第5話 ショッピング

 ゴロゴロゴロゴロ。





  ユウカはショッピングモールを目指して歩く。




 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ、





  今日の日差しはまた熱い。


  昨日の雨のおかげが太陽が輝かしくなっていた。




 ユウカが汗をぬぐいながら、前に進んでいくと、丁度反対側の車線を女子高生が歩いている。




「あれ、?


 ねぇねぇ、


 あれ、ユウカ君じゃない?」




「あっ、本当だ」



  一人の女子高生が、横にいた女の子、呼びかけていた。




「ユウカ―君!」



 可愛いく優しい声がユウカを呼び止めた。 あかりだ。



 声の先には、あかりと、その友達がユウカに手を振っていた。



「げっ、あれは、……」



 ユウカは今あまり人と会いたくなかった。


 本当は目の前に大好きなあかりが声をかけてくれて嬉しかったのだが、今のこの状況はとてもまずかった。



「よ、よう

 じゃあなー」



 それとなく声をかけ、その場をやり過ごそうとするユウカ。



「あー、ちょっと待って、そっち行くから」



 星の友達のれいが、戸惑う星を引っ張りながらユウカの元まで連れてきた。



 後ろをクールに追ってくる一人の女の子もいた。

 頭の後ろに両手を組んでいて、口にストローの刺さった飲み物を加え、明後日の方向を見ていた。



「えっ、ちょ、黎!



 ユウカ君困ってるじゃない」



「なーに、照れちゃってるのさ。


 いいじゃん、いいじゃん。


 折角会えたんだしさ、なんか話したいじゃん」



「もー、黎は。



 ごめんね、ユウカ君。


 忙しいのに足を止めさせちゃって」



「え?あ、いや、別に忙しってわけでもないけど」



「でもユウカ君、これから旅行か何か? でしょ? 」



「え? 旅行? 」



「結構大きい荷物持ってるみたいだから」



 星の目はスーツケースを見てたい。


 星だけではない、黎も、と言うかこれだけ大きなスーツケースを持っていたら、大概の人が目に留まるだろう。



 二泊三日は優に越すほどの大きさなのだから。



「いや、別に旅行じゃないけど」



「え? そうなの? 」



「そりゃそうだよね。


 日曜日に今から旅行なんて行ったら、来週からしばらく学校来ないって言ってるようなもんじゃん。


 それは流石にウチらにはできないよね」

 

 相変わらず黎は明るい。



 そう、今年の三年生は大事な時期でもあり、そう簡単に学校を休む訳にはいけないのだ。



「あ、そ、そりゃそうだよ」



「え、じゃぁ、どうしてうそんな大きなスーツケースなんか持ってるの?」



 星の疑問は当然である。 もう一人の女の子は会話ほ聞いてはいても、全く話には入ってこようとはしていなかった。



「あ、え、これ?


 えっと、これは、」



 何といえば良いのか、話をうまくつなげる説明が思いつかない。



「えーっと」



 ユウカは追いつめられていた。 このままではまずい。



「えー? もしかして、家出とか」



「誰が家出だよ。


 それに俺は一人暮らしだ。 出ていく必要がないだろ」



「あははは、そっかそっか」



 黎は分かってはいたが、あえてユウカを揶揄った。 揶揄うのは黎の大好物だ。



 丁度話の節目が切れたのをチャンスと思ったユウカは、話を切り出した。






「そういえば、未来みらいさんが貸してくれた、本めっちゃ面白いですよね」




「え、本当?」




「まだ全部は読めてないんだけど、いい本を貸してくれてありがとう」




「ううん。


 そう言ってもらえて良かった」




 何と言う癒しなのか。


 星は、相手を思って語り掛ける優しい女の子。

 そんな星の仕草に心が和む生徒は沢山いる。



「なになに、ちょっと二人とも。


 私たちが知らない間に、何、仲詰めちゃって。


 もしかしてさー、二人って実は」



「もぉー、何言ってんのよ、黎。 違うよー」



 笑顔で答える星をを見て、ユウカはとてもがっかりしていた。



「そ、そうだよ、別にそんなんじゃないって」



 星を困らせてはいけない。 ユウカは星の会話に合わせて話た。




「え? そうなの?


