異世界に転生したら魔王軍幹部のお世話係を任されました。

廿楽 亜久

第1話 それは呪いというより嫌がらせ

 この日本って国は、マイノリティと声が小さい人間に、優しくない構造をしている。

 どちらかが揃えば、この日本においては”悪”で”間違い”。


 何が言いたいかって言うと、学生において、友達と騒いでないやつは、ボッチでバカにしていい対象ってことだ。

 しかも、俺が通っている学校は、健全な精神は、健全な肉体に宿るってことで、体育会系の部活に必ず入部するのが決まりで、まさしく上下関係厳しい昔ながらの部活だった。

 ついていけない俺は、初日に反抗的だと、殴られそうになり、逃げたら、最終的に羽交い絞めにされた後、教育として先輩という先輩から殴られ続けた。

 あれをリンチといわず、なんというか。


 しかし、学校に通わない引きこもり。なんていえば、今度は学校だけではなく、家でも生きづらくなる。

 学校なんて、授業で座って、話を聞いてればいい。

 初日にリンチにあったおかげで、部活内ヒエラルキーは最下位だが、それは遅かれ早かれなっていたことだ。


「――!!」

「――!!」


 頭上から、騒がしい声がすると思えば、学内で有名なカップルが喧嘩しているようだ。

 内容は、二股。


「明菜ちゃんと別れてくれないなら、死んでやる!」

「――ぁ゛あ゛!! いつものだな! だったら一回でも死んでみろよ!」


 逆ギレってやつか。

 いや、常套句なのかもしれないが。

 ああいうのには、関わりたくない。本当に。


「ぇ……」


 不意に陰った空を見上げれば、目の前には、黒い何か。



「――というわけで、あなたは死んだの。理解した?」


 わけのわからない状況に、目の前に座る女神と名乗った女は、ご丁寧に自分が死ぬまでの経緯を第三者視点で見せてくれた。


 我ながらこの死因はいかがなものかと思う。

 痴話喧嘩で自殺しようとした女子の下敷きになったとか。

 かっこわるい。

 しかも、ちゃっかりこの女生き残ってるし。はた迷惑にもほどがある。


「本来なら、このまま黄泉の国で一定の魂の休息後、転生するのが普通の魂のサイクルなんだけど」


 自慢げに一度、俺を見下ろすと、たっぷりの間を取ってから、女神は言った。


「あなたを世界の救世主。勇者として、異世界に転生させてあげるわ!」


 それはもう、断るわけがない。まさしく、天の恵みというような表情。


「いや、いいです」


 反射的に断れば、女神の表情が凍り付く。


「あ、う、うん。嘘はいけないわよね。正確に言うと、勇者一行ね。私が、魔王討伐をするその仲間としてよ」


 ね? と無駄にきれいな笑みで微笑みかけられる。


「……えーっと、どうして反応してくれないのかしら? 最近の若い人って異世界転生好きなんでしょ?

 少年なら勇者に憧れるって聞いたんだけど!?」

「い、いや、それはまぁ、嫌いってわけじゃないけど……」


 ファンタジー的なものは、確かに憧れはある。

 けど、中高で一度くらい考えるだろう。もし、二次元にいけたら、俺は絶対すぐに死ぬ。どの世界なら生き残れそうかって考えた末、最終的に、日常アニメに落ち着くアレ。


「そ、そっか。じゃあ、俺ツエー的アレね! じゃあ、特別な武器とか魔法とか! 武器なら任せて! 武神の娘だもの。より取り見取りよ!」


 ニコニコとどんな武器が欲しいのか聞いてくる女神。

 そもそも違う。

 ファンタジー世界とか、俺ツエーとかじゃなくて、もっと根本的な問題。


「……胡散臭い」


 つい、零れてしまった言葉。

 しまったと、口を塞いでももう遅い。


「…………」


 笑顔のまま凍り付いた女神。

 顔を俯かせると、肩を震わせている。


「あ、あの、その、すみません」


 悪気があったわけじゃない。

 ただ、いきなり女神と名乗られて、お前は死んだ。異世界に転生して勇者の仲間になれ。武器は特別なものを用意してやる。なんて、詐欺師だ。

 これで頷くやつ、いないと思う。


「こ、こっちが下手に出てれば……!!」


 顔を上げた女神の顔は、真っ赤で、どう見ても怒っている。


「たまったま、黄泉の国は入れない若い魂が彷徨うっていうから、私の仲間にしてあげようとしてるのに、文句ばっかり言って!!」

「も、文句ってわけじゃ」


 というか、今、黄泉の国は入れないって言ったか?


「そうよ! 高齢化してただでさえ定員オーバーなのに、子供は生まないから黄泉の国から魂が出て行かなくて、こっちだって大変なの!」


 なら、俺はどうなるっていうんだ。

 死なずに戻れるとか?

 いや、さすがにそれはないか。死んではいるみたいだし。


「どっちにしても、ここで保管できない魂は、別の世界に魂は一時的に移さないといけないのに、その世界で、なんでか魂は消えるから、お父様にも怒られるし……!

 それもこれも、向こうの魔王のせいよ! だから、私が倒してやろうっていうの!」

「……」


 どうしよう。めんどくさい気配がする。


「…………もういい」

「へ?」

「あんたなんか、嫌い!! 向こうの世界で、私の誘いを断ったことを後悔して死ねばいいわ!!」

「ハァ!?」


 女神は、ついに席から立ちあがると、俺に手を向け、ファンタジーでよく見る魔法陣が浮かび上がる。


「”毎日17時、過激な男女関係に巻き込まれろ!!”」

「なにそのいやがらせ!!」


 呪いと呼ぶには幼稚な、嫌がらせにしてはやりすぎな意味不明な呪いに、抗議することもできず、俺の魂は異世界へ飛ばされた。

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