第41話 証明と仕来たり

「総長!」


 バイパー幹部と言われる一人。 筬 勲おさ いさむが血相を変えて走ってきた。

 今この部屋内は総長率いる幹部が何人か集まっていた。



「行方が消えた」


 総長の目が暗む。 探しに行った三人。 表立って写真の者を探す、長木と指方、そして裏で彼らを見守る為、バイパーでも上の部蝶が付いていた。 その部蝶からの報告が入った。

 部蝶はバイパーの中でも優秀な情報収集を務める。 中でもスパイは彼女にとってはお手のもの。 とってこれない情報等無かった。だから今回この任務に指名された、幹部クラスだ。彼女はいつも幹部から慕われ、名前の如く蝶のように舞う存在だった。 


 バイパーの幹部とは、総長率いる猛者が集う総長を支える存在。彼ら無くして、この大部隊はコントロールできない。 それは力、知力、技能や技等、認められた才ある者たちが集う。 部蝶は身長はあったが力強くあった訳ではなかった。 では力社会のこの世界で、彼女は何故幹部としていられるのか? それは力は弱くても、彼女には技があった。 曲芸や新体操を得意とする彼女の動きは奇妙でいて素早い。 その技で首を刎ねられたものは数知れない。


そして、総長の最も信頼の置く一人である。




 消えてしまった2人はどこでいつ消えたのかもからず、相手は相当の手練れとの報告だった。 部蝶が言うのだから間違いはない。 総長は、拘束している代厳を連れてくるよう伝えた。 

 報告を持ってきた幹部、勲には部蝶に早く撤退するように伝えさせる。


「集会をする。 代厳を連れてこい。 これは相手が相手だ」


 総長は政府が本当に牙をむいて来たのだと、冷や汗をかいていた。



 6時間後集会が行われた。 すべてが集まるのにそれぐらいの時間は必要であった。


「てめぇらに伝えなきゃならねぇことがある。 真実がハッキリしかけてる」


 バイパー達下っ端は騒ぎだした。 目の前に代厳が連れてこられている。つまりウソがばれて制裁がこれからなされるのだと。



 幹部の一人、 くんが前にでた。


「攻轟煉剛隊、長の君だ。 おめぇらに今回の事の件を伝える。 耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ。 昨晩、調査にでた部蝶から連絡が入った。 チームは壊滅行方不明だ。 今回の件について、俺たちはそこの代厳に問いただす必要がある」



 辺りはざわついた。 探しに行った2人が行方不明。 代厳はここに居て手出しは出来ない。 それはだれもが知っていた。 つまり、他の誰かが二人を狙った。そこまでは下っ端の彼らでも察する事が出来た。


「そう言う事だ。 代厳! 話せ。 その話の全てを」


 代厳は口を開く。 相当ひどい仕打ちを受けていたのか、 腕や足には鉄球の付いた足枷や手錠で縛られ、体は傷だらけだった。



「以前から話してる通りだぜ。 政府の犬がてめぇらを潰してるって。 この世界から排除するつもりだろう。 こうやって少しずつ数を減らされていく。 どうせ、俺はてめぇらに捕まって殺されてると奴らは思っているんだろう。 もう、政府の攻撃は始まってるぞ。 残りは真実を知っているかもしれないてめぇらだ。

お前らさえ潰してしまえば。事の明るみが出る事はもう二度とない。


 政府は、俺の言葉など信じねぇで、バイパーが俺を殺すと踏んでるんだろう。 自分たちの手を汚さないでな」



 総長は代厳に問う。


「なら、なんでてめぇはその筋書き通り、俺たちに捕まった。 もしそこまで事情を知るなら何とでもできるだろう、 そのお仲間さんとやらも使って」


 代厳は辛い過去を思い出す。


「そいつらはもういねぇ。 一掃されちまったからな。 一人づず知らない間に消えていった。 そして最後は。 政府のやり口は知ってる。 どうせ俺もこのままでは、お前らに、政府に板挟み。 だから、お前らにかけた。 お前らなら、このくそみたいな話に終止符を打てる、救世主の部隊になるんじゃないかとな。


