第31話 令嬢と成華

「おい、ちょっと待てって」


「何で待たないといけないのよ」


 ユウカは慌てて舞を追いかけて行った。


「だから先出るって言ったでしょ。 なんで追いかけてくんのよ」



「お前が先に行こうとするからだろ。 一緒の方向何だから待ってくれたらいいじゃん。

 それに登校するにはまだ早いだろう」


「あのね、」


 舞には考えがあって先に出ていた。


「私達が一緒に登校してたら、付き合ってるみたいでしょ

 それに、一緒の家から出てくるとこをもし誰かに見られてでもしたらどうするのよ」


「でも、マンションだから、一緒に住んでるまでは分からないだろう」


「バカ、声がでかいのよ」


 ユウカのあたまに拳骨が入る。


「痛ってぇ。 何そんなに気にしてんだよ ったく」



 舞は一人で先に行ってしまった。 学校が一緒の場所になってから、ちょくちょく舞を見る時が増えた。 彼女は大体一人でいる。 いつも。 仲のいい友達は居ないのだろうか? それともあの性格だから一人でいる事を望んでいるのか。 以前に一度学食で一人のだったので思い切って声をかけて見たら、彼女は恥ずかしそうにしながら、逃げて行った。 どうやら避けているようだとユウカは捉えたが、それには一つだけ思い当たる節がある。


「おいおい、いたぜ、成華野郎が」


「何令嬢うちの敷地をのうのうと歩いてんだよ」


 成華と令嬢一時合併してから起ったわだかまり。 成華の事をあまりよく思ってい無い連中からの嫌がらせひいきだった。 勿論そう言った行為は間違いだ。いかなることも。しかし、間違っているとは言え成華は敷地を貸してもらって、助けてももらっている身だ。 それを理解している成華の学生たちは、決して強く出れたものではなかった。 どこかでその恩恵に感謝している部分があるからだ。



「は、何も言えないで尻尾捲いて逃げていきやがったぜ」


「ほんと何なんだろうな令嬢に沸いたウジ虫はよぉ」




 時に泣かされている成華の学生たちもいた。 影口や陰湿ないじめは、かならずどこかで起こっていた。


 令嬢学園。 令嬢玲佳れいじょうれいか指揮のもと、成華町を統一するが目的で建てられた学園。 その為、全生徒を収容できるように大きさと、充実した設備が備えられている。ここ一つでオリンピックを出来てしまいそうなぐらいに。

 無論できて間もないこの学園は入園料も酷く高く、有能な人材ばかりが集まる学園となった。

これは、成華学院を取り込むために、横に建てられた。 その目的は変わることなく、戦ってきた歴史が少なからずあった。 だから、成華学院生の事を悪く言うやつもこの学園には居るのだ。

 令嬢学園がそんなばかりのいるところかと言うとそうではない。 ほとんどの生徒は別にそんな事は何とも思っていない。 令嬢も成華も同じ人間として、そこに線など引いてはいない。彼らは教養を学び、自らの知識を高め、社会への目的の為、令嬢に入学したのだ。

そのようないざこざ等一切興味すらない、こころの優しい学生がほとんどだ。




 今度はユウカ達がさっきから因縁付けている生徒に絡まれた。



「おい、てめぇら何素通りしようとしてんだよ」



「頭下げろよおい!」


 学が胸をつかまれる。


「止めなよ、アンタら」



「何だこの女。 何でかい口きいてんだ?! あぁん!」



 この学園に来た時に先生から言われたことがある。成華の先生達は、「少しはからんでくる生徒や嫌な事を言って来る生徒がいるかもしれないが、なるびく穏便にしている事。

 私たちは、貸してもらって、令嬢のおかげでこうして勉強できる機会を得られているのだから、

 感謝の気持ちを持つ事を忘れてはいけない」と。 からまれる学生たちの頭の中でそれが絡まれるため再生される。 そう思うと、やはり強くは出れないのだ。



「ほら、早く頭下げとよ、なぁ!」


学は渋々頭を下げた。


学園生は笑って言う。


「分かりゃいんだよ。 礼儀をちゃんとわきまえろ」


 胸をつかんでいた男が地面に学を投げつけた。


「学! 」

「学君」

 黎と星が学を心配して駆け寄る。



「何ボケっとしてんだよ。 お前らもさっさと頭下げろよ」


今度は黎や桂川たちに向けられた。


「あ、星ちゃんはいいからね、そんなことしなくて、てか星ちゃん何でそっちに居るの?

 ねぇ、こっち来なよ」



 星は困っていた。


「ほら、お前らはさっさと謝るんだよ」

 

 他の生徒も早く頭を下げろと詰め寄ってくる。 仕方がなかった、こんなしょうもない事に付き合ってる時間がもったいない。 頭を下げるくらいでここを通れるなら、さっさとやって、この場から皆をとおざけよう。 ここに居るみんながそう思った。


 黎も桂川も頭を下げた?


 よし来たと学園生たちは笑い出す。


「おい、何してんだよ、お前も早く頭下げろよ」


 ただ一人の男を覗いて。


「何で頭を下げなきゃいけない訳? 」


「ユウカ君」


 星が心配で声を荒げる。


「あぁ、何だてめぇ」


 男はユウカの胸ぐらを掴んできたがユウカは一歩たりとも微動だにはしなかった。


「てめぇ……」


 男は掴んでいた手を離す。


「後で覚えとけよ」


 学園生たちはぞろぞろと去っていった。



「ちょっとユウカ何してんの? 」


「老いお前馬鹿か。 そんなことしてたら目を付けられんぞ」



「ん?確かにな。 大丈夫か学? 」



「あぁ、俺は大丈夫だ。 だけどユウカ、あぁ言うのは止めて置け。 お前の為にも、屈辱かもしれんが、今は大事な時期だろう」


「ユウカ君。 危ないから、今は我慢して」


 皆が暗い。 みんなが耐えていた。 皆同じ人間だ。 先にいたからとか、能力云々で人の優劣なんか決まったりしない。 だからユウカはそれが許せ無かった。


「別に頭下げる必要なんか無いだろ。 大丈夫こっちからは手を出しはしないから。

 ほら、早く行こうぜ、授業に遅れちまうし」


 ユウカは笑って、歩いて行った。



「アイツ、絶対痛い目見る事になるぞ」


 みんなはそれを心配していた。





 バイパー騒動は過激さを見せていた、街では我が物顔で歩き回っている姿がいつも伺えた。

勿論政府も黙ってはいない。 店や露店の被害、公共物や器物の破損報告、クレームの荒らしが、政府には寄せられていた。 関係のない人間も、学校も病院も見境なし。 相変わらずやりたい放題な暴れっぷり。 国民は怒りと恐怖と戦っていた。 

 

 そんな行動にただ政府は黙っていた訳ではない。各種病院やお店、街中には軍隊を置いて、それを鎮圧させた。 動き回る族を抑えこれ以上被害を出さない為に、特殊起動部隊は街中を走り、監視や警備の為に、警官隊を総動員させて、どんな小さな所にも配置させて、警備した。



 そんな二つがぶつかればそれは、弾け合う。 結局は抗争が繰り広げられる。 中には警官隊や政府側も多大に負傷を負わされ、一人、また一人と倒れて行った。


起立を守り、被害を最小限にして、技術的に捕えろ、とされている機動隊や政府の部隊と、 自由奔放、何ものにも気にぜず、ただ目的を遂行しろと言うバイオあーとでは倒れる隊員も数が全くと言っていいほどい違いが出いていた。

 たとえ命に代えてでも、守り抜いて見せると、どんな暴動にも立ち向かい抑えてきたがそれゆえに、倒れていく警官隊が多かった。



「霊、 」


「こいつら切ればいいんでしょ」


「そうみたいだね」 


 霊は中に居た男1人を切った。  次の写真画像が目の前に表示される。


「じゃあ次はこいつと、こいつ、今日は軽い任務だけど、数が多いよ」


「めんどくさい。 こんな事意味があるのか? 」


「さぁね、上も何か考えがあるんでしょ。 こんなごみ見たいな仕事を回してくるんだもん。 まぁ主要な人たちなんじゃない?」



 霊は廃ビルにいた二人とそこにいたすべてを蹴散らした。 最後の一人を刺した時、


「霊、いったんその任務は中止! 緊急だよ。 あれが出たみたい。

 今から座標を送るから、すぐ向かって」


「やっぱり出たんだ」


「うん。 とにかく急いで。 じゃないと逃がしちゃうかも」



 赤く染まる部屋に青く輝く小さない光。 一瞬で光は消えた。





バイパー本拠点


「総長!まただ、また繋がらねぇ」


「あぁん? 」


「今度は煉獄隊と、 餓鬼道隊の隊長だ」


「何で繋がらねぇ!? 」


「分かりませんよ」


「あいつらが連絡ほったらかして遊ぶようには思えない。 かといって政府の警察なんぞであいつらは止められねぇぞ。 おい、お前らちょっと見てこい」



「へいぇ」


 壁に座って酒を飲んでいた男2人は言う通り見に行った。


「くそ、どういう事だ。 あの黒服野郎か? 」

 

 顔の血管は浮き彫りになっていた。






誰もいない夜は、物静かで少しひんやりする。


「そう言えば、あの殺人鬼の事は調べたの?」


「うん。 調べてはみたなんだけど、噂以外なんの情報も無いんだよね」


「どういう事? あれだけの武器を持っていてそんな事がある? 相当の後ろバックがついているって事?」


「それは無いんじゃないかな。 そんな事をする目的が分からない。 剣筋も素人のようなものなんでしょ。 まぁそれで狩人してるのは分からないけど、 ただの一般人か何かが、噂の殺人鬼を演じてるんじゃないのかな」


「一般人が私達と同じことをしているのか?」


「まぁ確かにね。あり得ないよね? もしくはうちらも知らされていない別動隊? 噂以外本当に情報がないから、脅威や害ではないのかもしれないよ」


「そうなのか?」


 霊には殺人鬼の存在が妙に引っ掛かった。



「霊! 着くよ。すぐ近く 生態認識反応上昇してるから」


「分かってる」


 突然霊の後ろから黒いマントを広げた者が襲い掛かってきた。 霊は慣れた様に身をかわす。


「相変わらず不意打ちが好きな奴らだな」


 近くには倒れた女の人がいた。


「もう食事の後ってか」

 

