マニアック
naka-motoo
者好魔似阿
わたしの親ながらどういうセンスなんだろうと思うよねー。
者好が姓で魔似阿が名。
姓が変わってるのはどうしようもないとして、それにどうしてこうも変則的な名前をつけるんだろう。
父親曰く「産声が魔界の盟主のような豪快さだった」、母親曰く「外国の女の子みたいに『マニア』って呼びたかった」だって。
どうしてその後の社会生活のことまで想像して命名しないかねー。
「マニア」
「やめて」
「かわいーじゃない♡」
当事者じゃない高校の友達はみんなわたしの名前を遊ぶみたいにして発音するんだけど、二通りの呼び方があるんだよね。
ひとつはさっきわたしの盟友であるシズルが呼んだみたいにカタカナで呼ぶ子。まあ、これはわたしを身近な交流相手として割と普通に接してくれる子たちの場合ね。
もうひとつは正式な漢字名称を頭に思い浮かべて「魔似阿」って呼ぶ奴ら。
できれば会いたくないんだけど、体育の授業があって気分がブルーな日の放課後には必ず現れる。
それがましてやフルネーム漢字ならば。
「者好魔似阿さん」
「・・・・・・誰?」
「名乗るほどのモンじゃありません。あなたにコンサルタントの依頼を」
「わたしのは高いよ」
「当然承知しています」
「ならいいけど。どこで話する?」
「凝った場所をご指示頂きたく」
既に値踏みは始まってる、ってことだ。おそらくこの不自然に黒のロングコートを羽織った長身を更にヒールで背伸びしてる女はわたしが依頼するに当たらない人物だと判断した瞬間にわたしを殺すだろう。
「(殺されるなんてまっぴらきんぴら・・・じゃなかった、まっぴらごめんだ)じゃあ、『お好み焼きのジャポン』へ」
「うっ」
恐らくわたしの会見場所の指定の渋さに感じ入ったんだろう。とにかく初動で殺される無粋は回避できた。
問題は次の動きだね。
「魔似阿さん。何を頼むんですか?」
「豚玉にスルメの千切り」
「うっ」
こいつ、『うっ』が口癖なのかな。
まあたしかに女子高生のわたしがお好み焼きのトッピングにスルメまでオーダーするとは思わなかったんだろうけど。
「私は石嶺と言います。あ、私が焼きましょうか」
「石嶺さん。王道の作法は焼きも店主にお任せです。そのためにこの大きな鉄板を囲むテーブルの形になってるんですから」
わたしが店のおばちゃんを呼ぶととても面倒臭そうに小さなボウルの具を鉄板に空けてコテを二つ使って器用に焼き始めた。
「出汁がいいんですよこの店は。それにちゃんと山芋を擦ったのを入れて粉ダンゴみたいにならないように作ってくれるんですよ」
「このお店も魔似阿さんが開拓を?」
「わたしでなくとも嫌でもマニアックなお客が見つけますよ」
おっとと。
思わず自ら『マニアック』って言ってしまった。粋じゃないなあ。
「焼けたよ」
「はぁい」
「魔似阿さん。訊いてもいいかしら?」
「どうぞぉ」
「マヨネーズは?」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
「はっ!この客は何言ってくれてんだろうね!このアマチュアが!」
おばちゃんの態度が豹変した。いや、大概最初から客をぞんざいに扱ってはいたけど。わたしが慌てて火消しに走ろうとしたけど、おばちゃんの口は止まらなかった。
「ピッツァじゃないんだよ!」
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