第6話 モールは危険



「すごいなここは」



 エリィーは相変わらず楽しそうだ。


 手にはアイス。 もう片方にはジュースを持っていた。



「ねぇ、ユウカ。

 あれは何なんだ―? 」

 

 興味深々に指さすエリィー。


「あぁ、あれか。

 あれはクレープって言ってだな」



「食べれるのか? 」



「あぁ食べれるぞ」



「あれが、食べたい」



「いいぞ、買ってやるからって……、


 おまえ、どんだけ食べるんだよ」



「いや、ここの食べ物は美味いくて。

 それに変わったものばかりで、どうも気になってしまう」



「そりゃ、気持ちはわかるけど、ダメだ、ダメだ。

 お前ちょっと食べ過ぎだしよ」


「えぇーいいじゃないか。 折角来たのだから」



「また連れて行ってやるから、まず今お前が持ってるものを処理しろ」


「んー、あそこからすごくいい匂いがするのに。

 ちぇっ、わかりました―」



 エリィーは残念そうに手にしたアイスを食べる。

 今、自分でも手に持てない状況を把握したのだろう、クレープをあきらめる事にした。




「あっ、そうだ。 ちょっとついて来てくれるか? 」


 ユウカは、思い出したようにエリィーを誘った。



「ん? いいよー」


 とても楽しそうな表情をしているエリィー。 こいつ楽しそうだとこんな顔するんだなと、ユウカは見とれてしまった。


「ちょっと寄りたい店があるんだ」


「わかった―」



 そうしてエスカレータを上がろうとする。



「ユ、ユユユ、ユウカ。

 どうしてか、か、階段が生えてきて、動いてるぞ」



「いや、これはエスカレータといってだな」



「と言うとでも思ったか。

 エスカレータぐらい知っているわ」


 エリィーのいつもの冗談。 こいつやりやがったなとユウカは睨んでいる。

 その姿を見てエリィーは楽しそうだった。


 ユウカは先にエスカレーターに乗った。


「どうした、早く来いよ」



「ちょ、ちょっと待ってくれ。

 どうやって乗ったらいいのか」


 お前さっき知ってるっていてたよな?

 本当に知ってるのか? とユウカはこの時疑問に思う。


「いや、普通に乗ったらいいんだよ」


「おい、ユウカ待ってくれ、普通って。

 私を置いて、勝手に一人で行くな」


「いやいやいやいや、無理だから。

 俺が勝手に行ってる訳じゃないし。


 てか、止まれないし。 てか、俺は止まってるし」


 ユウカはどうしようかと思った。

 エスカレータが勝手に運んで行くし、助けにも行けない。

 とりあえず上で待つ事にするしかない。



 と言うか、知ってると言いながら、エスカレータに乗れない事がユウカにはとんだサプライズだった。


「お、おい。

 こんなのに足を乗せてしまって大丈夫なのか?

 なんだかタイミングがつかめないんだが」



 しどろもどろしているエリィー。 なんだかそんな姿が可愛かった。


「いいから、よく下を見ろ。

 黄色の線が見えるだろ。 階段が上がったら平らな部分が出てくるから、黄色の線が見えたらブロックに足をのせてみろ。


 そしたら大丈夫だから」



「うむ。 わかった。 線が見えた後のブロックだな。


 良し行くぞ」



 エリィーはエスカレータに足をかけた。


「おぉ、乗れた」



「エリィー、横を持て! 」



「えっ? 」



 エリィーは丁度乗るタイミングが悪く、ブロックとブロックの間に足を置いてしまった。 ブロックが階段状に上がった時に押し出され、後ろに重心を持って行かれた。



「ふぎゃぁっ」



 あまりの事に周りの人が手を差し伸べてくれる。


「大丈夫かい! お嬢ちゃん」



「おい、大丈夫かエリィー!


