第40話 テオとテトラがいないティータイム

 * * * * * *

 

「テオくんとテトラちゃんは今頃どうしているのかしら……」


 その日、アイリスは窓の外を見て、村からいなくなったテオとテトラのことを思い浮かべていた。

 アイリス。彼女はテオとテトラが住んでいた村で、パン屋をやっている女性である。テオとテトラのことを、いつも気にかけていたあのアイリスだ。


 しばらく前まで、この村に住んでいたテオ。

 だけど追放されたことで、この村からいなくなった。

 その結果、村の雰囲気も大きく変わっていた。


 今は昼。

 窓の外を見てみると、今日も村人たちが武器を手に取り、村を襲ってくる魔物たちの撃退に追われていた。


 テオがいなくなった日以来、魔物の襲撃は減ることはなく、むしろ増えている節がある。

 村人たちはテオ特製の魔法の武器を手に、今日も村の防衛をするのに必死だった。

 そして魔物の迎撃に加わっていない者たちは、あれこれと試行錯誤して、食料事情の維持をできるように考えを凝らしているところだ。


 そんな村の中で、一人だけ普段と変わらない暮らしをしている人物がいた。

 それがアイリスだった。村の中にある唯一の店の中で、パンを作りながら、テオたちのことを考えている。


 アイリスは知っている。あの日の夜の真実を。

 実際にテオとテトラの口から教えてもらっていた。

 テトラはあの夜、死んだということになっているけれど、アイリスはテオのスキルのことも知っているため、二人が今、村の外で生きていることも知っている。


 だからこそ、アイリスは二人の心配をずっとしていた。


「テオくんのことだから元気にやってると思うんだけど……心配ね……」


 叶うかどうか分からないけれど、もしまた会えた時は二人を思いっきり抱きしめてあげたい、というのがアイリスの願いでもあった。


「……はぁ……。そろそろ焼ける時間ね」


 ため息をつきつつも、アイリスはオーブンへと向かう。

 そして耐熱性の手袋をはめて、オーブンからパンやクッキーを取り出した。


「いい匂いね……。お茶の準備もしましょう」


 カップを取り出し、お茶の準備をする。

 フルーツも用意して、砂糖やジャムも準備する。


 アイリスの家の中には食材が豊富にあった。

 食料庫はテオの魔石で加工されたものを作っているため、腐らずに保管することができる。


 だから、現在、村の中で食料がある場所はアイリスのこの店だったりする。


 アイリスがそれを惜しげも無く使っていると、コンコンと店のドアを叩く音が聞こえて「アイリスさん!」という女の子たちの声が聞こえた。


「はーい、開いてますよ」


「「「お邪魔します!」」」


 開かれたドアの先、そこにいたのは数人の少女たちの姿だった。


 彼女たちは村で暮らしている少女たちだ。

 朝からずっとスキルを使い、今まで一仕事してきたから、その顔には疲れが見えた。


 しかし、部屋の中のテーブルの上に置かれてあるクッキーなどを見た途端、その顔が明るいものになる。


「「「美味しそう〜! いい匂い〜!」」」


「うんっ。そろそろお腹が空いてるころだと思うから、もしよかったら一緒にどうかしら?」


「「「いただきます!」」」


 アイリスの言葉に、各々席に着く彼女たち。

 そして手を伸ばし、早速食べ始めることにした。


 サクサクと美味しいクッキーも。


 焼きたての甘いパンも。


 喉を潤してくれる香りのいい紅茶も。


「「「美味しい〜〜〜!」」」


「ふふっ。よかった」


 まるでここは天国だった。

 建物の外では魔物の迎撃が行われている村の中で、ここは彼女たちにとっての聖域だった。


「アイリスさん、本当にありがとうございます」


「いつも美味しいお茶とお菓子を食べさせてくれて」


「本当に癒しです」


 アイリスを拝む少女たち。


「ありがと。でも、このお茶やクッキーの材料は、前にテオくんが私にくれたものなのよ?」


「「「ええ〜! テオくんが!?」」」


「そうよ。テオくんはね、いつも色々材料をくれてたの。だから感謝なら、テオくんにしてあげてほしいな」


「「「テオくん、本当にありがとう……」」」


 少女たちは手を合わせ、遠くにいるテオに感謝を捧げる。


 村を追放された少年、テオはこういう所でも村の暮らしを支えていたのだった。


 そうして始まったお茶会の間、少女たちは最近のことを話し合う。


「最近、仕事がきついよね……」や「体が痛い……」などという、そういう話題が多かった。


 しかしそういう彼女たちの働きもあり、この村の食糧問題は心配いらなそうだった。

 そもそも、今までのこの村は裕福すぎたということを今になって村人たちは気付き始めて、節約を心がけ始めていた。


 元からそれを知っていたからこそ、アイリスは今までとは変わらない暮らしをすることができていて、たまにこうして息抜きとして疲れている少女たちを休ませているのだ。


 そのこともあって、彼女たちはアイリスを慕っていた。そんなアイリスはいつだってテオのことを思い続けていて、いつもテオには感謝していた。


「あ、それと、疲れてるならテオくんが残していってくれた魔石のお守りがあるから使うといいわ。疲労が和らぐから」


「「「アイリスさん、ありがとうございます。テオくんも……本当にありがとう……」」」


 このように離れていたとしても、テオは多くの人たちの支えになっていたのだった。



 そして……。


『……………』


 そんな村のそばの近くでは、月光の輝きを持った龍がその時が来るのを静かに待っているのだった。


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