユウカなら尚更だった。



「後、つけるか」


「もち!」


「おう」


 桂川の提案に黎と学は乗り気満々だ。



「もう、みんな、ダメだって」


 星を除いて。 三人は一目さんに走っていった。 それを待ってと言いながら星は追いかけていく。


 ユウカ達は急いで帰った。



「このマンションだよね? なんか二人で入って行ったけど……」



「あぁ、そうだな」



「てかユウカって一人暮らしじゃなかった??」


 黎がマンションを見上げながら聞く。



「うん。ユウカ君なんかお金に困ってるみたいな感じだったけど……」



「これ、アイツのマンションか……?」


 四人は顔を見合わせる。



 ……………………。



 『ま、まさかね』 四人が同じことを言った。



「きっと桜華さんじゃない? お金持ちだろうし」


「そ、そうよね。 星の言う通り。 ユウカのはずないし」


「そ、そうだよな、ユウカ一人でここに住むわけないよな。 どう見てもファミリーマンションだしさ、これ」



「だけど2人で入っていったよな? ここ。 しかも舞って人の家なら尚更、ユウカが先導して入っていくのを見ると、通い慣れてる感じがするな」




 学の一言で三人は凍り付く。 通い慣れている。つまり、そう言う間柄で間違いないという事か?

四人は顔を見合わせて、確認し合った。



 エレベーターは11階で止まっていた。



 やっぱ明日絶対突き詰める。 3人は間違いなく意志を固めた。






 ユウカの家の扉が勢いよく開く


「エリィ-大丈夫か!?」


「フラン何があったの?」



 フランが急いで駆け寄ってくる。


「……わからない。 急にエリィ-が倒れて、 凄くしんどそう……」


 ユウカはエリィ―のもとに駆け寄ると、テーブルでぐったりとしていた。



「エリィ-、どうした? 具合でも悪いか?」


「ユ、ユウ…カ……か。 すまん。 少し体が、重い」



 額に手を当てるとすごい熱だ。 舞に布団を頼んで、エリィ-を寝かせた。


「大丈夫か?」


「わからぬ、また体が震えて、くらくらするみたいだ。 きっと風邪だろう」


「あぁ、安静にしてろ。 またお粥作ってやるから」


「今は要らんがな。 少し休む」


 ユウカは2人のもとに戻る。


「ユウカ、エリィ-ちゃんどうだった?」



「見た所風邪だろう。 少し休んだらましになると、思う……」


 ユウカの顔色は曇る。



「なんか、結構深刻そうな感じ? エリィ-ちゃんの魔力弱り切ってるみたいだから」


 ユウカはは何かに気づく。



「エリィ-の魔力見えるんだよな? 教えてくれ、消えかけてるとかそんな事はあるのか?」


 ユウカは必死になって舞に聞いた。 それが、舞には痛いほど伝わった。


「見えるのは見える、別に消えかかってる訳じゃないけど……、大分弱ってるっていう表現はできる」


 ユウカはソファーに座り自分を落ち着かせた。


「フラン、すまない。 エリィ-は何していた?」



「……エリィ-は、みんなが学校に行ったあと、いつも魔力を取り戻そうと練習をしていた」



「なんだよそれ、」



「……わからない。……どうやらエリィ-は自分の魔力の力を使えるようになろうとずっと、力を込めてた。 ……私がジュースを取りに行って帰ってきたらエリィ-は倒れていて、どうしていいかわからなかったから、とりあえずテーブルに座らせた」




「そうか、ありがとうなフラン」



 フランは心配そうな顔をしていた。



「実は前にもあいつ熱を出した事があったんだ。俺も最初はキラーウィルスを疑ったが、違った。 体温が43度以上上昇した時もあって、だけど薬と安静にさせていたらすぐ治った


 だけど、アイツの体の部分が色々無くなっていたんだ。 エリィ-の背の縮みが加速しだしたのもその後だった」


 舞とフランは唾をのんで聞いていた。


「今回で二度目だ。 また体温を測ったら。42度あった。 これはお前らにとっては普通なのか?