 待ってろ。 今そっちへ行くから」



 痛そうに立ち上がるなり手を突き出すと、、彼女は服を払った。



「構わん! 次は乗れる」


 エリィーの強情際の強いところが出る。


 だか、そういうと今度はしっかりと乗りこなして見せた。


 そんな姿を見てホッとするユウカ。

 そんなユウカをじっと見つめながら上がってくるエリィーが我が子のように可愛い。


 そして決め顔のどや顔。


 まぁ、今回は良くやったと、エリィーを褒めてあげた。




 拍手の喝采が鳴り響く。


 気が付けば辺りには人だかりができ、取り囲まれていた。

 それはそうだろう。この巨大モールには数千人以上来ているのだから、エスカレーターでこけようものなら、ちょっとした混雑も起きよう。 それに加えて、大声で話せば、人は何なのかと集まってくるのは至極当然である。


 エリィーは嬉しそうにしていたが、ユウカは恥ずかしくて死にそうになっていた。




「で、行きたかった店と言うのはこれか? 」



「あぁ」



 そこはキラキラした感じのピンクピンクしい看板。 可愛らしい服が置いてあるお店だった。


「お前、こんなのが趣味なのか」



「ばか、お前のだよ」


「私のだとぉ?

 私にはこんな可愛い服は、に、似合わんぞ」


 エリィーは困惑していた。


「そんな事無いって。

 ちょっとお前の好きな服選んでみろよ」



「う~む、ここでか。

 

 ――良し。 物は試しに、選んでみるか」



 エリィーは難しそうに考えながらも、自分なりに真剣に選んだ服を更衣室に持って入った。



「エリィーどうだ? もういいか」


 ユウカはどんな衣装をエリィーが選んだのか、早く見たくて仕方がない。



「うむ。 構わんぞ」



「良し。 じゃあ、開けるな」




 開けるとエリィーが選んだ服を着て立っている。 この時ユウカはエリィーのファッションセンスを疑った。


 なんだ、ピンクの服に茶色のズボン。 素材が良いだけに可愛いけどなにか違う。

 これでは可愛さの魅力が引き出せていない。


「ど、どうだ? 」


「お前、何着ても似合うんだな」


エリィーは顔を赤くして黙った。


「ん~、似合ってて可愛いんだけど、なんか違うんだよね」



 エリィーはショックを受けた。


「な、何がダメだと言うんだ」



「いや、いいんだよ、いいんだけど……」


 ユウカはエリィーを見ながら考える……。



「そ、そんなにじっくり見られると恥ずかしいぞ」



「ちょっと待ってろ」



 そういうとカーテンを閉めて足早に去っていった?



「えっ? ユ、ユウカ?……」



 急にカーテンが開く。


「キャ――――」



「これを着てみてくれ。 後これと」



「う、うん。 わかった」



 暫くして。

 


