第32話 独りぼっちの舞


 今日も登校時、舞は先に行くと言って出て行った。 特に誰かと帰っているでもない舞に思う所があったのだろう。 単に人間嫌いから来るものなのか、何か故意的にそうしているのか。



 三年の吉岡、二階堂、宮下。こいつらは大体いつも一緒につるんでいる。 学園一の意地悪な奴らだ。 吉岡は内2人に比べればまだ頭はいい方ではないが、ガタイとスポーツは注目がいく。力型の奴だ。成華の学生をいびっているのは何も彼らだけではない。 だが彼らのいびりが一番目についた。


「おはよう星ちゃん」

「おはよう」

「おはよー」


「お、おはよう」


 星は苦笑いしていた。 早くこいつらから離れたい。 だけど思えば思うほど、吉岡達や周りに集まってくる学生で囲われた。



「ちょっと、今生徒会の仕事中でしょ。 彼女にまとわりつかないでくれる」


「んだよ、副会長だけ独り占めかよ ずりぃ」


「だったら俺らも手伝ってあげるよ。 重いでしょ、星さん」


 吉岡は星が両手いっぱいで抱えていた段ボールの箱を手に持った。


「ちょっと、吉岡、もういいから。 あんたがついてきたら邪魔なのよ」


 星は困っていた。 この学園に来て成華は少ない人数には反感を買っていた。 だが星は対照的に人気者になっていた。  最初にこの学園に顔を出した時の事だった。 1人の学生が授業をさぼる為に学園内をふらついた時に笑顔で笑う星を見た。 彼は心を奪われたと言う。


彼は鈴村彬良すずむら あきら。 勉強はできるが、できるが故、勉強がつまらなかった。別に彼が星のことを全校に広めた訳ではない。 彼は彼のもっともたる親友にだけ相談を持ち掛けた。


「俺、今、とても好きな人がで来たかもしれない」


「はぁ、? やっとかよ。 お前の事好きな女子がこの学園にどれだけいると思ってんだ? 

 で、何年の誰だよ? 」


「知らねぇ、見たことない子」


「はぁ お前酷い奴だな。 もう三年もここいて、知らないとか」


「マジなんだって、ちょっと見てみ」


 

 彬良は親友の祐爾ゆうやを連れて行って指さす。

「いた、あの子」


 指す方を見るなり、祐爾は目を細めた。確かにその女性を知らなかったのだ。2人は道行く学生にスマホで取った彼女のことを聞いたが、数人の生徒は知らなかった。 


「もしかして、今成華の学生来てんだろ、 ひょっとしたらそれじゃないのか?」


「成華? うちに違う学生きてんの? まじで?」


 彬良は真面目に勉強を受けてはいないばかりが、授業等さぼり気味の為、成華がバイパーに襲われたことは知っていたが令嬢に来ていることまでは知らなかった。


それからだった、一人の学生の可愛女の子の写真を見たという情報から、それは成華の星だとわかるまでは一人がまた一人と伝えていき、瞬く間に学園中に広まった。



 彬良、祐爾が良く頃にはすでに人だかりができていた。 星は成華では生徒会をしていた為、令嬢の生徒会を手伝う事になった。


「アイツほんとむかつく」


「なんかちょっと可愛いからってさちやほやされっちゃってさ」


「後でしめてやる。 ねぇちょっとこっち来て」


 遠目いから囲われている星に憎悪を向ける女子が三人居た。



「ほんと人気者ね、星さん」


「あ、いえ、そんな事は」


「それじゃ、わたしはこの倉庫から荷物をまとめて生徒会室へ運ぶので

 こちらの荷物をその段ボールに詰めて、裏庭へお願いしますね」



「はい。 わかりました」


 倉庫にあった不要な荷物を星が運んできた段ボールの中に入れ、彼女は裏にはを目指した。箱は女の子が持つに結構重たくなっていた。 効率重視のこの学園では一気に持って行く事が多く、積み上がった荷物は視界を遮った。