 それとも、これはエリィ-の死期が迫っているって事なのか」



 ユウカはどうしたらいいのかわからない。 エリィ-が消えてしまう事がたまらなく嫌で、嫌で仕方がない。


 舞も、フランもこの事態がどれだけ危ない内容なのか呑み込めた。 


「……ユウカ、私はエリィ-がなってる状態になった事がないから、わからない」


「そうか。 わかった。 ありがとう」



「ねぇ、ユウカ。 前にも一度治したんだったら同じようにすれば、また治るんじゃないの?」


「あぁ、だといいんだけど、……


 悪いちょっとエリィ-の傍にいるわ」



 ユウカはそっと部屋を後にした。

 ユウカははエリィ-の手を握りながら、消えないで欲しいと願い続けた。


 もしまた目覚めて元気になったら、どこか体の一部を失ってしまうのだろうか? それとも、完全に姿を無くしてしまうのだろか? あまりにも、それは寂しすぎる。




「ねぇフラン、 魔力の使い過ぎで倒れてしまう事はあるの?」



「……ある。 エリィ-の魔力はどうも何かおかしいから、余計」


「魔力が無くなっちゃうとどうなるの?」


「……わからない。 色んな説があるから。 けど大概、消えるって聞く」


 舞は驚いた。 魔力とは生命線も兼ねているのだろか?


「テレビでも見よっか」


 自分の家じゃないから、二人きりになると、どうしてかやり場に困った。今まではユウカがバイトに行っても、エリィ-がいたし、気にもしていなかったが、二人がいなくなって、他人の家で好きにできるとなると、ソファに座る事すら、億劫になる様に逆に何もできなかった。 どうも居ずらい。


「――――昨日の乱闘騒動の一件で、お店せ側は、多大な被害を頬むったと話しています。

 また、暴走するバイパーの車がガードレールを突き破り、バイパーの一味の男性二人が遺体で見つかっているのが発見されました。 


 検察によりますと、スピードの出し過ぎで、転落したとの事で、その時速は110キロを超えていたとの事です。

 また別の件では、自宅で首を吊るバイパーの一員と思われる女性が発見されました」



「こいつら相当暴れてるみたいね」


「……好き勝手」


「その分、パイパー側も被害は出てるみたいだけど」


 舞からすれば、他人に迷惑を掛けるこういった行動は許せないでいた。


「……あいつらと一緒」


「そうだね。 だからこうして天罰は下されるよ」


 はがなさをその言葉で包むような、自分に言い聞かせるように彼女は言っていた。


「そうだ、何か買ってきてあげよっか。 エリィ-ちゃんもユウカもあんなだし、晩御飯準備できそうにないもんね。 確か冷蔵庫にも食べれそうなの無かった気がするし」



「……うん。 そうだね」


「ようし、じゃあ今日は私達が選りすぐりの物選んで、エリィ-ちゃん元気にさせてあげよ」

 ユウカは部屋から出てくることがなかった。 そんな部屋に向かって。舞が声をかける。


「ねぇ、私達買い物行ってくるから。 何かいる物ある?」


「あぁ、すまない。そうだな、ネギと野菜と、後、栄養になるものを」


「はいはい。 わかってるわよ。 それくらい。 じゃあ行ってくるから。 エリィ-ちゃんよろしくね


 行こう、フラン」



 フランと舞は部屋を出た。



「何だか久しぶりだよね。 こうやって二人で歩くのは」


「……うん。暫く一緒に歩けてない。 それに、邪鬼を倒すのも」


「そうだね。 でも、今は止めとこ。 お世話になってるし、何かで迷惑かけるわけにもいかないしね」



「でも、街の人。……犠牲者が」


「大丈夫、他にもいるみたいだから、きっと、数は減ってるよ。 私達は少し休憩」


「……舞がそう言うなら」


 まるで親子のように手をつないで歩くフランと舞。舞の表情は何かを我慢していた。


「今日何買おっか」


 舞は気分を変えたくて、フランに話を振る。何の意味もない他愛のない話。


「……たこ焼き」


 舞はフランの遠慮のなさに、笑った。 まさかのたこ焼き。 フランが大好きなのは知っているが、即答してくるあたり、可愛くて舞は笑ってしまった。


「はいはい、 そうだね折角久ぶりに2人だし、たこ焼きも食べて帰ろっか」


 フランの目が光った。


「……舞」


 フランは舞の手を力強く握りしめた。


「解ってる。 邪鬼」


 フランと舞の前から歩いてくる人間。 見た目は普通の人間そのものだ。 だけど、それは人の形をして人間ではない。 舞はいつも持っている刀を持って出なかった。



 二人は邪鬼とすれ違う。舞の握る手が強くなる。



「……舞? 言ってくれれば私がやる」


「やらなくていいの、フラン。 今日は私達には関係ないんだから。 普通にいよ。 退治されるはずだから」



「……うん、……わかった」





 ユウカがエリィーの手を握っている頃、エリィ-が目覚めた。


「あ、エリィ-起きたか。 どうだ具合は?」


「お、まえ、ずっと、横、にいたの、か?」


「あぁ、なんか一緒に居たくてな」


「そうか……」


 それは突如として起こった。 エリィ-が急に断末魔を上げるよに叫び苦しみだしたのだった。ユウカはそんなエリィ-を見たことが無かった。 ただ、とても苦しそうに、のどを抑えながら、悲鳴を上げていた。 