 だってさぁ、るな




「俺に振るな。

 別にどちっでもいいよ」



 るなは本当に興味が無いようだった。

 興味があったのはそのバカでかいスーツケースの事ぐらい。


「つうかそれよか、あんたそんなでっかいスーツケース持ってほんとどこ行くの?」



 余計な事を聞く。とユウカは言いたかった。



 折角話をそらしたのに、月のおかげでまた話は振出へと帰ってきた。



「実は町内の子供たちにお菓子を沢山配る事になって、それでその買い出しに」



「お菓子?


 何それイベント?


 そんなのあったけ? なんだか楽しそうだね」



 黎の目はきらきら輝いていた。



「すごい。 優しいんだねユウカ君」



 星は相変わらずピュアだ。



「でも、そんなお菓子、どこまで買いに行くの?」



 月は問うた。



「いや、ちょっと、そこのモールまで」



「へぇ、そうなんだぁ。


 モールか~。


 そういえばモールって最近新しいお店何軒か入ったって広告で出てたよね。



 いいな。


 そうだ! 私たちも行こうよ!!



 どうせ、私たちも暇だったし」




「いや、黎、


 ユウカ君困ってるし」



「ねぇ、月もいいでしょ」



「どっちでも」



 相変わらず明後日の方向の月。



 ユウカは心がときめいた。 まさか星と一緒に買い物に行けるチャンスが来るなんて。


 まるで夢のようだった。


 星と全く接点が作れなかった矢先、休日に買い物に行けるのだから、ユウカにとっては喜ばしい事この上ない。



 そんなチャンスを作ってくれる黎には感謝でしかなかった。


 だが、今ではない。 なぜ今日なのかと、疑った。それが今日でなければどれほど願った日だったのか。


 今日は、今日だけはでやめてほしい。



 そういう気づかいは別の日に作ってくれ! 黎! とユウカは心の中で叫んでいた。




「じゃあ決まりだね。皆でモールへ行こう!」



 もうこの流れを止めれられる状況ではなくなっていた。




 黎はユウカに向けて軽くウインクを送った。


 今日に限ってはそのウィンクもユウカには余計だった。



「あ、でも俺ら、お菓子買い集めないといけなかったりするから、みんなと楽しんでモールとか回れないと思うし」




「俺ら?」


 星が疑問に思う。


 それはそうだ。


 彼女らには、やたらデカいスーツケースを持った青年が一人で歩いているのだから、一人称の俺が正解だ。


 複数形で言うのは間違っている。



 ユウカはその失点に気づいた。


 つい、後ろに入っているエリィーの事を数えてしまっている。



「だ―いじょうぶ、大丈夫! そのために私たちがいるじゃない。


 一人でやるよりも、四人でやった方があっという間でしょ」



 いいタイミングで黎が入って来た為、それ以上の追求は回避できた。



「その後は一緒にモールでも回ろうよ。


 その代わり、ユウカも服持ちとか手伝ってよねー」



 黎はさらに、ユウカの用事が終わった後、一緒に遊ぼうと提案してきた。



 ユウカに満面の笑みを見せて。



 ユウカは思った。


 今はその気遣いは本当に要らない。




 ゴンゴン、




 嫌な予感がユウカを襲う。




「あれ、ねぇ、今スーツケースから音がしなかった?」



 うん?やばい。



 エリィーが星達に見つかったらユウカの人柄は相当下がるだろう。 

 それどころが、政府関係に見つかる確率が上がってしまう。

 こんな状況で見つかりでもしたらどんな疑いを向けられるかもわからない。



 だけど、早く向かわなければ。


 これ以上外で立ち往生していたら、エリィーが熱中症になってしまうかもしれない。


 今日は日差しもきつい方だし、密閉されたスーツケースの中はきっと熱くなっているはずだ。



 そう察したユウカは三人を推し進めてモールへ歩き出させた。



 道中、相変わらず女子とは良く喋るもので、彼女らの明るい会話は絶えなかった。



「ユウカ君大丈夫?


 なんだかすごく重そうなんだけど。



 それ、本当に空なんだよね?



