第3話 見通せないほどの聖女様。
広場に台が置いてあり、そこに立っている神父様が話しを始める。
『スキルの啓示の前に、少しだけ時間を頂いて、聞いていただきたい。皆も知っている通り、この世界に生きとし生ける者は魔物によって命を落とすことが数え切れないほどある。それは生きている以上、切っても切り離せない宿命で、だからこそ我々は強く生きねばならない』
その言葉に、広場にいる全員が頷く。
確かに村の近くにある山にも、魔物が多く生息している。
俺も魔石を探しに森に行く時は、毎回遭遇しないことを願っている。
『それでも我々には魔法がある。武器を扱える。しかしそれだけではない。神の子たる我らには、スキルがあるのだ』
「「「…………!」」」
手を広げ、よく通る声で神父様がそう言うと、広場にいた者たちがごくりと息を飲んだ。
『そして生まれた時から、己の中で見守ってくれているのだ。そう、天におわす神とともに……』
目を細め、空を見る神父様。
その姿は、どこか遠くにいる存在に祈っているかのようだった。
そして、これで伝えるべきことは全て伝えてくださったようで、ついにその時がやってくる。
『では、順にスキルの啓示をさせていただく。神父である私の前で、祈りを捧げよ』
神父様の体から眩い光が醸し出される。
広場にいる者たちの意識がそちらに向き、動き出す。
「さて。では、まずは、やはり我が息子から掲示させて頂こう。行ってこい、ボンド……!」
「分かりました、お父様!」
一番目に神父様の前に立ったのは、村長の息子のボンド。
村長は得意げにその様子を見守っている。
「もしかしたら、しょっぱなからすごいスキルが出るかも……」
「伝承に残っているスキルとか……!」
「ああ……! いいな……! 俺にも希望があるんだよな……!」
期待に胸を膨らませたささやき声が聞こえてくる。
皆が、希望を持っていた。暗い顔をしているものは誰一人としていなかった。
『では少年よ。その身に眠る力を正しく認知せよ』
「はい!」
神父様の言葉に頷き、ボンドが目を閉じて祈る。
「「「おお……!」」」
次の瞬間、ボンドが光り輝き、ハッと目を見開いた。
『少年のスキルは……おお……!』
「し、神父様……! こ、これって……!」
『おおお……! このスキルは…………おお!!』
「ししし、し、神父様……!!」
「おめでとう。村長の息子、ボンドよ!! 君のスキルは【村おこし】だ!!!!』
「そ、それって……!!」
『…………うむ。平凡なスキルだ。しかし少年は村長の跡取りのようだから、これ以上にないぐらいふさわしいスキルといえよう』
「は、はは……。なんだよ、それ……」
乾いた笑みを浮かべるボンド。
「俺のスキルはもっといいスキルだと思っていたのに、俺のスキルって【村おこし】なのかよ……」
そのまま、崩れ落ちるボンド。
「な、何かの間違いでは……。い、いや、しかし私のスキルも【村おこし】だから……」
村長も先ほどまでとは違う態度で、膝から崩れ落ちていた。
『では次の者ッ!』
それからも、次々にスキルが啓示されていく。
【農業】【弓使い】【獣使い】【白魔法使い】……。
それぞれがそれぞれのスキルを持っていて、それを知った反応もそれぞれ違っていた。
落ち込む者、喜ぶ者、微妙そうな顔をする者。
「ミーナちゃんはお花に関するスキルで、マリアちゃんは料理のスキルかぁ」
隣にいるテトラが背伸びをして、彼女たちの結果を見ながら感心したようにそう言っている。
俺とテトラは列の最後尾。
テトラが前、俺が後ろ。そんなテトラが振り返って俺の手を握った。
「テオ! 私ね、テオはとってもいいスキルを持ってると思うの!」
「どうだろう……」
「あ、テオ、もっと自信を持っていいんだよ? テオはね、日頃の行いがいいからきっといい結果になると思うよ!」
そう言ったテトラの瞳は、核心に満ち溢れていた。
できれば俺も、いいスキルだったらいいと思っている。
そうすれば、どれだけ喜ばしいことか。
だけど、それよりも注意しないといけないこともある。
「そうだね。昔、おばあちゃんも言ってたもんね。『教会には気をつけろ……』って」
「うん。スキルを啓示してもらったら、『何があっても走って家に帰れ』って言ってた」
そんな物騒な遺言だった。
詳しい理由は教えてくれなかったけど、昔、おばあちゃんは、教会と関わるのは極力避けろ、と何度も俺たちに言っていた。
スキルの啓示の日は仕方がないから、スキルを知ったらまっすぐに家に帰れ、とも言ってた。
「「何か起きそうな気がする……」」
それなら、スキルの啓示をしないでおこうとも思ったけど……それもダメだと言っていた。
遅かれ早かれ、その時は来る。
だったらいっそのこと、終わらせてしまえ、と。
「……あ! 私の番がきた!」
そして、ついにテトラの順番が回ってきた。
「行ってきます!」と言って、手を組んで祈る。
……その瞬間だった。
「う……」
テトラの体が光りだした。それは、あまりにも強すぎる光だった。
ブワッと弾けたそれが、噴き出すように村の中を覆い、眩しくて目が開けられないほどだった。
空が光る。白銀色に。まるで誕生を祝福するようにーー。
『ぐ……! なんという力じゃ……! これは……まさか……! いや、そんなはずは……!!』
そしてテトラの光が弾けた時、神父様が目を見開きながら言った。
『この者は……聖女じゃ……!』
「「「……!? 聖女……!?」」」
「聖女……いや、それに止まらぬ……! わしでも見通すことのできない力まで宿っている……! これは、神の生まれ変わりだと言われても信じることのできる……! 彼女こそ、天に見守られしほどの……聖女じゃ……!』
「「「!?」」」
その瞬間、広場が歓喜の声に包まれる。
「「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」
村が揺れる。声で空気が割れる。
「すごい……! テトラちゃんって、神様の生まれ変わりだったの……!」
「薄々、そうだと思ってたわ……!」
興奮を帯びた声で言う村人たち。
……だけど、それよりも俺はすぐにテトラの様子に気づいた。
「い……ッ」
「……テトラ? テトラ!」
盛り上がる祭壇のところ、そこにいるテトラが苦しそうな顔をしていた。
頭を抑え、口を手で覆い、その場でしゃがみこむ。
周りにいた全員も少し遅れてそれに気づいたようで、神父様も突然のことに慌てているようだった。
『どうした……少女よ!? どこか、体に異常でもあったか……!?』
「……いえ、大丈夫です」
『し、しかし、そうは見えぬ。頭痛で苦しんでいるのなら、それを治すポーションがーー』
「……ッ。大丈夫ですから……」
『しかしーー』
「…………大丈夫だから、近づかないで……。テオ以外は、嫌…………」
「「「!?」」」
ズンッ、と衝撃が伝わるような、静けさを帯びた声だった。
その声が広場に響き、ピシリと全員が身を強張らせて、動けなくなる。
そしてテトラの顔色が一層悪くなり、力尽きたように倒れようとする。
「テトラ、とりあえず家に帰ろう」
「テオ……」
俺はテトラを抱きとめて、そのまま抱えた。
少しだけ顔をほころばせてくれたテトラが、俺の胸に顔を埋めてくれた。
それから俺はこの場を後にして、テトラとともに家に帰った。
昔おばあちゃんが言っていたこと。どうやらそれが、これのことのようだった。
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