荒療治──④

『それでは続いて裕二君、お願いします!』



 と言われて寝室に押し込まれたが……。


 保存した写真をチェック。


 これと似たような写真を撮ればいい……のか?

 これって、可愛い女の子がやるからこそ破壊力があるのであって、俺みたいな男がやっても意味ない気がするんだが……。


 念の為に美南にメッセージアプリで確認。



 美南:好きな男の子の腹チラが嫌いな女の子はいません!



 とのこと。

 本当かね……?

 ……まあ、ここでいつまでも渋ってる訳にはいかないし、何枚か試し撮りしてみるか。



「えっと……斜め上から、顎を引いて……?」



 パシャリ。

 ……お、いいかも? はは、自撮りってなんか楽しいな。

 他にもネットで調べてみよ。

 ……へぇ、自撮りアプリ『スノリアン』か。犬耳、猫耳、うさ耳等を付けて自撮りができる……こんなものもあるんだな。使ってみよ。

 パシャ、パシャ。



「ほほう。面白いなこのアプリ」



 もう何枚か。

 パシャ、パシャ、パシャ。


 ふむふむ。中々いいじゃないか。

 乗ってきたぞ。そろそろ俺もチラリズムのある写真を撮ってみよう。


 そうだな……こんな感じで裾を捲ればいいかな。


 パシャリ。


 ……お? なんか腹筋の影が見えてる?

 これは……光の当たり具合か。なるほど、こうやって見ると結構いい感じに割れてきてるな。

 もう少しこう……おおっ、すげぇな光!


 更に違う角度から撮ること数枚。

 ま、こんなもんだろ。

 ……これがエロいのかはわからんが。


 服をちゃんと着てリビングに戻る。

 と……何故か美南が座禅を組んで、黙想をしていた。



「……何してんの?」

「精神統一です。これから私は、裕二君が自分で撮ったえちちな画像を見ます。高瀬君が隠し撮りしたものではなく、本人が、私を想って撮ってくれたえちち画像……少しでもダメージを減らすべく、心を穏やかにしているのです」

「そ……そっすか」



 ドン引き。うちの嫁、ガチすぎる。

 美南は座禅を組んだまま深呼吸を繰り返す。



「すー……はぁー……呼吸を整え、心を穏やかに……そう、これは正しく、水〇呼吸11の型の如く」

「おいコラやめろ」



 色んな人に怒られそうだから、それ以上はいけない。


 精神統一が終わったのか、美南はゆっくりと目を開けた。



「では裕二君。いつでもどうぞ」

「あ、はい」



 目が据わってらっしゃる。

 ふむ……最初は普通の自撮りを送ってみるか。

 アプリも使ってない普通の自撮りを送る。


 直後、美南が苦しそうに胸を抑えて悶えた。



「ぐっ……かっこよき……!」

「そんなオーバーにリアクションされると照れるんだが」

「これでも精神統一のおかげで、反応が薄い方なんですよっ」



 これ、精神統一してなかったらどうなってたんだ。



「ふふふふふ、無事に乗り越えましたよ……さあ、ジャンジャン送ってください!」

「……それじゃあ……」



 変化球で。犬耳、送信。



「かわッ──!」



 ガクッと膝をつく美南。

 いいパンチを食らったボクサーのような顔付きになってんぞ。



「ふ、ふふ……可愛さが膝に来ました……」

「何言ってんの?」

「まさかこんな隠し球を投げてくるとは……恐るべし、です」



 よろめきながら立ち上がり、特に吐血もしてないが口を拭うような仕草をした。



「大丈夫か? やめとくか?」

「やります! やらせてください、コーチ!」

「誰がコーチだ」



 じゃあ……腹チラ、送信。



「────」



 …………ん? 固まったまま動かなくなったぞ。



「美南、どうした?」

「…………」



 ……気絶してんじゃねーか。



   ◆



「びええええええんっ! 私はダメな女ですぅぅぅ!」



 5分後。なんとか目を覚ました美南は間髪入れず号泣しだした。

 まあ、気絶しないって豪語してたのに気絶したからなぁ。


 ……仕方ない。俺から手を差し伸べてやるか。



「なあ、美南。俺から1つ提案があるんだが、聞いてくれるか?」

「えぐっ、ぐすっ……ひゃい……」

「思ったんだが、別に視覚的に慣れる必要ってないんじゃないか?」

「……どういうことです?」



 本当にわかってないのか、キョトンとした顔だ。



「ほら、俺らって何度か抱き締めたり、ハグしたりしてるだろ? その時は美南も何もないじゃないか」

「……確かに……」

「つまり視覚で見ると興奮しすぎるけど、触れ合うのは興奮より幸せが勝る……とか……」



 ごめん、俺も何言ってんのかわかんないんだ。

 でも理屈は合ってる。……と思う。根拠はないけど。


 だけど美南には目からウロコだったようで。



「……天才……天才です! 裕二君はかのダ・ヴィンチも裸足で逃げ出すほどの大天才です!」

「とりあえずダ・ヴィンチに謝ろうな」

「ごめんなさいダ・ヴィンチさん」



 よろしい。

 美南は緊張した面持ちで数回深呼吸をし、腕を大きく広げた。



「裕二君。ど、どうぞ」



 …………。



「……ふ……ふふっ」

「な、何で笑うんですか……?」

「いやっ、もう何度もハグしてるのに、まだ緊張する美南が可愛くて」

「むぅ……裕二君はいじわるさんです……」

「ごめんごめん」



 近付き、優しく抱き締める。

 俺と美南の身長差は20センチほど。

 そのせいで、俺のお腹の辺りに美南のたわわな胸が当たってスライムのように形を変えた。



「あぅ……」

「緊張する?」

「……します……けど……幸せの方が凄いです」



 美南は俺の首筋に顔を埋めて甘えた声を出す。

 やっぱり、直で見なければ何ともないらしい。



「まずは、この感触にゆっくり慣れていこう。な?」

「はい……くんかくんか、すーはーすーはー……くんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんか」



 嗅ぎすぎだ馬鹿たれ。

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