 良かったら私が持とうか?」




 やめて。



 今度は星がスーツケースを持つと言い出した。



 ユウカがスーツケースを持っている事で歩みが遅い。


 それに、ほかの三人よりも暑そうにしている。


 ユウカの姿を見れば、どう見てもスーツケースは重そうに見えて仕方がない。 



「なんかさ、家にあったのがこの頑丈そうなやつしかなくて。


 沢山買わないといけないと思ったから、これが丁度いいと思ったんだ。



 普通のスーツケースより頑丈にできてるから結構重いけどね」



「そうなんだ。それじゃ大変だよね。


 持つの変わるよ」



 持たれるわけにはいかなかった。



「いやいいよ。 俺の荷物だから。


 それに女の子に自分の荷物もたせて堂々と歩けないって」



「でも、……


 大丈夫?」



「あぁ、大丈夫だよ」



 ユウカは汗だくだった。


 それをみて星は余計に心配していた。 



「まただ」



 急に月が喋り出した。



「ねぇ、またスーツケースから音がしなかった?」



 何だって!?



「え? いや、気のせいじゃね? 」



 そこに追い打ちの黎。


「そうかな? なーんか重そうだし。


 実はなんか入ってんじゃないの?


 ちょっと私にも持たせてみてよ」


 三人は天敵である。


「もう、二人とも。


 ユウカ君、空だって言ってたじゃない。


 そうやって、ユウカ君疑うの良くないよ」



 星は本当に優しい。



 そしてこの人たちは鋭すぎて怖い。


 ユウカはそう思った。



 何にせよ星のおかげで、ばれることなくユウカとエリィーはモールへ着いた。


 しかし問題は、一緒に来た彼女たちをどうやって撒くかにあった。



「さぁ、じゃあお菓子を買いにいこっか」



 黎に押されるまま、流れでお菓子売り場にきた四人。


 モールのお菓子売り場はとても広い。




「じゃあ、私と、月でこっち探しに行くから、星とユウカ君でそっちからお菓子集めていこう!


 じゃあ、行くよ月。」



「行くって、おまえ、何のお菓子買うのか、ちゃんと、



「いいから、いいから。


 子供の喜ぶお菓子を選んであげればいいんだよ」



 月はものすごい勢いで黎に連れていかれた。



「あっははは…………、」


 星も戸惑いながら見届けていた。



「とりあえず、私たちも探そっか」



 下からのぞき込む彼女のしぐさは、より可愛さを引き立てていた。



 ユウカはこの時がずっと続けばいいのにと思った。


 いっそ、エリィーをこのままほったらかしにて、星とモールを回るのもいいなと。




 だけど静かなスーツケースを見て、エリィーとの会話を思い出す。


 ダメだ。そんなことはできない。 と我に返る



 今日はエリィーと約束している。


 星には悪いが、今日はエリィーとモールを回ってあげなければならないのだと。




 だが、ユウカにはとても名残惜しい。


 こんなチャンス二度と来ないかもしれないのだから。


 星と折角二人きりになれたと言うのに、自分からこのチャンスを手放さなければならない。




 しかも、彼女に嘘をついて、撒かなければならない事に心を痛めていたが。

 気持ちを切り替え、覚悟を決めた。



「あ、ごめん。俺ちょっとトイレ行ってくるわ」



「え? うんわかった」



「ちょっとその辺のお菓子見てて。


 あの、大きい方だからあれだったら、いったん二人と合流してて」



 手を振りながらユウカは走っていった。



 とりあえず、別に用は無い2階のトイレまで駆け上がり、ユウカは一番奥にあるトイレを見つけて、便座に座った。



 はぁはぁ、と漏れる吐息。



 これまでにない大いなるチャンスと、機会を棒に振って、想いを寄せている人に嘘までついてトイレに駆け込んだユウカ。


 持っているものは重すぎるスーツケース一つ。 この一日は一生の思い出になるだろう。



 気疲れと疲労の解放と共に、溜息が漏れる。


 コンコンコンと、音がする。



 無音だけが空間を包んだ。



 誰かが、ノックした? トイレに誰かが入ってきていたら出れない。


 ユウカは息を殺して潜んだ。


 入ってますと言えばいい。


 ここはれっきとした男子トイレで、女子トイレではない。



 だが、あまりにとっさのノックにユウカはなぜか息をひそめる事を選択した。



 叩く音はしないし扉の向こうに人の気配も感じない……。




 やり過ごした?

 ユウカはトイレの扉を警戒していたが、その後ノックが聞こえないのでホッとする。



 さて、これからどうしよう。


 あいつらが帰るまでここにいる訳にもいかない。



 とりあえず、1階にさえ行かなければ彼女らと会う事もほとんどないだろう。



 更にそれでは甘いと、ユウカはスマホを持ち星に連絡を入れる事を思いつく。



「そうだ。 こうすればいいんじゃないか?