「ユウカ。

 い、いいぞ」




 ユウカがカーテンが開く。



「おぉ。 いいんじゃなか。 どうだろう。 可愛いと思うんだけど」


「た、確かに」


 エリィーも自分が可愛くなった姿に、少し照れている。

 ベージュ色のミニパンツに、白のふわっとした可愛いインナー。

 それにカーキ色の薄い生地を着せて、前で服の裾をくくって見せる。


 靴は黒のショートブーツ。 


 エリィーの元気良さが全面にでる、可愛くて活発差が押し出される印象だった。



「後な、これと、これも着てみてくれ」


「え、えっ、あ、うん。 分かった」


 と言ってエリィーはカーテンを閉めた。


「あ、そうだ、それとこれ」


「キ゛ャ――――――――――――――――! 」



 いきなりカーテンが開くのでエリィーは酷く驚いた。


「ユウカ、お前、デリカシー無いな」


「うん。 そうだね。 ごめん」


「カーテンを急に開けるのは止めてくれ。

せめて、ひと声かけてから」


「そうだな、悪かった」


 流石にユウカも照れた。子を持つ親とは子のようなものなのだろうか。 そのまぶしい姿をいち早く見ようと興奮がおさまらない。 相手からしてみれば、相当迷惑でもある。

 我を忘れ、可愛いエリィーの色々な姿に心踊り過ぎていたと反省した。 平常心でいなければ、相手も困る。

 暫くしてエリィーから声がかかる。



「あ、開けるぞ」



「おう、いいぞ」



 その姿に目をやられた。

 可愛い。 すごくかわいいのだ。 やはり興奮は抑えられない。



 それから一時間ほど、このやり取りが続く。


「エリィー、お前、どれ着ても可愛いな」



「お前、私を着せ替え人形にしてないか? 」


 エリィーもいつもと違う服が着れて、楽しかった。

 そしてユウカとこうして遊べることが何よりも嬉しかった。



「さぁ、どうするエリィー。

 好きな服選んでいいぞ」


 エリィーは事前にユウカが持ってくる服の値札を見ていた。

 確かに金額は彼女には分からない。

 だか、ユウカが持って来る服がいつも着せてくれている服より特段に高い事だけは分かっていた。


「えっ? いや、いいぞ。 着れただけで十分だ。

 それにとても、楽しい時間をもらえた。

 ありがとう、これで十分私は堪能できたぞ」


 エリィーもユウカがお金が無い中必死で頑張っている姿を知っている。

 それに、エリィーは服が欲しいわけでもない。

 今の環境があればそれだけでエリィーにとっては幸せなのだ。


「それに、こんなに素敵な服だと確かに嬉しいが、私にはちょっと可愛すぎるしな」

 照れを見せるエリィー。 ここで照れは卑怯である。



「気に入ってないのか」


 エリィーは切なそうなユウカの顔を見た。


「いや、そう言う訳ではない」


 エリィー自身、自分にこんな可愛い服が似合うなどと思っていない。

 気慣れない服に少し抵抗があったというのが本音だ。

 だから嫌とか、着たくないといった訳ではない。

 時間を頭の中で巻き戻して、こんな服も来ていたなと今日の事を恍惚として思い出すぐらいで良いと思っていた。




「分かった。 じゃあ着た中でだったら、お前の好みはどれだったんだ?

 今後のお前の服選びの参考にお前の好みを知っておきたくて」


「ん―、そうだな。

 これとこれだな」


 即答だった。



「よし、じゃあこれ買ってくる」



「待て、ユウカ――! 」



 エリィーは口車にまんまと乗せられてしまった。



「ありがとうございました」



「本当に良いのか? そんな事の為に奮発してしまって……」



 申し訳なさそうにユウカを見上げるエリィーは本当に小動物のようだった



「はい、これ。 俺からのプレゼントだ。

 受けとってくれるか? 」



「うん。 ありがとう」



 満面の笑みがユウカを包んだ。

 その笑顔を見て、買ってよかったとユウカは喜んでいた。



「さて、もう2時も回ってるし、いったんお昼にでもするか」



「うん。

 そうだな」



 ユウカ達は4階のフードコートへと足を運んだ。


 途中何度も店に入ろうとする、エリィーを止めて。


 モールには他にもたくさん店が入っていてい、4階は主に食べ物ばかりのお店が並んでいる食事を楽しめるエリアだ。 入っている店舗は有名なお店が多い。 イタリアンだったり、焼肉屋だったり、ラーメン屋や、オムライス専門店等、より取り見取り入っている。

 だが、沢山の目新しいものに触れられる場所として、ユウカは今回エリィーをフードコートの方へ連れて行くことを考えていた。 ここなら食べ物が限定されず、色々とまとめて選べる。

 そして、何より、価格が他のお店より安いと言う利点もあった。



 案の定、思惑通り沢山の種類を目の当たりにして喜ぶエリィーがそこにあった。



 その矢先の事だ。 ユウカの瞳が3人の女子高生を捉えた。


 ヤバい! 星達だ


「エ、エリィちゃん、ちょっと、こっち来ようか? 」


 ここで満かる訳にはいかなかったユウカは、こっそり場所を移動しようとした。


「ん? どうしたのだ」


 三人のう内の一人が、ユウカ達の方を向いた。


「まずい。 ちょっと来い」


 反応の速い事。

 ユウカは慌ててエリィーを引っ張って足早に移動した。


「な、何だ、どうしたのだ?」


「いや、何でもない。

 とりあえず、こっちのごはん屋さんから探そうか。 きっとこっちのが美味いぞ」


「えぇ~。 あそこで食えないのか? 