「きゃぁ」


 視界が悪く足元が見えない星は、何かに足を取られて躓いた。


「痛たたたっ、」


「あぁ、何やってんのアンタ」


「公共の施設汚さないでくれる」


「それうちらに倒れてきたらどうするつもりだったの」



「ごめんなさい」


 星は急いぶちまけた荷物を片付ける。


「ほんとすごい量よね」


「がんばってね」


「今度は気をつけなさいよ」


 三人はそのまま去って行った。



「ふぅ、やっと拾い終わったよ」


 星は膝やスカートについた塵を掃って、またせっせと裏庭を目指して歩き出した。

 裏庭までもう少しの所だった。 星は勢いよく背中を押され、また転んでしまった。


 先の長い棒がお腹に刺さってしまった。



「は、またこけてるのこの子」

「まじのろまじゃん」

「そんなんでうちの生徒会務まるの? 」


 星は明らかに、後ろから押されていた。彼女たちに。 さっきも足をかけられた。 それでも星は何も言わずに、散らばった荷物を拾った。


「ねぇ、アンタさちょっとウザいんだけど」


 それでも星は我慢して落ちた荷物を拾う。


「ねぇ聞いてんのあんた」


 星は髪をつかまれて引っ張り立たされた。


「痛い」


 詩野は星が立つとつかんだ手を突き放した。


「何でこんな事するの? 」


 星も流石に怒る。


「はぁ? 何超ウザいんだけど。 あんた喧嘩うってんの? 」


 三人はマジだった。



その時遠目でもめている女子を見た男性が駆けつけてきた。



 詩野が星を打とうとした時、


「おい、お前ら何やってんの?」


 間一髪星は打たれる所を防いだ。 


「っち、何吉岡じゃん」

「ベつに何もないし」


「じゃあ頑張ってね未来さん」


 三人は去って行った。


「大丈夫星さん? 」


「うん。 ありがとうございます」


「俺さ、暇だしこれ持つから」


「あぁ、いいです。大丈夫ですから。 ありがとうございます」


 その時お腹に激痛が走った。


「どうしたの? 腹痛いの? もしかし扱かされた時……」


「あ、ううん。全然、 ちょっと食べすぎちゃって」


 吉岡は荷物を奪い取るように持つと、一人荷物をもって歩き出した


「ちょ、ちょっと吉岡君! 」


 星は吉岡の後をついて行った。




「おいおいまた来たぜあいつら」


「ほんとウザいよな、なんか堂々と歩かれると腹立つよな」


 学園内では吉岡たちの行動から、少し批判の声が大きく聞こえるようになっていた。


「あなた達いい加減にしなさい! 」


「やべぇ、生徒会だ」


「今後そのような発言をした場合、先生を踏まえ相談させて頂きますよ」


 これを良く思わない生徒もまた沢山いる。 当然半分以上はこのいざこざに巻き込まれたくなくて傍観している者が大半だが、いてもたってもいられない生徒は前に出た。



それが令嬢の生徒会副会長 綾桐 雪乃あやぎり ゆきのを筆頭にこの悪性を無くそうと奮闘していた。


「綾桐さん素敵だよね」


「かっこいいし、俺惚れちまったよ」


「ばか、綾桐さんは俺んだよ」


 成華の生徒の間では綾桐がマドンナとなっていた。



 お昼時、ユウカ達三人は食堂に来ていた。


「相変わらずでっけぇよな、ここの食堂」


「しかも飯がすべて美味い」


 桂川と学はこの学園の設備ほとんどに驚きを隠せないでいた。 本来ここの生徒でない学生がこの令嬢の学園の設備を使えることはまずない。 なんせここは最先端の技術がもたらされている学校でもあるのだ。 はっきり言って、万博に来ているような感覚にすらなれる。