 暗闇に隠れて、身をひそめる何か


「斬」


 彼女は剣を抜刀した。 彼女の型。 剣先を目線と同じ方向に突き立て、腰を低く落とす。耳を研ぎ澄ませ。少しの物音も捉える。 そこだ。


 彼女は目標目掛けて、一太刀をふるう。



「ギィユゥェェェェェ」


 聞いたことも無い悲鳴。 沢山の血が滴った。 腹を切り裂かれたそいつは、もがきながら地べたをはいずり回った。 丁度街灯の小さな光がそれを映し出した。

 人のような形をしてはいるが爪は20センチほどだろうか、長く、そしてマントのように見えたそれは羽のようにも見えある。 尖がった耳に鋭利な歯ばかりが並んでいた。


「お前何人喰った? 」



 その得体のしれないものは何とか逃げようとしていた。 霊はそのものの体にまたがり両手で獅子暫刀を差し込んだ。 深く、とても深く。 

 強烈な悲鳴と共にそれは動かなくなってしまった。  あっけない。 砂煙が上がる。


「霊、待ってまだ消えてないよ」


 霊を目掛けて小さなものが飛んできた。 霊はそれを振り向かず真っ二つにした。 そのものの体から獅子暫刀を抜いて。

 

 それと動じに霊の右腕にそのものと同じ鋭い爪が深く刺さる。 さっき殺したはずのそいつが目の前にはいた。 そいつは霊の首元を狙って飛んできた。 霊もそれは理解していた。 もう一本の鋭い爪が首目掛けて描きに来た時、霊は何とか体をそらしたが、バイザーが吹っ飛んで地面に落ちた。


 霊は敵と距離を取っていた。 もう右手は使い物にならない。 剣を握れない右手から左手に持ち替えた時、暗闇から、猛スピードで霊目掛けて奴が飛んできた。

 

 霊の背中が抉られる。 そいつはまた物陰に隠れた。 痛々しいひっかき傷が5つ、背中に入っている。  それでも彼女は刀を落としはしない。 左もも、右腕、左わき腹、右足。

 かわし、防いではいるものの、引っ掻き傷がいくつも入り、血が流れる。 とうとう彼女は膝をついてしまった。


 息が荒くなり、刀を握る力ももうあまりない。 それを見た人型のそいつは一直線に霊の胸元へと飛び込んできた。 霊はこれを待っていたと言わんばかりに、素早く刀を振り下ろした。

 魔物のような悲鳴と共に片腕が地面に落ちる。 予想外だった。 霊の一太刀でそいつは両断されるはずだった。 だが、落ちたのは片腕だけ、 そいつはと言うと、もう片方で霊の胸元を掴み持ち上げていた。


「お互い、顔を拝めたな。 その血をみると犠牲になったのは5人と言うところか」


 霊の前に立っていたのは、人の頭をしてはいるが、顔は魔物。 目はどす黒く、鋭い牙が何本も生えていた。 表情は憎悪にかられた人間よりもさらに獰猛な獣。


 霊は投げ飛ばされ、壁に体を打ち付けられる。 敵は倒れ落ちたところを切り裂こうとしたのだろう。

だが地面に打ち付けられた瞬間霊の体は宙に浮いた。 それは人間技ではありえない行動だった。当然魔物もそれは予想していなかった。


「だから、お前の負けだ。」


狩人、 それはこの世界の決している事すら誰も知らない人ならざるモノを、人知れずにして、討ち滅ぼすものなり。

 彼らはこうして人々の平和を守ってきた。時として汚れ仕事をし、汚名を被り、そして命を懸ける しかしこれは過酷な道。 普通の生活など送ることはできない、気の休まらない人生、そしてそこに入るまでの並みならぬ努力と苦痛、そして死すらも乗り越えていた少数だけが見る事の許される世界。 彼女にはどうしても成し遂げたい強い信念があった。どうしてもやり遂げねばならない事が。



「霊、大丈夫? バイザーが飛んだから、もしかたらと思ったよ」


「嘘つき。 私の生体認証でわかるくせに」


 霊はバイザーを拾うと、バイザーに向かって話す。


「無事で良かったよ、 すごい傷だらけ。 もう帰って来るよね?」


 バイザーの画面が霊から霊の視界に替わる。


「まだ、後2、3件だけ潰しに行く」


「いやいや、また魔物が出たらどうするの? 早く帰ってポットに入ってくれるかな? それが先だから」


「いやだ。 まだ左手がある」


「あのさ、君自分を機械か何かだと勘違いしてない? 君人間だからね。帰らないなら、指令放棄のスイッチ押して、緊急撤収させるよ」



 霊はとても嫌そうな表情をして空に従った。


その一部を物陰から鬼の仮面を付けた殺人鬼がこっそりと見ていた。

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