第3話 「やってしまった…」
唐突だが、この世界での俺の名前はシルヴァらしい。そして母、いや母さんは貴族の家だったようで姓もありシルヴァ・シュトゥルム。それがこの世界での俺の名前だった。
そして、この世界に生まれ、三歳の誕生日を迎えた俺は、歩き始めた当初はベットを降りたり、部屋の中を歩き回ったりと狭い範囲だったが、そこから俺は足と手を駆使して家の中を少しずつではあるが活動の範囲を増やし、今では階段も自分で上り下りが出来るようになった。
(よし…。行くかっ!)
そして、今日も目的の場所へと今日も挑戦するため。どうにかこうにか扉を開けて、廊下へと出る。
(誰も…いないな)
辺りに誰もいない事を確認しつつ、見つからないように気配を探りながら前進する。まあ、いくら貴族でもそこまでの高位貴族という訳でもないので、なんやかんやと動きやすいとは思ったが、今の俺自身はあまり興味もなく、今の俺の興味はこの家の本が納められている書庫の部屋で、今日も本を読むために俺は物音をできる限り立てないように前進している最中だった。
(あと、少し)
あと少しで書庫にたどり着く。そう思い更に前進した時だった。
「シン…何をしてるのかしら?」
「ひゃあ!?」
‥‥あと少しというところで母親のリリフィア・シュトゥルムに見つかってしまった。書庫の部屋まで、あと二メートルもない距離だったというのに。
(くそ~、あと少しだったのに)
母さん、もしくはメイドに見つかると俺は毎度注意されて部屋に強制送還されてしまう。だから今回もそうなるだろう。そう思ったが今回は違ったようだ。
「シン。また、部屋を抜け出してきたのですか?」
「‥‥はい」
「それで、部屋から出た貴方は何処に行きたかったの?」
普段であれば見つかると部屋へと送り返されるのだが、今回はそんなことはなく母さんは何度も部屋を出る俺に幼いながらも何か考えがあるのかもしれない。と思ったのか俺にそう問いかけてきた。
(…どうする?)
母さんが俺に問いかけてきたのは初めてで。下手に嘘を口にするよりは正直に思いを伝えた方が信じてもらえるかもしれない。そう決めると、俺は初めて、覚えたこの世界の言葉で三歳であるという事を忘れて母さんの目を見て口を開いた。
「母さん、俺は本が読みたいんだ」
「シルヴァ‥‥貴方‥‥」
母さんに正直に思いを告げる。すると母さんは驚いていたが少しして俺に近づいて来るとそのまま抱え上げる。
(今日もダメか…)
正直に言っても駄目なのであればもう少し大きくなるまで我慢するしかない。そう内心で諦めていると、母さんは俺が来た道ではなく俺が目指した書庫へ近づいていく。 それに気づき驚いて俺は母さんを見ると母は仕方がないとばかりに苦笑を浮かべていた。
「仕方ないわね。今日は仕事が早く終わったから、特別に許してしてあげるわ」
(え…本当に!?)
嬉しさが表情に出ていたのか、母さんが俺に小さく笑った後書庫の扉を開ける。部屋の中にあったのは数百はあるだろう棚に収まった本だった。
「本が‥‥こんなに沢山…」
俺は驚いていた。建物を見た感じだと、世界観は中世のようで食事に関してもパンやスープなどの洋食ばかりだった。故に活版技術などはそこまで発展していないと思っていた。
だが、目の前には百を超える数の本が納められており。
「でも、もうそろそろ夕食の時間だから、それまでの間よ?」
「うん!」
俺は表でも、そして内心でもとても興奮していた。鏡があればキラキラしているだろうと思うほどに。だが、これだけの本があれば少しはこの世界の歴史、文化などいろんなことが学べるからだ。幸い、時間はあったのでその間にどうにか読む程度には文字を習得したので、問題は無かった。
「ここに収められている本は、歴代の当主たちが集めた歴史のある本でね。私も偶に本を見れるけれど、今も学ぶことがあるのよ」
「凄いね!」
「ええ、そうね」
俺はそんな感想を言いながらどんな本があるのか、早く手に取り読んでみたくてウズウズしているとそれが伝わったようで、母さんは俺を床に居ろすと。
「さて、それじゃあ私も探し物があるから、それまでよ。それと、本は貴重だから破いたりしないようにね?」
母さんはそういうと書庫の奥へと行ってしまい、感動しながらも俺がさっそく手近な所にあった本を手に取ると、さっそく読み始めたのだった。
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