 ユウカは一人で飯を取ろうとする舞の姿を見つけた。


「あぁ、悪い。 俺ちょっと行ってくるわ」


「あ、行ってらっしゃい。気をつけてな。 ってどこ行くんだよ!!」


「桂川、 ユウカならもう行ってしまったぞ」


 二人には意味が解らないままユウカは姿を消した。



 舞はカレーを運ぶと誰も座っていない6人掛けほどのテーブルに1人座った。


「よう、ここ良いか? 」


 テーブルの上には味噌汁と白御飯と沢庵そして小さなうどんが乗っていた。 どこの誰の貧乏飯なの? と舞は顔を上げるとユウカが立っていた。



「は? 何アンタ? 空いてないけど」


 相変わらずの殺気と言うか、寄ってこないで下さいオーラが全開だった。 この一言は全体を凍り付かせた。


「やっぱ怖いよね桜華さん」

「生粋のギャルだよね、家とかヤバいんだろう?極道ものだとか」



「あの人成華の人でしょ、教えてあげたほうがいいんじゃないかな」

「じゃあアンタ教えてきてあげなさいよ」


「嫌だよ、だって目付けられた怖いもん」


 何処かのグループではひそひそと舞について話し合う。



「いや、空いてんじゃん! 何言ってんのお前」


 ユウカは全くなにも気にせず、舞の前に腰を下ろした。


「はぁ、 」


 舞は細く睨むと、小さな声でユウカに語り掛けた。


「アンタ何のつもり。 学校でまで絡んでこないで。

 ていうか私に構わないでって言ってるでしょ!」


「いいじゃん別に。 俺お前と食いたいから来ただけだし。

 それに俺一人だから寂しいんだよ。 いいだろ一緒に食っても」


「意味わかんない。 それとアンタ声でかいから」


 周りは驚きでいっぱいだった。桜華舞のテーブルに着いた人など誰もいなかったからだ。

 気づかれないようにみんなが舞とユウカのテーブルを気にしていた。


「じゃあもういい。 私が行くから」


「行くってどこに? 席なら空いてないぞ」


 食堂の席はもうすでにどこかしらのグループが座っていた。


「それとも俺じゃなくて他の奴と相席するか?」


 ユウカはタンタンと飯を食い始めた。


「もう! わかったわよ。 ここに座るわよ」


 ユウカはただ普通に飯を食べていた。


「…………」


「で、なんで私の前に座ってきた訳」


「だから空いてたからだって」


「開いてるって、別に他の席も空いてるでしょ」


「ここが良かったから目をつけてただけ。 そしたら先にお前が座り出した。けど俺の狙ってた椅子じゃなかったから、俺は予定通り狙っていた椅子に座っただけだ」



「もういいわよ」


 学校で誰かと食事をするのは久しぶりだった舞はどうもこの空間が落ち着かない。ふと、ユウカのトレーを見た。 実に質素。


「あんた、なんでそんな貧しいメニューな訳? 」


 ユウカの箸の手が止まった。


「お前……

忘れたとは言わせないぞ。 あの寿司の事。 お前美味そうなカレー食ってるけどな、俺に借金抱えてること忘れんなよ」


「わ、悪かったわよ、そ、それにしても、それは大げさすぎなんじゃ」


 再びユウカの箸が動く。


「大げさじゃねぇ。 本気で一文無しなんだよ。 お前冷蔵庫の食品無くなったら本当に食費頼むぞ。 俺の給料がはいいてくるまでは」



「わ、わかってるわよ」


 舞は、あまりにも質素なメニューをほおばるユウカが可哀想になってきていた。そんな舞はユウカのうどんにそっと自分のカレーを注いだ


「はい、これでカレーうどんになるでしょ」


「お、お前……」


 また箸の手が止まった。


「な、何? もしかしてカレーうどん嫌いだった?」


「違う、 やっぱりいい奴じゃん」


 ユウカの満面な笑みに照れる舞。 


「べ、別にカレーの量が多かったからそっちに移しただけだけど、ね!」


「じゃあ俺からもお返し、この沢庵やるよ」


「は? 要らないわよ。そんなの」


「おい、そんなのとかいうなよな、御飯に合うし」


「合うか知らないけど、私カレーだから、沢庵は別に要らないって」


「いいから遠慮すんなよ」


「やだ、止めてってば。 ちょっとぉ!」


 二人のテーブルはとても楽しそうに見えた。当の舞は本当にユウカからの沢庵攻撃を嫌がってたい訳だが。



「え?何? 桜華さんってあんな人だったの?」

「全然表情を動かさない人だったのに」


「俺、てっきり周りに興味ない人なんだと思ってた」

「俺も、でもなんか可愛いよな」



 他のテーブルでは一部始終を見ていた人達が、舞の見る目を少し変えようとしていた。


「ごちそうさま」


「美味いな、ここの食堂」


 舞は何も言わず立ったまますっと言ってしまった。


「まぁ、一緒に食えたし良しとするか」



「あ、ユウカいた!」


「お前どこ行ってたんだよ」


「悪い悪い、逸れちまったから一人で飯食ってた」


「なんじゃそりゃ」

「勝手にいくからだろ、バカ」


「うるせぇ、桂川のくせに」



 盛り上がる三人を舞は目視していた。


「1人じゃないじゃん。 おせっかいバカ」


 吉岡たちは令嬢の学生と仲良くしている成華校のユウカを見ると、気にくわない気持ちと怒りが湧き上がってくる。



「おい、おめぇら、後で」


「わかってるって。 あいつに少し焼き入れんだろ」





放課後、ユウカは校門前で少し待った。 舞が通るのを。 

 前回の反省を経て、早めに校門前で待つようにした。 一番だ。


「あれ? ユウカの奴またいないぞ」


「また、早く帰ったんじゃないか? 」


桂川と、学、黎と星がたむろしていた。


「ユウカ最近ほんと忙しそうだよね」


「うん。ユウカ君大変なんだよきっと」



 勿論誰よりも一番乗りで校門に来たユウカは、まだ誰もここを通っていない事を知っている。

舞はまだ学校にいると確信をもって待機していた。 舞の家にもまた行ってみなければならない。

あいつらが、もううろついてなければいいが、きっとあぁ言う組織ぐるみの奴らはしつこく探し回るのだろう。 なら見つかるのは時間の問題。 ずっとユウカと暮らすなんてこともしていられない。