あそこがいい」


「もっといいとこ連れて行ってやるから」



 そう言って、近くにあったオムライス専門店へ逃げ込んだ。

 






 一方その頃星達


 フードコート内座席にて。 


「やっぱり時間ずらして正解だったねぇ~。

 大分空いてるよ」


「これなら待たなくていいもんね。

 流石、黎ちゃん」


「じゃああたし、あれ買ってくる」


 いち早く動き出したのは月だった。

 決断の速さはこの三人の中でいつも彼女が早い。


「あっ、ちょっと待って月!

 私も同じの買う」


「あんまべたべたするなって」


「いいじゃん、月照れちゃって。

んもぉ、ほんと可愛いな~こいつぅ。

うりうり。

 星も同じやつでいいよね」



「うん。 私もそれで。

 じゃあ、私、みんなの荷物番してるね」


「ありがとう、よろしくね~」


 慌てて止めると黎が月の後を追うように2人は席を立った。


 お目当てのお店の前には列ができていて、二人はその列に並んで待った。 お昼時の時間でもあり、ずらしたとはいえ今日の来場人数はとても多いので、少しの列ができるのも無理はない。 それでも、時間をずらさなかった時と比べれば、大したことは無く空いているレベルである。


「なぁ、黎」


「ん? 」


「もしかしてあの服屋、また行くの? 」



「え? もちろん」


「じゃあさ、俺、音楽ショップ行ってていい? 」



「うん。 でも先に服屋行ったらね。

 私も月と一緒にCDみたいじゃん!

 だから、一人ではダ~メだよ」


「うっ、」


 月は黎たちと離れて行動したかった。

 それには月なりの理由があるからだ。


「とりあえず、御飯、御飯」


 二人は注文を済ませ、料理が出るのを待っていた。


「お待ち同様でーす」


 


「とりあえず、月! 星の分一緒に先に持って行ってあげてくれない」


「あぁ、いいけど。

 まだお金払ってないから」


「いいから、いいから。 今日は時間ずらしたし、星達もお腹ぺこぺこでしょ?

 早く持って行ってあげて欲しいの。

 私が先に払っておくから、後で食べ終わったらみんなで精算しよ」


「うん、確かに。 わかった」


 月も待っている星になるべく早くご飯届けてあげたいと思ったので黎に従い星の元へ食事を届けた。



「転ばない様に気を付けてねぇ」


 月の両手はお盆でふさがっている。


「私はガキじゃない! 止めろ」


 心配してくれているのは嬉しい事だが、場所が場所だけに止めてほしかった。 なぜならコート全体に聞こえるほどの大声で話しかけてくるからだ。 まぁ、黎の事だからわざとであろう。



「はい。 お待たせ」


「うわぁ、ありがとう」


 追いかけるように黎がやってくる。


 「はぁ―、追いついたぁ。

 それじゃあ! 」


「頂きまーす」

「いただきまーす」

「いただきます」


 こうして三人は御飯にありついた。 野菜がふんだんに入ったちゃんぽんラーメンは出来立てほやほやだ。



「でね、聞いてよ、月ったら、あの店行きたくないって言うんだよ。

 酷くない?」


「え、それはダメだよ月ちゃん。

 私たちと一緒に行かないと」


「星まで。 頼む、見たいものがあるから」


「えー月ちゃんいないと寂しいじゃん」


「ねー。

 だよねー。 ほら月! 星も悲しがってるでしょ」


 星と黎は息ぴったりだ。

 月と買い物したくて仕方がない。


「それにしても、ユウカの奴。何考えてんのか! 」


 話題は変わり、黎がいきなりユウカの話を切り出した。


「あははは……、仕方ないよ。

 ユウカ君も忙しそうにしてたし、急用が入ったってメッセージ来てたから」


「たく、うちらの親切を無駄にしちゃってさ。


 折角なんだし、一緒に遊べばいいのに」



「まぁまぁ」


 星がなだめる。



「あ、でも、さっきユウカっぽいの俺、見たような気が」



「えっ?