 おれはこの理不尽な世界が許せねぇんだよ」


 代厳の本気の目に、昔の自分が重なった。 総長も、自分の夢を志す青年だった。 だか、彼の家は小さい頃から荒んでいて、いじめにあっていた。 そして一家の惨殺事件が起きた。 この時だった。 自分が強くならなければ誰も守れないと世界から教えられたのは。



「という事だ。 てめぇら。 つまりこの一連の本当の敵が分かったか? 俺らはまんまとしてやられていたってことなんだよ! この屈辱、わかるよな!」


 辺りは息を飲んだ。 怒りと、腹立たしさはある。 だが今総長率いる幹部はとてもでかい組織を相手立とうとしている。


「つまりはそう言う事だ。 てめぇらはどうしたい?」


 総長は皆に聞いた。 自分だけで決めるのではなく、ファミリーすべてに聞いた。


「これは総長がどうされるか志された事。だが、他は選択の余地を与えられた。 攻轟煉隊、いや、私、君は。総長にどこまでも着いて行くと決めた。 それに、仲間の仇は打たなきゃ気が済まねぇ」



 君の言葉を合図にするように他の幹部も名を挙げた。 それにつられるように、ここにいるバイパー全員が一つになった。



「なら決まりだな」


 総長は笑う。


「あぁ、そうだ。 政府だからなんだ。 人の命を勝手に操作しやがって」


「敵討ちだ。 俺たちが悪徳政府を潰す」


 バイパー達、ここにる誰もが、総長と一緒に熱くなった。


「総長さんよ。 俺も仲間にくわえてくれや」


 代厳からの想ってもいない意表。


「勿論だ。 やってやれ。 お前のおかげで真実を知れたんだ。 政府がそこまでくそだとは思って居なかったが。 丁度幹部の席が開いている。 てめぇが座る気はないか」



 バイパー達の声援が止まる。 いきなり見ず知らずの代厳が長の場所に座ると言うのだから。そこは府に落ちなかった。 


「長を殺したのはこいつじゃねぇ。 そうだろう?代厳」


 代厳は頷いた。 


「こいつは、こいつの姿をした人物にはめられた。 仲間もいないこいつはたった一人で戦ってたんだ。 そんな強豪を俺は迎え入れたい。 お前らはどうだ? もし文句があるやつ、納得がいかねぇやつ、幹部になりてぇ奴がいるってんならバイパー式で話し合おうや」