 学校の玄関から人影が見えた。 一人で歩いて来る舞だ。 丁度校門を出た時門の横からユウカが飛び出す。



「あれ? 舞も今帰るのか? 奇遇だな。 じゃあ一緒に帰ろうぜ」


「アンタ、何してんの? まさかずっと待ってたんじゃないでしょうね?」


「待ってない。 忘れ物した感じがしたから鞄の中調べてたら、お前が来ただけ――――」


 舞はユウカの顔を見た。 傷や痣がある。 服も少し汚れていて、擦った後がある。 手首も少し腫れてるのか赤い。 舞はユウカの話しも聞かず一人ですっと行ってしまった。



「ちょっと、待てって」


「なんでついて来る訳、 もう、ほんとウザいってば」


「何でついて来るのって。 帰る家が一緒なんだからこうなるだろう」


 舞は赤面する。 今の言葉は完全に舞のミスだ。


「そ、そう言う事じゃなくて、なんで同じ時間に帰ろうとすんのって言ってんの! 時間合わせたら、こうなっちゃうでしょう!」


 舞の言葉に緊張を越した力が入る。


「お前こそ、なんでみんなと帰んないんだ? 」


 それは舞の心に何かを突き付けた。


「はぁ? 私は1人で帰りたいから帰ってるんだけど。 なんか文句でもあるの? 

 アンタこそ何なのよ、その傷。 もしかして例の……」


「別に全然。 この傷はあれだ、ちょっと真剣にふざけ合っただけだ」


「意味わかんない。 別にいいけど。

 じゃあ、どっか行ってくれない。 私一人で歩きたいんだけど」


「俺はお前と帰りたいから一緒に歩いてるんだけど、なんか文句あるか?

 あと俺ん家こっちだから」


 舞は渋い顔をする。 言い返す言葉は無い。



「あぁ、もう何なのよ。 私のキャラ崩したい訳? 」


「キャラとかいいじゃん。 お前絶対素のままの方がいいと思うけど」



「素って、 アンタ私の何を知ってんのよ」


「んーでも大体わかるぞ。 お前もっと優しいだろ。 なんかどこか無理してる感じがしたりしなかったり」


「何その適当な答え」


「うん。 でもこうやってたらなんかわかる様な気がしてさ」


「はぁ、 うざ」


「どこ行くんだよ、 俺んちそっちじゃないぞ。

 ここ曲がるんだけど」



 ユウカの家に帰るつもりでいた舞だが、いつもの慣れが、自然と足を舞の家に行く方向に歩かせていた。


「う、、

 うっさいわね。 こっちに用があるの」



「そうか? じゃあ俺先帰ってるな」


「もう、だから外でそう言う事言うなってのぉ。 誰かに聞かれたらどうすんのよ」


 ユウカの頭の中には御上と呼ばれた女と黒服の男たちが浮かんだ。舞の頭の中は令嬢学園の生徒や他校の学生たちの存在を警戒していた。


「お、そうか! あいつらにもバレかねないもんな。 悪い気を付ける。 それが作戦ならそうしよう」



 ユウカと舞の家は近いと言っても近々に近い訳ではない。 字体上、地区も別の名前だ。 舞が接触を拒んできたかいもあって、誰のどこにいるか等、簡単には分からないだろうと舞は踏んでいた。



「だけど、フラン悲しむだろうな。 お前どっか行くんだろう。 しかもこの辺うろついてる方があいつらに情報与えんじゃないのか?」


 別に行く当てなど、舞には無い。 ただ、行く道を間違えて、強がりでポロっと言ってしまっただけの事だ。


「ベ、別にいいでしょ!」


 言葉に力が入る。 ぐっと手を握っていた。


「で、ても、……フランがって言うんなら今日はそっちから帰るわよぉ」



「じゃあ帰ろうぜ」


 ユウカは嬉しそうに舞を迎えた。


「いや、アンタとは帰んない」


「何でだよ」



いつ見ても仲のいい二人である。



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