初デート──②

   ◆



 ワンデイパスを2人分買い、まずは水族館エリアへと足を運んだ。


 水族館エリアは道順に進むにつれて、浅瀬から深海の生物を満遍なく楽しむことができる。


 他にも真珠取り出し体験のできるエリアや、クラゲをメインに展示しているエリアもある。老若男女、飽きることのない水族館として有名だ。


 で、そんな中子供に引けを取らないほどはしゃいでいる女の子が1人。



「魚ーーーーーー!!」

「美南、はしゃぎすぎだぞ」

「だってだって! はしゃぎたくもなりますよ! 見てください、ちんまくてちょこちょこしてます!」



 水槽に張り付くように、キラキラした笑顔で魚を見つめる美南。

 懐かしいな。彩香もこんな顔で楽しんでたっけ。


 水槽を見つめる美南。を、見つめる俺。

 その姿をスマホで撮影する。

 ……ちくしょう、画質が荒い。どうにかして一眼レフカメラを手に入れるか。

 使い方は……伊原大先生に聞こう。



「むむ。見てください、裕二君。チンアナゴです」

「相変わらずヒョロっちい見た目だな」

「可愛いです」

「そうか?」



 女の子の言う可愛いはよくわからんな。



「チンアナゴ……ちんち──」

「ストップ」



 いくら何でもその下ネタはどストレートすぎる。



「何でですか。チンアナゴの由来は、見た目がそっくりだからじゃないんですか?」

「チンアナゴに謝れ。チンアナゴの由来は、顔がちんって犬に似てるからなんだ。ほら」



 スマホで調べたちんの画像を見せる。



「……似てます?」

「……わからん」

「やっぱりチンの方が似てますよ」

「似とらんわ」



 こんなヒョロっちいチンがあったら怖いすぎる。



「まあ、本物はまだ見たことありませんからねぇ……ぽっ♡」

「頬を赤らめるな」



 俺の体を見ただけで気絶するくせに、こんな時だけ絶好調なんだから……。


 と、そんな俺達の横に家族連れがやって来た。

 男の子と女の子の兄妹だろうか。チンアナゴを見てはしゃいでいた。



「かーいー。にーに、かーいーねぇ」

「そうだなぁ。にょろにょろしててへびみたい」

「ちんちんだって」

「ちんあなごな」

「ちんちんあなお?」

「ち、ん、あ、な、ご」



 可愛い兄妹だなぁ。

 俺と彩香の昔を思い出すようだ。



「…………」

「……美南、どうした?」



 さっきまでテンション高かったのに、また下がってるような。



「……どうしましょう、裕二君」

「何が」

「下ネタという私のアイデンティティが、あんな子供に揺るがされています! これは由々しき事態です!」

「そんなアイデンティティ捨ててしまえ」



 本気で心配した俺の気持ちを返して。



「そんな……下ネタは私と裕二君を繋ぐ大切なものじゃないですか! 下ネタを捨てろだなんてっ、裕二君は鬼です! 悪魔です! 当時の下ネタ大好き裕二君の純粋な気持ちはどこへもがもが!」

「よーしわかった。わかったから静かにしようなッ」



 こんなところで下ネタ下ネタ連発するんじゃない!

 あと小さい子供に張り合うな!


 周りからの生暖かい視線に耐えきれず、美南を連れて奥へと進んでいった。








「おかーたん、へんなひとー」

「見ちゃいけません」



   ◆



「おー……ほほー……」



 大海原エリアにて。

 美南は少しずつ進んでは水槽の中を覗き、更に進んでは水槽を覗く。

 薄暗い中、驚いたり、目を輝かせたり、笑ったりと大忙し。

 だけどそれすら愛おしい。


 が、それ以上に疲れた……。

 なんだあのリトル俺達みたいな子供は。

 美南が妙に張り合ったせいで、微妙に注目を浴びちゃったし。



「あれ? 裕二君疲れてません?」

「ああ、主に美南のせいでな」

「あ、あはは……ごめんなさい、さっきは、その……」



 どうやら張り合ってしまった自覚はあるらしい。



「気にすんな。美南がどんな奇行に走ろうと、俺は美南のいい所をたくさん知ってる」

「うぅ。ありが……あれ、今の慰められてる? 貶されてる?」

「慰めてる、慰めてる」

「ほんとうですー?」



 ぷくーと頬を膨らませる美南。

 そんな美南が愛おしくて、可愛くて……。

 やっぱり俺は、美南が好きなんだなと実感する。


 巨大水槽は、水面は外に出ているため太陽光をよく取り込んでいる。

 そのおかげで、地階に位置するここは水面の揺らぎで太陽光を散らし、幻想的な雰囲気を漂わせる。


 その中に佇む美南のなんと美しいこと。


 そんな美南の手をそっと握ると、不思議そうに首を傾げた。



「……? 裕二君?」

「美南」

「はい?」

「好きだ」

「はにゅっ!?」

「さ、次行こうぜ」

「まっ、待ってください! 今の録音! 録音させてくださいぃ〜!」

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