第27話 賑やかな花壇
「プラン様、本当にありがどう……!」
「むぐ……っ」
ああ……甘い香りが。
フレーシアさんが目の端に涙を溜めながら、僕のことを抱きしめてくれた。
どうやら【草取り】の能力で、彼女の胞子の特性が無害なものへと変わったとのことだった。
僕に実感はないけど、そのフレーシアさんの顔を見れば、彼女の中で何かが変わったのが見て取れた。
なんにしても、彼女がそんな顔をしてくれるのなら、僕も嬉しかった。
「本当にプラン様、ありがとうございます! プラン様のおかげで、問題が全部解決できてます!」
そう言ってローズマリーさんも抱きしめてくれる。
二人とも、僕の背中に両手を回してくれて。
僕は二人の胸に顔を埋めていて、両側から挟まれるようになっていた。
柔らかくて、暖かくて……頭がクラクラしそうで、いい香りがしていた。
そうしていると、花畑に他の人たちがやって来てもくれた。
「「「ローズマリー様! それと……フレーシア様!!」」」
「み、みんな……」
驚くフレーシアさん。
胞子がなくなったことで花畑に入れなかった人たちが、やってきたのだ。
その中にはアリアさんとリーネさんの姿もあって、みんなで駆け寄ってきてくれる。
「ローズマリー、フレーシア。胞子がなくなったのですが、もしやプラン様の能力で解決できたのですか?」
「そうです。プラン様がね、フレーシアの胞子の質を上げてくれて、害を取り除いてくれたの!」
「「「ええええ〜〜〜! プラン様〜〜〜! そんなこともできたんですか〜〜〜!」」」
「プランくん、すごいすごい!!」
「む、むぐ……っ」
笑顔のアリアさんがぎゅっと僕を抱きしめてくれる。他の人たちも頬を染めて抱きしめてくれて、花畑は甘い香りとみんなの笑顔で満たされていた。
「それに、フレーシア様! 本当に久しぶりです……!」
「小さい頃いっぱい遊んだの、覚えてますか!? 私です! フレーシア様、あの時よりもお美しくなられて……!」
「ローズマリー様と、フレーシア様。私たちにとってお二人は憧れのお姉様たちでした……!」
「そんなお二人の姿をまたこうして見られるなんて、夢みたい……!」
「ええ、私も、まだ夢だと思ってるわ」
フレーシアさんはそう言うと、少しだけみんなと距離を取ろうとした。
まだ、胞子の影響が残っているかもしれない。周りに悪影響を与えてしまうかもしれない。
その顔にはわずかばかりのそんな不安が残っているようで、彼女はためらう様子もあった。
しかしーー
「「「「フレーシア様! お久しぶりです! ずっと、お会いしたかったです!」」」
「み、みんな……。そ、そんな、くすぐったいわ……」
みんなが彼女に駆け寄って、フレーシアさんを抱きしめたり、手を握ったりして、再会を喜んでいる。
その様子をローズマリーさんは涙を浮かべながら見守っていて、フレーシアさんも彼女たちへと自分から寄り添うのだった。
* * * * * * *
それからフレーシアさんを連れて花壇に戻ってくると、今回の目的だったジュース作りを完遂することになった。
「では、ついに特性のジュースが完成します! プラン様のおかげで最高品質になった草と、フレーシアが育ててくれた花の蜜で完成した、特性のジュースです!」
「「「「待ってました……!」」」」
草から抽出した緑色の汁と、フレーシアさんがいた花畑で取れた蜜。
それを混ぜ合わせた結果、一応、ジュースは完成している。
色は鮮やかな緑色。
注いであるグラスを日の光にかざすと、キラキラと光って、綺麗だった。
「でも、美味しいのかしら? だってこれは雑草のジュースだもの」
「それは一理あります。でも、香りはとっても甘いと思いませんか?」
「「「「思います!」」」」
確かに、グラスからは甘くていい香りがする。
爽やかな果実の香りの中に、まろやかな香りと言えばいいだろうか。
「とりあえず飲んで見ましょう。もし万が一があったらいけませんので、毒味はフレーシアにお願いします」
「ええ。もしダメだったら胞子を飛ばすから覚悟してね」
「「「ふふっ。フレーシア様、吹っ切れた顔してます!」」」
そんな風に、花壇は賑やかだった。
……そして実際に飲んでみた結果、フレーシアさんの胞子が飛ぶことになるのだが、これは大きな一歩だったらしい。
「胞子、飛んじゃったわ」
「「「ダメだった……!」」」
飲めなくはない。だけど、美味しくもない。
元々の素材が雑草だから……こうなることをみんなは予想していたようだった。
それでも蜜を少し変化すれば、それもいずれ解決するとのことだ。
これからはそういうことを、フレーシアさんが色々研究するらしい。
花壇を担当しているみんなで。
他のことも。
力を合わせて、なんだって試すことができる。
「私がみんなとまたこうして楽しいことをできるのは、プラン様のおかげ。だから本当にありがとう。ちゅ……っ」
「……ああ! プランくんがキスしてもらってる!」
フレーシアさんが僕の頬にキスをしてくれる。
柔らかいその唇は、熱を持っていた。
そして改めてお礼を言ってくれたフレーシアさんの頬は赤く染まっていて、笑みを見せてくれる彼女はもう寂しそうな顔はしていないのだった。
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