第8話 【草取り】の隠された本当の能力

* * * * *


「リーネ、急いで彼の治療を行います」


「かしこまりました」


 プランがヴェノムモーズを撃破した直後、駆けつけた姫様とメイドは、倒れてしまったプランの治療を急いで行い始めた。


 プランは大怪我をして、地面に倒れている。

 さらにはヴェノムモーズの鱗粉を吸い込んでしまっている。


 ヴェノムモーズの鱗粉を吸い込んだ者は助からない。それは周知の事実なのだが、彼の体は未だにそれに耐えていた。【草取り】の効果で、戦闘中に口に含んでいた薬草の効力が幸いなことに残っていたのだ。


 奇跡だった。ヴェノムモーズを倒したことも、未だに息があるのも。

 気を失ってしまっているものの、彼はまだ生きていてくれた。


 いや……奇跡なんかではないのかもしれない。

 彼は倒すべくして、そのヴェノムモーズを撃破したのだ。


「彼には【草取り】の能力が眠っているのですよね……」


「ええ、あの【草取り】能力です」


 まさか、こんなところにいてくれるなんて思ってもみなかった。


 彼のこの【草取り】の能力は、薬草採取に秀でている能力で、無力な能力だと知られている。

 しかし……それだけではない。

 恐るべき力も内包されている。


 それは、自分が死ねば『草取り』が発動して、地面から強制的に草を生やすことができるのだ。

 自分の周囲に発生したそれは、例えば自分のそばに魔物がいた場合、敵の体に絡みつく植物となる。その植物からは逃げることができず、必ず敵を絞め殺して仕留める。


 つまり、少年プランは今回ただ無謀なだけの戦いをしたのではなく、自分が死んだ後、もし魔物を倒せなかったとしてもその能力で敵を撃破する最後の手段を残していたのだ。


 まさに雑草のような根強さだった。

 彼には、それを実行できるだけの強さがあった。


 そして、【草取り】の能力を持っている者はほぼ不死身でもある。

 たとえ死んでしまっても、一定時間が経てば、生き返ることができるのだ。

 そう、まるで踏み潰されても、また立ち上がる雑草のように、だ。


 実際にプランは冒険者を始めてから今までの間、その能力を知らず知らずのうちに使用し、生き延びてきていたのだ。


 もちろんいいことばかりではない。リスクもある。

【草取り】の能力を持っている者は、どれだけ鍛錬しても体力や筋力は一定以上あがることはないし、死んでしまえばその時の記憶を失ってしまうのだ。


 だから、プランが自分のその隠された能力に気づくとはない。

 だから、彼はずっとEランク冒険者だったのだ。


 そして、たとえ今死んでしまってもすぐに生き返れるのだが、自分がヴェノムモーズを倒した記憶を失ってしまう。

 プランはそうやってずっと損をしてきたのだ。


「でも……死なせません。私が治療します。あなたに救ってもらったこの命を持って、必ずやその命をお救いします」


 姫様はそう言うと、地面に倒れたまま動かないプランの顔をしっかりと目に焼き付けた。


 そしてメイド服の少女が自分の膝にプランの頭を置き、膝枕をした。


「……では、失礼します。ん……っ」


 頭が高くなったプランのそばに膝をついた姫様が行ったのは……口づけだった。


 プランの顔を白くて細い手で優しく包み込んで、綺麗な桃色の唇でプランの唇を塞ぐ。


「ん……」


 唇を重ねたまま、舌を動かし。

 自分の黄金色の髪を耳にかけてキスをしたまま、彼女が持つ特性で、彼の毒を内側から死滅させていく。


「ねえ、リーネ。どうしましょう……。私……なんだかとっても彼とお話をしたいの。だからこれが終わったら彼をうちの国に招待してもよろしいでしょうか……」


 唇を離し、優しい眼差しで彼のことを見つめながら、姫様がゆっくりと彼の頭を撫でた。


「ええ。でしたら、正式な手順を踏んで、要請してみるのもいいかもしれません」


 メイド服の彼女も、それには異論はなかった。


「ありがと。そのためにも彼を元気にさせないと……んっ」


 また優しい眼差しを向け、プランに口づけをする姫様。


 そんな風に二人がかりで献身的に治療をした結果、草取りの少年プランは一命を取り留めるのだった。


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