第31話 す、数百年芽吹かなかったのに、咲こうとしてる……。
「「「す、数百年間、芽吹かなかったユグドラシルフラワーがもう芽吹いてる……」」」」
ユグドラシルフラワーが開花の兆しを見せていた。
銀色のタネが割れて、そこからにょきっと芽が芽吹いている。
「私たちがどれだけ丹精込めてお世話をしても、芽吹かなかったのに……」
「プランくんってば、本当にすごい!」
「ま、まさか、ここまでできるなんて……」
リーネさんが驚き、アリアさんが明るい顔をしていて、カレストラさんは、口を両手で覆って目を大きく開けていた。
僕も、両手でタネを持ちながら驚いていた。
【草取り】はこういうところでも発動できるんだ……。
銀色のタネから出てきたのは緑銀色の幼い芽。
カレストラさんも、リーネさんも、アリアさんも僕のそばにやってきて、それをまじまじと見つめ続ける。
「「「あ……っ」」」
そして……その時だった。
芽吹いていた芽が一瞬、ぶるりと震えたと思ったら、しわがれるように枯れてしまった。
「「「か、枯れた……」」」
枯れた芽からは色が失われていき、茶色く濁るような色になってしまった。
「いえ、プラン様、まだです! 【草取り】の能力を使い、その芽の質を上げるのです!」
「は、はい」
リーネさんに言われて、僕はすぐに能力を発動させる。
両手に魔力を込め。
芽に魔力を送り込み……。
咲け!
咲け……!
「「「咲け……!」」」
元に戻れ……!
しかしーー
「「「「も、元に戻らない……!」」」」
枯れてしまった花は、もう咲くことはなく、まるで消滅するように小さくしぼんでしまった……。
「でも、惜しかったよ! だってまた咲きかけてたもん!」
「うん……。途中で、色は戻った気がします……」
でも、それだけだった。
茶色く枯れた芽にどれだけ魔力を送り込んでも、再び緑色になることはなくて、どうにもできそうになかった。
「でも、それでもすごいです! だって私、ユグドラシルフラワーの芽が咲いた瞬間を見たのは初めてですもん!」
「ええ。芽吹いただけでも、歴史的瞬間でした」
カレストラさんとリーネさんが、明るい顔でキラキラとした目を向けてくれる。
「あの、プラン様! もしよろしければ、もう一度やっていただけませんか……?」
そう言ってカレストラさんが頬を赤く染めて、僕の手を握りながらお願いしてくれて……。
そしてーー、
「「「惜しい……!」」」
それから何度か挑戦してみたんだけど、結果は惨敗だった……。
惜しいところまでは行く。だけどそこから先はいけない。
芽吹くんだけど、花を咲くまでには到達できない。
どれだけ魔力を送り込んだとしても、最終的には枯れてしまうことになる。
それでも、カレストラさんは楽しそうに芽吹きの瞬間を何回も眺めてくれていた。
「はぁ……いいものを見させていただきました……。もう私、これだけでとても満たされた気持ちになってしまいました……。今日は仕事が手につかなくなりそうなぐらい、昂ぶってます……」
「ダメです。仕事はしてください」
「リーネのいじわる……!」
「ふふっ」
楽しそうに笑うリーネさんと、頬を膨らませているカレストラさん。
リーネさんもいつもよりも嬉しそうな顔をしているように見えて、二人とも、はぁっと長い息を吐いて、芽吹きの光景を見た余韻に浸っているようだった。
ユグドラシルフラワーというのは、花の国の人たちにとって、それぐらい芽吹くのを楽しみにされている花。
そんな二人の反応を見ていると、少しでいいから、開花させたくなってくる。
「あ〜〜、でも、ここまで来たら花まで咲かせたいって思うよね。なんか、勿体ないっていうか、プランくんならできる気がするもん!」
アリアさんも少し悔しそうに、だけど興奮しているように、僕の腕を抱きしめてくれた。
「では図書室で色々調べてみますか?」
「「図書室……?」」
「ええ。花に関する本が数多く取り揃えられている場所です」
「あ、それはいいかもしれないですね。せっかくですし、今日は図書室にご案内させていただきます」
カレストラさんはそう言うと、席を立ち、張り切ったように腕まくりをしてくれた。
しかしーー
「カレストラ様、ここは私にお任せください。私がプラン様とアリアさんをバッチリと、カレストラ様の代わりに案内します」
「もう! いつもリーネばっかりずるい……!!! 私も行きたいのに!」
「ふふっ」
さっと、僕たちの手を引いたのはリーネさんで。
それを見たカレストラさんが、また不満そうに頬を膨らませてつつも、葛藤しているようで、
「でも、リーネの言う通りで、私は行けない……! だってまだ仕事が残ってます……。ですので、プラン様、もしよろしければ、また後日、一緒に過ごす時間を作っていただけないでしょうか……?」
「は、はい。僕はいいですけど……」
「絶対ですよ!? 絶対に、今日の分まで一緒に過ごしましょうね」
僕が頷くと、カレストラさんは「約束です!」と指切りをしてくれて、その後笑顔で強く抱きしめてくれた。
そして僕たちはそんな彼女の見送られて、図書室へと向かうことにするのだった。
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