第44話 ソフィア様、まじ聖女…!
知らないふりをして、そっとしておけば、いずれ時間が解決してくれることがある。
だからこのオークの問題も、知らないふりをしておけばいいのだ。
だけど……。
「……果たして本当にそれでいいのか……」
『ふふっ、テオってば真面目で優しいもんね』
腕輪からそんなテトラの声が聞こえてきた。
冒険者ギルドの掲示板のところ。
そこにいる俺は、どうするべきか迷っていた。
オークが群れを作っていた森を、何者かが死滅させた。
それ自体は問題ないけど、誰がやったのか分からないから不安が伝染している。
……このまま放置してもいずれあやふやになって、みんな忘れるはずだ。
それは分かっているけど、周りの影響を考えると、それでもいいのかとも思う……。
あと、もう一つ。
村のことだ。
【ローカ村、壊滅危機のお知らせ】
俺たちが住んでいたあの村が、大変なことになっているみたいだった。
オークのことも、村のことも。
いっぺんに降りかかってきた問題。
俺は周りの様子を伺ってみることにした。
ギルドには大勢の冒険者が集まっていて、みんな掲示板を見ている。そんな彼らは険しい顔をしながら、オークの件に関する知らせの方に意識が向いているみたいだった。
そして……こんなことを言う冒険者も現れた。
「こっちのオークの件に関してだが……これって誰がやったのか、まだ誰も名乗り出てねえんだよな?」
「……ってことは、俺がやったって言えば、手柄を貰えるんじゃねえか……?」
「「「「「…………」」」」」
シン……、と静まり返るギルド内。
そして次の瞬間、
「「「「俺がやりました……!」」」」
……こ、これは……。
我先にと手を上げて、一気に名乗り出る冒険者たち。
みんな、自分がオークを倒したとそう告げている。
冒険者というのは、報酬に貪欲な人々が大半である。
つまり、オークを殲滅した本人が名乗り出ない以上、そこに可能性を見出したようだった。
つまり……このままいけば、オークのことで不安になっている状態をどうにかできるかもしれない。
誰かが名乗り出てくれるかもしれない。
「はいはい、静粛に静粛に」
手を叩きながらそう言ったのは、ギルドの受付の女性のジェシカさんだ。
「「「ジェ、ジェシカちゃん!」」」
冒険者の人たちは、手を上げたまま、現れたジェシカさんの方を見た。
「みなさん、もうご存知の通り、オークの群れを討伐していただいた方はまだ名乗り出ておられません。にも関わらず、現在、冒険者ギルド内ではこうやって多くの人たちが名乗り出てくれました。冒険者の皆さん、やる気があっていいですね!」
「「「おう……!」」」
自信に満ちた返事がギルド内に響く。
しかし……。
「しかし……果たして、そうやって手を上げている人の中に、本当に張本人はいるのでしょうか……?」
「「「そ、それは……」」」
途端に声のトーンが下がる冒険者。
ジェシカさんはぐるりと回りを見回し、悟りを開いたような声で静かに告げる。
「もしかして、嘘なんてついていませんよね……? 嘘をついて、オークの群れを討伐したことを自分の手柄にしようと企んでいる人なんて、この場にいませんよね?」
「「「そ、それは……」」」」
「もしそうなら、その人はきっと大変なことになるでしょう……。聖女ソフィア様の加護に守られているこの街で、そんな卑怯な狼藉を働く人は、ばちが当たって次の冒険で痛い目を見ることになるでしょう……。取り返しのつかないことになるでしょう……」
「「「……申し訳ございませんでした! ……嘘ついてました!」」」
一斉に謝る冒険者たち。
綺麗なお辞儀でごめんなさいをする。
「きっと謝っても許されないでしょう……」
「「「……そ、そんな!」」」
追い討ちのように言ったジェシカさんは、そこで可笑しそうに笑い、掲示板まで行くとそれをビリっと剥がした。
「「「ああ……!」」」
「この知らせは、つい先ほど無事に解決しました。聖女ソフィア様が直々に原因を調査してくださり、すでにオークを殲滅してくださった方も判明しておられるそうです」
「「「まじかよ……!」」」
その言葉に、冒険者たちの表情が今度は明るくなる。
「じゃあ、別にオークを殲滅したのは魔物とかじゃねえんだな……!」
「すげえぜ……! そういうことができるやつが、近くにいるってことだろ……!」
「ええ、やってくださったのは冒険者の方みたいですよ。ソフィア様はその方の名前は明かされませんでしたが、こう言っておられました。『街にまで被害が出るかもしれなかった問題を、解決してくださりありがとうございます。長年、問題視されていた問題を解決してくださり本当にありがとうございます。貴方の行ってくださった行動で、多くの方達の生活が守られることになりました。お礼を言っても言い足りません。いずれ、私も直接お礼を言えることを願っております』……とのことです」
「「「「おお……! ソフィア様、まじ聖女……!」」」」
その言葉に、またしても明るい雰囲気になるギルド内。
この街は聖女ソフィアさんに守られている街。
だから彼女の言葉は、何よりも尊いものなのだ。
『……きっとソフィアちゃん、気づいてくれてるんだよね。テオがやってくれたって。だから何事もなく納めるために、こうやって気を回してくれて、間接的にだけどテオにお礼を言ってくれてるんだと思うの。……ソフィアちゃん、本当に優しい聖女様だ……」
腕輪の中から、テトラの穏やかな声が伝わってくる。
俺も強張っていた体から力を抜き、安堵した……。
「ソフィアさんには助けてもらってばっかりだ……」
『ね。今度会った時、私もソフィアちゃんにお礼を言いたい』
この前もそうだったもんな……。
だからこの前の分も含めて、彼女には何かお返しをしたい。
とにかくこれで、オークの件については大丈夫そうだった。
となると、残りは村のことで、壊滅の危機ということは、穏やかではない。
そして、その情報がこうして街に伝わっているということは、これを伝えた人物が街にいるというのも予想できて……。
「お、おい……! おまえ……! なぜ、ここにいる!」
「!」
突然声をかけられて見てみると、そこにいたのは村長の息子、ボンドだった。
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