第9話 勇敢な方、ありがとう
「あれ……ここは」
目覚めると、僕はベッドに寝ているみたいだった。
「「「おお……! 起きた……!」」」
そんな大勢の声が耳に入ってきた。
……ここは、ギルド……?
「プランくん……! 生きててよかったぁ……!」
「あ、アリアさん……。ぐふっ……」
急に抱きしめられる僕の体。そばにいたアリアさんが僕を抱きしめて、僕はアリアさんの胸に顔を埋めているのが分かった。
アリアさんは泣いているみたいで、その声はギルドの治療室へと響いている。
僕はそのアリアさんの声を聞いていると、なぜか胸が痛んだ。
……そして思い出したのは、つい、さっきのことだ。
そうだ……。ヴェノムモーズ……。僕はヴェノムモーズと戦って、倒れたんだ……。
腹部を触ってみると、針で貫かれた箇所が綺麗に治っていた。
僕は、生きている……。どうにか助かったみたいだった……。
「ええ、そうよ! プランくんがヴェノムモーズと戦って、倒れたって聞いて、心配だったんだからね……!」
「アリアさん……」
そう言うアリアさんの目元は赤くなっていて、「でも無事でよかった……」と言ってもう一度強く抱きしめてくれた。
そこから教えてもらった話によると、ヴェノムモーズはちゃんと倒されていて、その後、力尽きた僕を治療してギルドまで運んでくれた人がいたとのことだった。
そしてヴェノムモーズを倒されたことを知った冒険者の人たちが、こうして治療室にお見舞いにきてくれて、アリアさんも駆けつけてきてくれたとのことだった。
「しっかし、やるじゃねえか! やっぱりプランならやってくれるって信じてたぜ……! ヴェノムモーズを倒すなんて、大出世だな……!」
「よく言うぜ、お前よぉ。プランのことをどれだけ冒険者やってもEランクにしか上がれねえやつだって、馬鹿にしてたくせによぉ……」
「お、おい……。やめろよ……。お前だって、プランのことは呆れるを通り越して、可哀想だと思うって言ってたくせによぉ……」
「「「…………う」」」
その言葉に、みんながビクッとして、気まずそうな顔をする。
そして、
「「「プラン、今まで見くびっててすまなかった……! この通り……!」」」
「あ、やめてください……! そんな……」
一斉に頭を下げてくる冒険者たち。
彼らの顔は真面目で、全員が深々と頭を下げている。
「今まで本当に悪かった……。お前は草取りばっかりしているやつだと下に見ながら、侮っていた……」
確かに……そういうことはよく言われていた。
「俺も悪かった……」
「俺もお前を下に見てた……」
「俺もお前を見て安心してたんだ……」
「それは、愚かなことだった……」
周りの冒険者たちも再び謝ってくる。
「今回お前が倒したヴェノムモーズを見たんだが、あれは強化種でAランクはくだらねえぞ……」
「それをプランが倒したんだ。だったら俺たちよりも上ってことになるし、俺でもあんなもん倒せねえし、逃げるわ……」
そう言う彼らの後ろからギルドの職員さんがカートを押しながらやってきて、そのカートの上には真っ二つになったヴェノムモーズが乗せられていた。
「ご確認下さい。こちらがプランさんが討伐したヴェノムモーズでよろしいでしょうか……?」
「は、はい……。そうだと思います……」
曖昧な返事で頷いた。
まだ意識はぼんやりとしているし、どこか自分でも夢を見ているんじゃないかと思えて、信じきれていない自分もいる。
周りの人たちも、最初はそうだったみたいだったとのことだ。
でも……。
「信じるしかねえよ。だってお前をここまで運んできたお方が間違いないって言ってたみたいだからな」
「……そうだぜ。なんたってお前が助けたのは、フラワーエデンと言われる花の国のお姫様だったみたいだからよ」
「!」
花の国のお姫様……?
「ええ、その方が直々にプランさんをここまで運んでくださったのです」
女性のギルドの職員さんがそう言って、僕に一輪の花を差し出してくれる。
それは金色の花を咲かせた綺麗な花で、ふと、あの時に見た女性の顔が思い浮かんできた。
「そして、その方がおっしゃられていましたよ。『勇敢な方、ありがとう』……と」
「…………っ」
その言葉がじんわりと胸に広がり、鼻の奥がツンとした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます