ド田舎の珍祭り【絶叫祭】で「結婚してくれ」と叫んだ結果
赤金武蔵
プロローグ 叫びたいほど愛してる
『さあ! 続いて思いの丈を絶叫してくれる方はこの人! 17歳高校2年生、
来た、俺の番だ!
高校生2年の春休み。
俺は休暇を利用し、親父の地元である田舎へ帰って来ていた。
今年は夏休みも受験戦争に当てられるから、帰ってくるとしたら来年になってしまう。
その前に爺ちゃんと婆ちゃんに顔見せに来た──。
──というのは(半分くらい)建前で、本当の目的はこっち。
絶叫祭。
田舎特有の珍祭りである。
しかしかなり歴史は古く、伝説も数多く語られている。
何でもここで思いの丈を絶叫したら、近い将来それが叶うとかなんとか。
嘘か誠か……そこのところはどうでもいい。
ただ、今年は受験になるから青春らしいことはできない。
受験に専念する今年。この想いを今
そう。ここで思いの丈を絶叫し、すっきりした気持ちで受験に望む。
そのためにここまでやって来たのだ。
よし、やってやるぞ、俺!
意を決してやぐらの上に登る。
田舎の祭りと言っても、歴史も去ることながら珍しさも相まって、県外からの野次馬やテレビクルーも集まっている。
まあ、テレビと言っても超ローカル番組だ。
この想いが彼女に届くことなんかないだろう。
やぐらから顔を出して下を覗く。
数メートル下には数百人単位で集まっている野次馬達。
さ、さすがに緊張するな。
……いやいや、落ち着け俺。ここまで来たんだ、男を見せろ。
司会からマイクを受け取る、「あー、あー。マイテスマイテス」と僅かな笑いを誘った。
「えー、丹波裕二です。今回は、好きな人へ告白するべくやって来ました」
「「「それいけそれいけ言っちゃって!!」」」
絶叫祭での告白は定番だ。
そこに、伝統の野次飛ばし。
俺は数回深呼吸をする。そして。
「俺、丹波裕二はああああああああ!! 同じクラスの
「「「おおおおおおおッッッ!!!!」」」
思い切り息を吸い──。
「……結婚したいほど大大大ッ、大好きだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
──……言った……言ったぞ、俺……!
一瞬の静寂。
直後。
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!」」」」」
割れんばかりの大喝采。
あぁ〜……快っっっ感……!
カタルシスで脳汁出まくってる……!
「やーやー。どーも、どーも」
やぐらの上から手を振り、喝采に応える。
この願いが叶っても、叶わなくてもどっちでもいい。
ただ、この溢れんばかりの想いを叫ぶ場が欲しかった。
本当、それだけなのだ。
今の俺、顔が真っ赤になってるだろうな。
でもそれを野次る人はいない。
こんな大勢の前で告白して顔を赤くしない奴はいないだろう。
みんなもそれをわかっているから、野暮なことはしない。
さあ、俺の出番は終わった。
あとは他の人の絶叫に野次を飛ばす方へ回るさ。
やぐらを降りると、俺の雄姿を近くにいた父さんと母さんが大爆笑して迎えた。
「あっはっはっはっは! お、お前やるなぁ!」
「あんたなら叶う! 叶うわよ! あははははは!」
「いや、あんたら笑いすぎだろ」
さすがに子供の思いの丈を笑うのは如何なものかと。
げんなり顔で2人を見てると、爺ちゃんと婆ちゃんがにこにこと近寄ってきた。
「おう裕坊。ナイス絶叫」
「素晴らしかったですよ、裕くん」
「……ありがとう。爺ちゃん、婆ちゃん」
そうそう、こういう労いが欲しかったわけですよ俺は。
「おっと、次の人が登ったぞい。ほーっ、これまたべっぴんさんじゃ」
「お爺さん」
「もちろん、婆さんがこの世で1番じゃぞ」
「も……もう……!」
いやぁ、爺ちゃんと婆ちゃん、相変わらずラブラブだなぁ。
父さんと母さんもラブラブだし、俺もいつかはそういう結婚がしたい。出来れば柳谷と。
まあ、そんなことはあり得ないだろうけど。
『続いては飛び入り参加! 思いの丈を絶叫してくれる方はこの人! 17歳高校2年生、名前は……え?』
突如止まる進行。
ざわつく会場。
どうしたんだ、いったい?
にしても、17歳高校2年生か。連続して同い歳なんてな。どんな奴なのやら。
「えっと……17歳高校2年生、柳谷美南と申します」
…………………………………………………………。
「え?」
「「「「「え????」」」」」
周囲の視線が俺に突き刺さる。
でも、そんなこと関係ないほど俺の頭は混乱していた。
え? なんだって? やなぎやみなみ?
はは、またまたご冗談を。
どうせどっかの女が、俺をからかって遊んでるだけだろう。そうに決まってる。
ええいっ! 心臓うるさい! 止まれ! 心臓止まれ! あっ、やっぱ止まりすぎないで! 程よく止まれ!
ったく、なんて失礼なやつだ! ここはガツンと言ってやる!
キッ、と睨みつけるように見上げる。
──女神がいた。
艶やかな黒髪。
瞳の色は日本人離れしたブルームーン。
涼やかで切れ長の目だが、それは熱っぽく俺を見つめている。
まるで神絵師が造形したかのような、成熟した女性らしい見た目。
安っぽいやぐらなのに、彼女がいるだけで女神が降り立ったのではないかと錯覚させられる。
見覚えがある……どころではない。
間違いなく、本物の──。
「や……柳谷!?」
何でだ。
何で彼女もここにいる?
まさか彼女の実家もこっちの方なのか?
いや、それにしてもタイミングが悪く……いや、いいのか? もうそれすらわからない。
どういうこと。これどういうこと?
ドッキリ? 撮影? SNS? マイチューブ?
「……本当は、この場を借りてある男の子への想いをぶつけようと思っていました」
鈴を鳴らしたような、か細くもしっかりとした声色。
その声に、ここにいる全員が野次を飛ばすのも忘れて聞き入っていた。
「でも……それはやめます。……彼が勇気を出してくれたことへの、返事をしたいと思います」
え、彼? 返事? 誰かな、そんなことをした人は?
「丹波裕二君」
ですよねっ、俺ですよね知ってた!
「裕二! 前でろ前!」
「裕ちゃん、しっかり!」
「男を見せい、裕坊!」
「ほら、裕くん」
「ちょっ、押すな! 押さないで!」
ぐいぐいと押され、野次馬の中心に立たされる。
野次馬達は気を使ってか面白半分か、俺を中心に円を作った。
やめろお前ら、そんなにやにやした顔で俺を見るな! 見世物じゃないんだぞ!
あ、この珍祭りがそもそも見世物じゃん。
あああくそ! 頭の中ぐちゃぐちゃだ!
さっきとは別の意味で心臓が痛い。
こんなに緊張したのは生まれて初めてだ。高校受験だってもう少しましだったぞ!
「……っ……い、いいぞっ、柳谷……! 覚悟はできてる……!」
「……うん」
ふんっ、どうせ目に見えた失敗だ。
ここは潔く散る! それも男の花道だろう!
腕を組んで柳谷を見上げる。
彼女は震える両手でマイクを包み込み、思い切り息を吸うと──。
「……丹波裕二君」
美しく、凛とした声がスピーカーによって町中に届けられる。
薄ピンク色の唇がわななき、そして――。
「私も……私も大大大、大好きです。私と……結婚してください」
――返事が、告げられた。
…………………………………………え。
「……ぉ……?」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッッ!!!!!!」」」」」
今日1番……いや、過去1番の大大大大喝采。
が、その声は俺の耳には届いていない。
柳谷以外の全てが色あせ、この世界に俺と彼女しかいない。そんな錯覚に陥った。
……大好き……柳谷が、え、俺を?
結婚? 誰と誰が? 俺と柳谷が?
………………………………………………。
ああ、これあれだ。どうせ夢だろう。
だって今こうして、脳の処理が追い付かず意識が遠のいているもの。
はい、ばたんきゅー。
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