第39話 自粛は大事


「とりあえずこれからは、こういうことは控えるようにしよう……」


「「あ、待って待って!」」


 反省した俺が自粛することを誓うと、テトラとコーネリスが俺の手を握って止めてきた。

 だけど、こればっかりは俺が悪い……。

 腕輪で繋がっているにも関わらず、不用意だったのだから……。


 隣を見てみると、テトラがいる。

 薄着ではだけて、肩が晒されているテトラ。


「あ……っ、今、テオが私を見て喜んでるのが伝わってきた」


 頬を赤く色付かせて、もぞもぞとくすぐったそうにするテトラ。


 そんなテトラは色っぽい。


 俺は床にぺたりと尻餅をついているコーネリスのことも見てみる。

 薄手の白い生地が汗で張り付いていて、鎖骨が覗いているコーネリス。


「ねえ、ご主人様……。私のことも、お母様の時みたいに見てほしいの……」


 びくっ、と体を跳ねさせて、切なそうに身をよじるコーネリス。


 さすがにコーネリスの時は違うものの……。


「ほ、本当にごめん……」


「「謝らないでくださいっ、ご主人様っ」」


 敬語で、敬うようにそう言ってくれる二人。


 でも……。


「俺の思ってることが伝わるのは……嫌だと思う……」


「「そ、そんなことないですよ? ご主人様?」」


 敬語で、気遣うようにそう言ってくれる二人。

 その頬はもっと赤くなっていて、二人が同時にくすぐったそうに身をよじる。


「確かにテオが私のことを考えてくれている時は、とってもくすぐったくなるよね。私がテオ抱きしめた時とか、腕輪を通じて、ブワッとその感情がなだれ込んでくるもんっ」


「分かる」


 自慢するように言ったテトラの言葉に、コーネリスがうんうんと頷いていた。


「そういうのを感じると、ごしゅじんさまもちゃんと男の子だな、って思うわ。いつもは気を張り巡らせているのに、たまに抜けているところもきゅんっとくるもの」


「分かる」


 うんうんと、頷くテトラ。


 俺はそんな二人の反応に自分の顔が熱くなってくるのを感じ、シーツを握りしめた。


 でもそういうのが伝わってるのなら、嫌なんじゃないだろうか……。


「ううん……そんなことないわよ。だってごしゅじんさまのは別だもの」


「そうだよ。だってテオは私たちのご主人様だもの」


「「ねーっ」」


 意気投合して、確認し合う二人。


「それに、テオのは嫌じゃないどころか、ものすごくくすぐったいの。腕輪を通じてテオの優しいのがいっぱい感じて、私までとっても満たされた気持ちになるから、我慢しなくていいんだよ?」


「そうよ。私はごしゅじんさまの眷属だもの。その眷属がごしゅじんさまに我慢させるのは、それこそ嫌だわ。『眷属の腕輪』を渡したのがその証拠。だから……ごしゅじんさまはそのままのご主人様でいてください」


 コーネリスはそう言うと、俺の腕にある『降臨の腕輪』の宝石に口づけを落として、俺の手に頬ずりをしてくれる。


「テオ様……我慢はだめですよ? もっとテオ様はあるがままでいてください。ちゅ……っ」


 俺の頬に口づけを落としたテトラが、俺を抱きしめながら耳元でそんな囁きをしてくる。


 こ、これは……。


 そして、


「「んふ……っ」」


 同時にくすぐったそうに、身をよじる二人。……多分また俺の今の気持ちが伝わってしまったんだと思う。


 俺はそんな二人の頭を撫でて、またくすぐったそうに身をよじる二人に心の中でそっと謝った。


 この腕輪は便利なものだけど、こういう問題もあるみたいだ……。

 そして二人の感情は、それほど腕輪を通じて俺には伝わってこない……。

 だから、二人がどんな感じで俺の感情を受け取っているのかは正確には分からないのが、また悩みの種だった……。


「そうだね。私たちの感情は、腕輪を通じてテオに伝わるんじゃなくて、自分に跳ね返ってくるの」


「だから、なおさら、ごしゅじんさまの気持ちをよく感じて、本当にくすぐったくなるわ」


「「ねーっ」」


 ……とのことだ。


 どちらにしても、対策を練らないといけない。

 さっきのコーネリスの様子を見れば分かる通り、俺と繋がっている以上、腕輪の宝石の中は暑くなってしまうのだから。


 一番簡単なのは、腕輪を外すことだけど、もし何かあった時のためにもなるべく腕輪は嵌めておきたい。


 となると……。


「お母様はどう……? お母様も腕輪に宿ってる時は、あつくなっちゃう……?」


「うん。とってもあつくなっちゃうよ……。乱れちゃう……。だからこれを乗り越えるためには……コーネリスちゃんも限界までテオのことを感じればいいかも」


「「げ、限界まで……」」


 ごくりと、誰かが息を呑む音が夜の部屋に満ちた。

 それは三人が出した、危険な香りのする音だった……。


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