 異論はあった。だがそれもまた、事実。 彼には仲間がいない事、そして今回の事で、バイパー2人を簡単に消せてしまう奴がいる事の証明はついている。


「総長! 俺が納得いかねぇ。 おりゃ幹部だがやらせてもらうぜ」


「そうか、そりゃ仕方がねぇな。 おい、枷を外してやれ」



 代厳の手や足にかけられた枷がすべて取られ、自由になった。


「で、こりゃあどういう話なんだ」


 だが、事態の呑み込めない代厳は総長に問う。 総長は言った。


「悪りぃな、おめぇもバイパーに入るってんならルールだけは身に刻んで置け。 今から文句あるっつうこいつと、殴り合いだ」



 代厳は首の骨を鳴らし肩を回した。


「マジか。 面白れぇ」


 その言葉に総長は嬉しそうだった。


 幹部クラスが、幹部候補である代厳と殴りあう。 周りからしてもこの条件で代厳が勝つなら、もう誰も文句は言わないだろう。 


「俺は西武餓鬼隊の大豹 翔だいひょう しょうだ! 悪いがおめぇを幹部の座に座らせる訳にはいかねぇ。 打ん殴るから覚悟しろや」


 代厳は聞く耳すら持っていない。


「いいのか? 本当に殴り合いなんかして。 俺加減はできないぞ。 死んでも恨むなよ」


 生きのいい奴が入ったと総長は喜んでいた。代厳のような男にあうのは久しぶりだった。 だから彼の為に忠告をした。


「てめぇ、いきがきがいいな。 気に入ったぞ、だがそれは無理だと思うぞ。 翔はそんな玉じゃねぇ」


 目の前にいる翔は誰よりも熱くそして、強かった。 


総長の合図とともに、代厳のパンチが入る。 と言うより翔は自ら受けた。


「なんだ? てめぇ、やる気ないのか?」


 代厳からしたら不思議な事だ。 殴り合いを挑んだ相手が一方的に殴られているのだから。それでも代厳は容赦なくパンチを叩きこんだ。 どうみても代厳の優勢だと言うのに、周りは余裕の表情で翔を見ていた。


「フン。 こんなものか? これで十分か? お前のその傷の対価と同じぐらいは払ったと思うが」



「こいつ、マジか!? 」


 代厳は驚いて見せた。


 次に続く代厳の攻撃はかわされ、そのまま溝内を貰う。 


「ぐは、」


 代厳はそのまま倒れ込んだ。 しかし、それでは止まらない。 翔はそのまま馬乗りになって代厳を殴る。 これはもう一方的なリンチだ。 


 総長は止めようとかと思ったが、まさかの出来事が起こった。 馬乗りになっていたはずの翔が吹き飛ばされたのだ。 


「はぁ、はぁ、お前ちょっとやり過ぎだぞ。 あぁ、難しいな、おい」


 代厳は血を流しながら、立ち上がった。 


周りにいる誰もが驚く。 一番すさまじいパワーを繰り出す翔のパンチを食らって立ちあがった者等いなかったからだ。 彼は、ボクサーだった。 それも、底辺の大会では必ず相手を瀕死にさせる翔と言うほどまでに強かった。 彼から繰り出されるフックは、パンチは速すぎて見えないのだ。それでいて、頭に入れば必ず一発で脳震盪を起こす。 威力もすさまじかった。 



「アイツ、翔さんのパンチ何発食らいやがった?」


「や、やべぇ、何だあいつ……」


 周りがざわつく。 総長すら息を飲んだ。 それは前に立つ翔もまた同じだった。 戦いはまだ終わっていない。 翔はまた代厳を攻めた。 


 代厳は翔のパンチに防御を取るしかできなかったが、耐えて、耐えた。 だが一度だけ、拳が目にかすった時、どうも、この状況に我慢がいかない代厳は攻撃にでた。


 急に来た攻撃に驚きながらもかわす翔だった。 巧みにかわす姿は、喧嘩慣れしている。 その隙をついては代厳にパンチを入れていた。



 どこからどう見ても代厳が押されている。 だが、代厳は倒れなかった。 倒れないなら、この試合は終わらない。


 代厳は笑っていた。それだけは、戦ってる翔には分かった。 翔が攻め、代厳が防ぐ、しかし代厳の渾身とも見えた一発が翔の懐に入った時、翔は地面に倒れた。

 地べたにつかされるたのは何十年ぶりだろうか? 翔は怒りを身にまとったが、今の一撃は思ったよりも強く。立つ事すらできなかった。 結果は翔の敗北。


 周りの誰もが唖然とした。



「言ったろ、ここの奴らと戦ったら、30人の中には入れるって。 まぁ、今勝てたのはあいつが足をそこの瓦礫で滑らせてくれたから、たまたま入っただけだけどよ」



「おめぇ、すげぇな。 どんな肉体してやがる。 理由はどうあれ、勝ちは勝ち。 てめぇらこれで文句ねぇな」


 総長はその頑丈差に感服していた


 代厳正治はこうしてバイパー幹部、 しかし、隊を持たない幹部となった。


「で、これから政府にはどうするよ?」


 総長は代厳に問うた。


「ふん。 簡単だ。俺たちが手を組んだことを向こうは知らね。 それを逆手に取ってやるのさ。

まずはあぶり出しだ」


 代厳の政府を相手にした復讐が始まろうとしていた。



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