 急に用事ができたと星に送ろう。


 お菓子はいいから大至急戻ってきてくれと連絡があったとか、そんなのでいいだろう。



 そうすれば俺たちが居なくなっても不思議に思われない。



 彼女らも自分のやりたいことが終われば帰るはず」



 ユウカはスマホを取り出す。



 コンコンコン。



 まただ。



 また人が来た? ユウカは驚いて息を殺す。



 しかし、さっきの人とは違う。 今度はしつこかった。



 コンコンコンコンコンッ、




 ――――――――――――――――――――。



 コンコンコンコンコン!



 ――――――――――――――――――――――――。



 コンコンコンコンコンコンコン、



 連打はさらに激しくなった。



 あまりに叩くものだからユウカも少しイラっときて返事を返すことにする。



「入ってます! 」




 その声に反応してか、叩く音は止んだ。


 今日は人がいっぱいなのか?

 沢山来るなと不思議に思っていると、さらに激しく叩かれる。




 コンコンではなくもうドンドンと力強く叩く音。


 まるで怒っているかの勢いだ。




 なんで? トイレに入っててそんなにドアを叩かれなければならない

 横もあるだろうに。


 そんなに怒られるような行動をしているとは思わない。



 ユウカは慌てて扉を開けようとすると、


 扉の前で暴れくるっているスーツケースがあった。



 あっ、音の原因はこれか。



 どうやら、スーツケースが囲いに密着していたせいで、その振動がドアに伝わっていて、勘違いしてしまったようだ。


 ユウカは胸をなでおろした。


「しまった。 忘れてた」



 エリィーの事だ。



 ユウカは慌ててスーツケースを開ける。



「お前、なにさらしとるんじゃ―い」



 勢いよく飛び出して来たエリィーの拳を受ける。



「わ、悪い


 ちょっと色々あって」



「何が色々あってだ。


 いきなり動かなくなって、止まりっぱなしだったから、どうなったのかとびっくりしたわぃ。


 着いておるならさっさと出さんかい! 」



 とてもご立腹だった。



「しかも、人が呼んでいるのに、入ってま~すってなんだぁ」



「悪かったよ。こっちも大変だったんだ。


 とりあえず」



「んんっ~~、何がとりあえずだ!


