第45話 ……申し訳ございませんでした!
「お、おい……! おまえ……! なぜ、ここにいる!」
「!」
ギルドで声をかけてきたのは、村長の息子ボンドだった。
やつれたような顔をしているボンドは、驚いたように俺を指差している。
俺も驚いた。そして俺はフードを深く被ると、俯いてこの場から離れることにした。
「おい! 無視をするな! きさまは、あの可哀想なやつ、メテオノールだろ……! 俺はボンドだ! 顔を上げて、こっちを見ろ!」
「…………」
呼び止めるボンド。
……どうしてここに彼が。
いや……すぐに察した。恐らく村のことをギルドに伝えたのは、彼、ボンドだろう。
「おい、なんだ? ギルド内であまり騒ぎを起こすな」
ボンドの声がギルド内に響いており、みんながそれを聞いていたようだった。
そして近くにいた冒険者の一人がこっちにやってきた。
「この街では、争いは厳禁だ。聖女様の加護があるから、住人全員に迷惑がかかるぞ」
冒険者はボンドにそう言う。
するとボンドは、その冒険者の言葉に「はっ」と笑い、
「なんだと? 聖女様の加護だって……? それはまた随分ご挨拶なことだ。なにより、だったら尚更、こいつに関係してくることではないか。なぜなら、こいつは『聖女殺し』なのだからな……!」
「「「……なんだと……?」」」
ボンドの言葉に、全員が反応する。
彼らはボンドに訝しげな顔を向けつつも、俺の方も見て眉を潜めている。
「今、あいつ、なんて言った……?」
「『聖女殺し』って言ったぜ……?」
「ああ、間違いねえ。確かにそう聞こえた……。だとすると、このままにはしておけねえ。あいつを捕まえろ……!」
「………」
……俺は静かに魔力を練り上げようとする。
「ははっ。やってやれ……! そして俺の足元に、そいつを跪かせるのだ……!」
ボンドが高らかにそう告げる。
そして、数秒後。
「ぐ、はぁ……! どうして俺がこんな目に……!」
数人の冒険者に捕らえられていて、床に組み伏せられているボンドの姿があった。
ギルドの床に組み伏せられたボンドは、戸惑いの表情を見せている。
「お前、この小僧、何考えてんだ……!」
「聖女殺しだなんて物騒なこと言うんじゃねえ……!」
「そうだそうだ! お前、この街でそんなこと言うなんて、大変なことになるぞ……! ジェシカちゃんが、来ても知らねえからな!」
「く、くそぉお……。くそぉぉおお……」
……その時だった。
「「「!」」」
コツン、と静かな足音を立ててやってくる人の気配があった。
「ええ、そうです。聖女ソフィア様に守られている街で、聖女を蔑ろにするような言葉が聞こえました。よってあなたは、大変なことになるでしょう……」
「「「…………来た!」」」
コツン、コツン、と足音を立ててきたのは、ギルドの受付のジェシカさんだった。
周りの冒険者たちは、ごくりと息を飲む。
静けさに満ちたギルドの中、ジェシカさんがあくまでも落ち着いていた。
そして、ジェシカさんは言葉を紡ぎ始めた。
「この街で聖女様に対して不穏なことを言うのは、禁忌であり、重罪にあたります。つまり、『聖女殺し』などと言う言葉を口にした時点で、大罪になります。よってあなたにはこれから先、聖女の加護を得られる機会は皆無でしょう。そしてあなたは、苦しむことになるでしょう……」
「……!? どうしてだ!?」
「それがこの街のルールであり、決まりなのです。なのであなたには、大変なことが起きるでしょう……」
冷静に、悟りを開いたように。
淡々と告げるジェシカさんの言葉は、30分ほど続き……。
「……も、申し訳ございませんでした……!」
ボンドは青い顔をして頭を下げていた。
姿勢を正してごめんなさいをする。
「私に謝られても意味がないでしょう……。謝るのなら、テオくんに謝るべきでしょう……」
「く、くそぉおお……。くそぉぉお……」
わなわなと震えるボンド。そして、血の涙を流すと……。
「どうも、申し訳ございませんでした……!!」
「「「ものすごく、綺麗な謝り方だ……」」」」
ごん! と、床に頭を叩きつけて謝ったボンド。
その姿を見た周りの冒険者たちが感嘆の声を漏らす。
窓から差し込んだ光が、ギルド内を明るく照らしていた。
ここは、聖女ソフィア様の加護がある街。
彼女がいる限り、この街は平和だった。
「私……勝手に聖女ソフィア様のご威光を借りてるけど、さすがに使いすぎると怒られるかもしれないわ……」
そして、ジェシカさんはぼそりとそう言うと、苦笑いをするのだった、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます