第11話 Eランクから、Aランクに。
「これは大変なことになった……」
「ええ……。ものすごく大変なことになりましたね……。ギルドの存続どころか、この街に関わる問題ですね」
「?」
眉間にしわを寄せて難しい顔をしているギルドマスターに、険しい顔をしているギルドの女性の職員さん。
手紙の内容を知ると、その顔を青ざめさせて、何かに怯えているような雰囲気を漂わせているように見えた。
どうしたのだろう……。
「プランくん。君にはいくつか選択肢がある。まず一つ目。花の国、フラワーエデンに行く。そして二つ目。フラワーエデンに行かない」
「そ、そうですね」
背筋を伸ばして言ったギルドマスターの言葉に、僕は頷いた。
「そして、それに関わらずこのギルドは消滅させられる。そして私は首を切られる」
「……どうして!?」
一気に話が物騒な方向に!?
「当たり前ではないか。我々は、花の国のお姫様……第一王女カレストラ・エデン様を救うような少年を、Eランクというランクで数年間過ごさせていたのだから」
「そ、それは僕の実力がEランクだったからですよ!」
僕が正式に冒険者になって、二年ぐらい過ぎている。
その間、僕のランクが上がらなかったのは、実力不足だったからなのだ。
「うむ。それはそうじゃの。でも、それはこの場合は関係ないのじゃ」
関係ない……。
「花の国は滅多なことでは、人を国に招待しない。歴史的にも、花の国に招待された人物がいるなど聞いたこともない。故に未知の国じゃ。今回、あの王女様が街に来ていたのは火急の用事があったからで、あの後、王女様はすぐに国に戻られたようじゃ。その方法は……不明じゃ。とにかく花の国というのは分からないことが多いのじゃ」
「だから怖い……」とギルドマスターが静かに呟く。
「華やかだが、そういった恐ろしい側面もあるのがフラワーエデンだと言われている。この国も、他国も、それを恐れてフラワーエデンには手を出さない。それは人類が誕生して今まで破られたことのない絶対の決まりじゃ」
……ものすごく大きな話になってきた。
「お主が救ったのはそんなお方なのだ。いや……ただ救っただけでは、招待まではされないだろうから、おそらくお主の中に何かを見出したのだと思われる」
「だから」と言って、ギルドマスターは震えると、
「そんなお主は今やそれほどの存在なのじゃ。かつて、魔道騎士と呼ばれておったワシなんて比べものにならないぐらいの人物になったんじゃ」
「そうですね。プランさんは今や、重要な人物になっております」
そう言った、女性の職員さんの声音も真剣そのものだった。
「だからどうか頼む……! ワシらを許してくれ……! ワシらには謝ることぐらいしかできん……! すまなかった……!」
「か、顔をあげてください……! 僕のランクが低かったのは、僕が弱かっただけですから……!」
……じ、自分で言ってて悲しくなってきた。
「しかし、お主がヴェノムモーズを倒せるだけの実力があったというのもまた事実。それを見極められなかったのも、ギルド側の落ち度じゃ。だから、謝って済むことではないと思うのだが、謝らせてくれ、申し訳なかった……。この通り……」
ギルドマスターは深々と頭を下げた。
隣では女性の職員さんも同じように頭を下げていた。
僕も……まだ自分で信じられていない。
あの時、ヴェノムモーズを倒せたことは、夢なんじゃないかと思っている。
でも……あの時、目の前で倒したヴェノムモーズを見て、自分でもまだやれると思って嬉しかったのは確かだった。
「うむ……。しかしそれだけの実力、なぜ今までそれが広まらなかったのだろうか……」
「それは……どうしてでしょう……」
……自分でもよく分からない。
とにかく、自信は少しだけ持てたような気がする。
今まで冒険者をやっていて、こんな気持ちになれたのは初めてだった。
「それで……どうするのじゃ? お主は……花の国の誘いを受けるつもりなのかの」
「……はい。一応、そうしてみようとは思っています」
「「おお……!」」
ギルドマスター達が身を乗り出す。
手紙をもう一度よく見て。
これからのことを考えて。
僕は自然に、そうしてみるのもいいと思ってはいた。
「しかし……本当にいいのかの? 後悔はせんのか?」
「それは、分からないです……。でも、ここで立ち止まっていたら、何も変われないと思うから……」
「そうか。お主は……まっすぐなのじゃな」
「ええ、今時の冒険者にしては、素直でいい子ですね」
「そ、そんな……」
ギルドマスターと、女性の職員さんが微笑ましいものを見るような目を向けてくる。
「わしらとしては、お主がそうしてもらえると助かるのは確かじゃ。しかし、もう一度、ゆっくり考えてみてもいいかもしれぬ。今日はギルドに泊まっていくといい」
「はい」
僕はギルドマスターの言葉に頷いた。
明日、花の国の使者が、ギルドに来てくれることになっているらしい。
だから、それまではまだ時間があるとのことだった。
「それとギルドカードを見せてもらってもいいかの?」
「はい……、どうぞ」
僕はギルドカードを出した。
すると、ギルドマスターはペンでギルドカードに魔術を施し、それを受け取った女性の職員さんが一旦部屋を出ると、すぐに戻って来て僕にカードを差し出してくれた。
「こちらプランさんのギルドカードになります。今回の功績をたたえ、あなたをAランクに昇格させます」
「Aランク……ですか……?」
「うむ。お主はヴェノムモーズを一人で撃破したんじゃ。実力はある。ギルドマスターの権限を使うまでもなく、昇格じゃ」
「Aランク……」
受け取ったギルドカードを見て見る。
すると、そこにずっと書かれていたEの文字が変わっていて、Aになっていた。
これから先も変わることがないと思っていたランク。
それが一気に上がった。
まだ実感はやっぱりないけど、それは本当みたいだった。
その日、僕はギルドの応接室に泊まらせてもらうことになった。
ギルドマスターたちがいなくなり一人になったその部屋で、僕はギルドカードを天井にかざし、Aの文字をぼんやりと眺め続けた。
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