 こっちはお前の決めたノックまでさっきからしてたのにぃ。


 何で無視するんだぁ」



 手を回しながらポコポコと小さい攻撃を繰り出してくる。




「ごめんって。 気づかなかったんだ」



「気づかなかっただと。


 あれだけ気を使って優しく叩いてやったのに。


 見ろ。


 思いっきり叩いたせいで、私のか弱い手が真っ赤ではないか」



 エリィーは赤くなった部分をまじまじと見せつけてきた。



 白く透き通る肌をしているエリィーなので、その変色ぶりは痛々しいほどわかる。



「ごめんってば。 とりあえず、静かにしてくれ」




 ユウカは必死でエリィーを抑えようとしていた。






「お前、自分がしておいたことを棚に上げて、静かにしてくれだと」




 エリィーの火を余計に強めた。




「わかった、わかった。 俺が悪かったらから、ちょっと黙ってろ」




 勢いが加速するエリィーに、だんだんと口調が変わるユウカ。




「黙ってろってなんだ! お前もここに入ってみるか?! 」




 いや、それは勘弁だが、とユウカは思った。




「俺が悪かったが、今いるところは男子トイレなんだ。


 女性のお前がいるとまずい公共の場だから、頼むから騒がないでくれ」




 ユウカがエリィーの口に蓋をするとエリィーも状況を飲み込んだのか、黙った。




「何? トイレとな。


 ここはトイレなのか? 」



「あぁ、そうだけど」



――――――――――――――――――。



「ユウカ……、お前……、


 モールと言う所やらに連れて行くと言っておいて、私をトイレに連れてきたのか! 」



 いや、そうだけど、ちげぇよ。


 とユウカは思った。



「私をトイレで遊ばせようとしていたのか? 」



「どうやって遊ぶんだよ! 」



「はっ、今気づいたぞ。


 もしや、モールとは私が思っていた所とは違って、このようなお前の家にもある様な便座に座る事を言うのか?! 」



 うん。 訳が分からない。


 ユウカは少し落ち着かせることにした。




「とりあえず、いいから黙って。 ここを出るぞ」



 ユウカは空いたスーツケースを閉じて出ようとした。


 ん? 何やら物音がそたのでスーツケースの中身を見た。



 スーツケースの中には、週刊漫画二冊と、やりかけのゲーム機が光っていた。



「こいつ何持ってきてんだ。


 通りで重い訳だ。


 ってか、中快適なんじゃねぇか」



 っとユウカは口には出さなかったが、混乱しているエリィーを細い目で見ていた。



「良し、誰もいないな」



 扉を少しだけ開いて中を覗く。



 誰もいなかった為、誰も来ないうちにトイレから出ていく。



「なぁ、ユウカ?


 この壁についている白い容器の器はなんだ?


 初めて見る。


 これにも座るのか?」



 エリィーをは小便器を不思議そうに見て、中を触ろうとした。



「だぁぁぁぁぁぁ、触るな―」




 ユウカは慌ててエリィーを抱きかかえ外に出る。



 はぁはぁはぁ。



 スーツケースと女の子。


 二人を抱えて全速力で走る。


 ユウカは相当に疲れた。



「おぉぉぉ、な、なんなんだこれは」



 抱えながら外に出たエリィーは、目の前に広がる景色に目を輝かせる。



「ここはまるで夢の国のようではないか」



 賑わう声に、楽しそうに行き交う人々、家族連れの幸せそうな笑顔に沢山並ぶ色々なお店。



 そしてとても広い。


 見渡してもまだ奥が続く造りに、上の層も下の層もある。

 全長4階建て、映画館完備の娯楽施設。 さらに上は駐車場の作りになった大型ショッピングモールである。


 今、自分がどこにいるのかもわからないこのモールに、エリィーは感動と胸をときめかせていた。




「すごいだろう。


 ここがショッピングモールってやつなんだ。


 ここいらじゃ、ここに勝る大きさは無いからな。


 皆、ここに来る人が多いんだ」



 ユウカの話等、全く聞いてはいないエリィー。



「そうか、―――そうか。 モールとは本当にすごい場所だったのだな。



 さぁ、早く行こうユウカ! 」



「い、行くって、何処にだよ」



 急に走り出すエリィーに慌ててついて行くユウカ。



「お前、自分の事分かってるんだろうな」



「うむ。 十分わかっておる」



 無我夢中でエリィーは走っていた。


 スピードを出して、飛ばす、飛ばす。


 追いついたと思ったら、急に止まり出し、進行方向変えてまた走り出す。




「ちょっと、分かっているなら、少し止まってくれ。


 これじゃ、はぐれる」



「大丈夫だ、ユウカ。


 離れない様にしっかりついて来るんだ。


 目指すはあの先じゃ」




 エリィーは嬉しくて、我を忘れて燥いでいる。


 このままではまずい。


 ユウカは走るエリィーの手を捉え引き留めた。




「分かってないだろがい」



「あっ痛゛っ」


 ユウカの拳骨が頭に響いた。



「お前、また、、、」



 頭を抑えながら涙目になるエリィー。



「いいから、走り回るのは止めろ。


 ちゃんと行きたいところ、連れて行ってやるから。」



 何か言いたそうなエリィーに耳を傾けるユウカ。



「何で打つんじゃい!」



 やっぱりな。


 ユウカはそう来ると悟っていた。



「だから、お前が、全然わからず勝手に行くのを止めないからだ。


 お前逸れたらどうするんだ」



「逸れる? 逸れるとはなんだ? 」



 エリィーの純粋な質問にユウカは詰まった。



 これぐらいの年頃の子には逸れるって言葉はまだわからないのだろう。



「迷子になるってことだよ。


 ここはさっきも言ったけど広い。


 迷子になったら探すのが大変だし、お前みたいに容姿が整っていると誘拐だってされるかもしれないんだ。


 そうなったら危ないだろ。 人が集まるところは危険なんだ。


 そう言いう事には、気を付けないといけない」



「迷子? 誘拐? まぁよくは分からないが、


 一緒に連れて行ってくれるなら良いとするか」



 満面な笑顔で差し出らされる小さな手。 その手はとても愛愛しかった。



「じゃあ行くか」



 ユウカも差し出された手を軽く握って、二人はモールを歩いていった。 まるで仲のよさそうな親子の様に。




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