 それは無いと思うけど。

 ユウカ君帰るって言ってたから」



「そうかな。 あれどう見てもユウカっぽかったんだけど。

 なんか慌てて走って行ってた感じしたけど」



「え?

 なんて?」


「いや、何でもない。

 その人、子供連れて歩いて行ってたから、私の見間違いかも」



「ユウカ君が子供連れて歩いてるって、どんな絵図ら」


 と黎が笑いだし、星もくすくすと小さく笑い出す。


「いや、ほんとに

 なんか、そう見えたんだよ」


 笑われた月は照れながら反論する。



「もしかして、月~」


 目を細めてにやついた黎が月を見つめる。


「な、なんだよ」



「ユウカ君と家庭築いて、モールを歩いてるシーンでも想像してたんじゃないの?


 実は月ってユウカ君の事」



「えっ?! そうだったの! 全然知らなかった。

 あっ、でもそっかぁ。 道理で」

 

 いつもこんな感じだ。 黎が大体始めて、星が乗ってくる。 この二人は月を揶揄うのが好きなのだ。

 月のクールぶってる反面、照れる反応がものすごく可愛くて面白い。 そんなギャップを持っているから余計だ。

 揶揄い甲斐があり、止められない。 揶揄われ属性とはまさに彼女の事を言うのだろう。


「はぁ!? な、なんで俺があいつを好きなんだよ

 意味が分からない。

 どうしたらそんな解釈になる。

 てか、星も道理でってなんだよ。

 ったく」


 照れながら顔を横向ける。


「あれれ、月ちゃ~ん。 私別にユウカ君の事『好き』だなんていってないんだけどな~

 聞き間違いかな~」


「もぉ! お前ら止めろ。

 だから、この後の服屋も、お前らと行きたくないんだよ」



「えぇ~、やだ」


「お前らまた俺で遊ぶだろ」


「だって月ちゃん可愛いんだもん」



「そうだよ、月。

 何着ても似合う月がうらやましいよ。 ほんとうに」


「私はお前らの人形じゃない」


「あ、黎、そういえばまた新しいショップが出来たらしいんだけど知ってる? 」


「え? うそ。 知らない」


「じゃあこの後みんなでそこ行ってみない? 」


 星がちらっと月を見る。


 星だけは味方になってくれるかもしれないと希望を持っていた月だったけど、もうその期待は無い。 月には嫌な予感しかしなかった。

 

「私は行かないからな」



「あれ~?

 ここの御飯代私が払ったんだけどな~」



「おい、ちょっと待て。 それは話がちがうだろう。

 食べ終わったら皆で精算するはずだろ」


「え? 何言ってるの。 ここは私のおごりだよ。

 月も口付けたよね。 月も食べたんだから、当然付き合ってくれるんだよねぇ。

 ねぇ? 星」



 月はしてやられたと、今気づいた。

 そもそもおかしいのだ。

 黎なら人を使って何かをさせる様な事はほとんどしない。

 いつも、誰かが番をしてくれているなら、真っ先に自分から率先してその人の分を持っていくタイプだ。

 だからあの時私に頼んでやらせた事に疑いを感じるべきだった、と月は策略にはまってしまった自分を悔いた。


 ここは星にかけるしかない。 こうなってしまった以上、助けは星だけだ。

 彼女は真直ぐで人を騙すような行為だけは酷く嫌う。

 月は助けを見る様な目で星を見た。 ここで星がどう答えるか。

 それで、この話はどちらに軍配が上がるかが決まる。


 星は術中にかかってしまった月を察したのか、ちょっとかわいそうな顔を浮かべた。


 だがしかし、全てを把握した星は


「うん。 そうだよ」


 黎側に着く事に決めた。

 やっぱり月を連れて着せ替えする事が楽しくてやめられない。 これは譲れないのだ。


 こいつら。

 と月はあきらめた。

 二人に負けた月は、仕方なくこの後、着せ替え人形と化すこととなった。








「とても美味しかったぞ。 ユウカ」


「そうか、良かったな」


 ユウカは財布をもって泣いていた。


 まさか、オムライス5杯も食べてくれるとは思ってもいなかったからだ。

 こんなか細い体のどこに入ると言うのだろう。

 ユウカは不思議で仕方がなかった。

 いっそ、解剖して調べてやろうか。と思っていた。


 後半も色々とモールの中を歩き回って楽しんだ。


 途中何度か星達に逢いそうになる場面があったが、御手前の技術で振り交わして交わしていた。



「なぁ、ユウカ、これさっきの……」


 指指す先にはクレープ屋があった。 さっきの店とは違うがここもクレープを売っている。


「お前まだ食うのかよ」


「いいではないか。

 とても良い匂いがするんだ」


「確かにクレープだから、女子は好きだし、いい香りはするけど、お前さっきオムライス5杯も食ってるんだぞ」


「それがどうしたのだ? 」



 こいつの食の感覚はいったいどうなっているのか。

 こんなやつと過ごしていると思うと、この先が怖くて仕方がないユウカだった。




「な、なぁ、ユウカ! 」



「今度はどうした」


「あの黒い所はお店か? 」


「ん? あぁ。あそこは服屋だな。


 んーっと、何々、ロールクロー?

 すごい名前だな」


「あ、あそこに行ってみたい」


「どんなのが売ってるんだろう。 わかった、調査も兼ねて行ってみるか。

 でも、こんな黒を強調したお店あったかな? いつできたんだ? 」



 店前に立つとユウカは入るのに渋った。


「ここ、ロリータファッションじゃないか」


「なんだ? その、ロリターファッションとは」


「ロリータファッションな。

 ゴスロリとか言われてる、ん―、なんて言うか、ゴシックでロリータな服の事だよ」


「ゴシックでロリータ。

 ふむふむ。

 全然わからんぞ」


「まぁ、見た感じのままだ」



「なんと、このような魔力のある店がここにもあったのか」


 魔力ってなんだよ……

 あえてユウカは突っ込まなかったが、時たまエリィーは年相応以上の知識を持っていたり、訳の分からに事を言い出すところがある。


 尻尾もあって、デビルのような羽も生えてるこいつなら、確かにここの服も似合うんだろうけど。

 これじゃこいつがきたら、完全なコスプレになってしまう。

 それにこれじゃあ、尻尾とか完全に隠せないだろう。

 でもこれはこれで、コスプレとしたなら、意外に隠さずにカモフラージュにもなるのか。

 とユウカが物色していると、エリィーがまじまじとある服を見ていた。



「お客さま、プリティですねぇ~

 こちらのドレスに興味がおありですかぁ」


 エリィーが店員に話しかけられているのを見て、すくにどんで来るユウカ。


「あはは、どうもこういったモノを見たことがないみたいで、興味本位で入ってみたんですけど」


「あら、あなたお父様ぁ~……、

 って感じでもないわねぇ。

 もしかして、あなた、こんなプリティガールにこういう服を着せて楽しむロリコンさんかしら」


 ロリコンじゃね!

 ユウカはイラっとしたが大人の対応をするように、自分に言い聞かせた。


 しかし、それよりも驚いたのは、この店員さんのがたいの良さ。 何だ彼は!?

 全長180センチ以上、そんじょ、そこいらのボディビルダーなんかを優位に超える肉体美。

 その超絶した筋肉。 分厚い唇。 そして、色々と濃過ぎる顔。

 何をどうしたらそこまで胸板が厚くなると言いうほどの、女性? が立っていた。


「ははは…、いや、そう言うんじゃないんですけどね、この子がこのお店に興味があるみたいでして」



「あら、この子が」


 エリィーはずっと上にかかっているドレスを見ている。

 そのドレスは飾り物か? といわんばかりに天井からつるされるような形で壁に添えて展示されていた。



「あなた、これに興味があるの?

 これに目をつけるなんて中々見る目があるじゃない」





「どう? 何か着てみるかしら? 」



「おじさん。 私これが欲しい」



「だぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ! 」



 ユウカは慌ててエリィーの口を塞いだ。



「こら、『おじさん』なんて言ったらダメだろ。

 あの人は女の人なんだから、お姉さんでいいんだよ」


 ユウカは一応気にして謝った。


「すいません」


「いいわよ、別に。 そんなの気にも止めてないわ。

 それより、どうして、このドレスが気になるの? 」


 先に言っておく。 エリィーは口が悪い方だ。



「なんだ? お前はこの店の、ぅ…ッ…」


「だぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 」


 急いでエリィーの口を塞ぐ。



「こら、『お前』なんて使うな」


 ユウカはまた口を押えて、こそっととエリィーの耳元で教える。


 理解できたのか、お互い目で確認し終えるとユウカはゆっくりと手を離した。


 目で理解したな? そうユウカは伝えていた。

 エリィーもそれを理解していたのだろう、目でわかったと伝えていた。



「貴女様はこれの所有者だろう?

この魔力を、モゴッ……」


「だぁぁぁ~あぁぁぁぁぁぁぁぁ~! 」


 エリィーの口をしっかりとふさぎ込む。



「その、訳の分からん『魔力』とか言うのは止めろって。

 俺も恥ずかしいから、そもそもなんなんだよ。

 後、敬語がおかしいから」


 ユウカはエリィーの口を塞いでまた耳元で静かに伝える。


 理解ができたとお互い相打ちを取ると手を離した。



 「このドレスが欲しい」



 買えるか―!

 

 何を言うとるんじゃぁ、お前は!

 と言いう心の声。 ユウカは目が飛び出そうになった。


「はははっ。 どうもドレスが気に入ったみたいで、年頃の女の子はみんなドレスに目が行くみたいですね。

 きっとお姫様に憧れているのかな」


 どう見たって何十万としそうなドレスを、軽々と欲しいと言われても、ユウカにはそんなお金の持ち合わせはない。


「そう、これね。 でもこれ。 高いわよ。

 これセットで合わせて、8千5百万よ」



 は、8千5百万!?

 その数字にユウカは腰を抜かす。

 それ以前に、庶民が来るようなモールに、そのような高級な商品が置かれていること自体が不思議で仕方がなかった。



「え、? 桁とか間違えてません。

 冗談ですよね? 」


「冗談じゃないわよ」


 マジか―――?!

 ユウカはすぐにこの店を出たかった。



「エリィーこれは流石に買えないぞ」



「そうか、買えぬのなら仕方がない。

 では、諦めるか」



 素直な切り返しでユウカはホットした。

 駄々をこねられたらどうしよう物か、後この店がどうもユウカは苦手だ。


「ちょっと待って。

 もしよかったらなんだけど、これとかどうかしら?」



 店員が差し出してきたのは、赤と黒のファッションミニドレスの洋服だった。

 紅蓮の黒味が強い見た目のワンピースのような服。

 これならばまだ、普通の服として出歩けそうであった。

 尻尾や、羽もちゃんと隠せる。



「これは、またすごい」



「ふ~ん。

 


 やっぱり。 貴女分かる子なのね」


 何故か店員と息が合うエリィーに戸惑うユウカだった。


「なぁ、ユウカこれを買ってはもらえないだろうか? 」



 ユウカは表情を見て一目でわかった。

 これは、エリィーが本当に心から欲しているものなんだと。

 さっき自分が連れていって買った服なんかよりも、数倍に彼女はこれが欲しいのだと。



 であるならば、買うしかない。

 だってその為に今日は彼女を連れて来たのだから。


 彼女の本当に欲しい物を買ってあげたい。

 ユウカは何の惜しみも無く、その服をレジへ持っていった。


 「あら、気前のいいお兄さんね。

 レディに優しくするなんて素敵よ」



 ユウカは早くこの店を出ようと思った。


 そして二人は手を繋いで店を出て行った。



 店員は見送りながらつぶやく。

「あの子、間違いなくきっと……」


 店員は不敵な笑みを浮かべていた。




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