「おい、何だよ、どうしたんだよ! 苦しいのか? 痛むのか? エリィ-! エリィ-、!」


 青酸カリでも飲ませたかのように、もがき苦しみだす、体中が熱いのか、息が据えないくて苦しそうにも見える。 目からは涙をこぼしている。 そんな姿を見てはいられない。

早く、早く助けないと、エリィ-が死んでしまう。


 やがてエリィ-は口から血を吐いた。 止まった。 上を向いたままピクリとも動かない。 布団は血で染まり出した。 どういう事かわからず、布団をめくると、手からとても長い爪が生えだして、それが布団を赤く血に染めた。



 どうなっているのかわからない。 エリィ-を現すならば全くの無。 死んでいる訳ではない。 sれは分かるが、死んでいるかのように、ピクリとも動かない。 ただ無表情で天井を見上げているだけ。 瞬き一つないのだ。 やがてその目かが赤く染まって行く。綺麗な瞳がだんだんと血であふれかえり、やがてそれは涙となって瞳からこぼれ流れる。


「あぁぁぁぁぁっ。あぁぁあっぁぁぁぁぁぁ」


 ユウカは恐怖で脅えた。 何が起こっているんだろうか? 目の前のエリィ-から血が止まらない。体中の血が流れて出ているようにとまらない。


 ユウカは何度も何度もエリィ-を呼び続けた。 だけど彼女はずっと天井を見ているだけ。

 

 それでもユウカはエリィ-をゆすり、呼び続けた。 するとエリィ-はユウカを見た。瞬きをせず、血の名がられたままユウカを見た。 その目の奥はまるで真っ黒、何を見ているのか、見ているのかすらわからない。


 エリィ-はまた苦しみだした。 とても辛そうに、声を上げて、苦しんでいた。



「ただいまー」


「……ただいま」


 舞とフランが帰ってきた。 


「すっごい静かだね」


「……うん」


 フランと舞は顔を合わせて頬笑み合っていた。 ユウカがそれだけエリィ-の事を真剣になってみているんだと思うと何故か、暖かい気持ちになっていた。




「ユウカ―帰ったんだけど、エリィ-ちゃんどう?」


 返事がなかった。


「……舞、ユウカ達寝てるのかも、静かにしてあげたほうがいいのかも」


 微笑みながらそうだねとフランの頭を舞は撫でた。 とは言ってもユウカに頼まれたいた物を買ってきた。 これはエリィ-ちゃんの為に自分が何か作ろうとしたのだろう。一応寝てるなら起こさないで、舞がお粥でも作っておこうと思ったが、様子だけ見ようと部屋に入ることにした。 この静けさから二人一緒に寝ているのだろうとそっと仕切りの戸を開けると、そこにはユウカが案の定寝ていた。


 だけど、エリィ-の姿はどこにもなかった。 どういう事? 舞は急いでユウカを起こそうとしたが、なかなか起きる気配がない。


 ユウカを呼ぶ声に、フランも駆けつける。



「ユウカ、! ユウカ! 起きなさいよ、ちょっと!」



 だいぶ揺すられたユウカはやっと重い瞼を空けた。


「アンタ何寝てんのよ」


「え? おれ寝てる?」


 ユウカはまだ頭がしっかりしていない。



「しっかりしなさい。 エリィ-ちゃんは? エリィ-ちゃんはどこに行ったの?」



「エリィ-?」

 

 その言葉に、ぱっと目が覚める。 そうだ、俺はエリィ-を看病しようと傍にいて、それで……しっかりと記憶を思い出す。


「エリィ-? エリィ-ならここに」


 そこには布団があるだけで、エリィ-の姿はどこにもなかった。



「ど、どう言う事だ?」


「何言ってるの? こっちが聞きたいわよ」



 エリィ-は消えてしまっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る