聖女と作る眷属のハーレム 〜人知れず村の生活を豊かにしていた少年は、いずれ全ての聖女たちから溺愛されることになるそうです〜
カミキリ虫
プロローグ
第1話 静かでささやかな村での二人暮らし
「テーオ〜。そろそろ休憩しよ〜」
木漏れ日が差し込む森の中に、明るい声が響いている。
俺は地面に向けていた視線を動かし、声の方を見てみた。
そこにいたのはテトラだった。手にはタオルを持っていて、草木の間を縫うように駆け寄ってきてくれる。
「テオ、お疲れさま。もうお昼だし休憩しよっか。とりあえず、汗拭いてあげるねっ」
「ありがとう、テトラ。でも自分で拭けるから、タオルだけーー」
「ううん、させて。テオはいつもお仕事頑張ってくれるから、嬉しいけど、心配でもあるの。だからこれぐらいはしてあげたいのっ」
「じっとしててね」と言ったテトラが、俺のひたいに浮かんだ汗をそっとタオルで拭いてくれた。
茶色い髪に、琥珀色の瞳。
明るい表情を向けてくれるこの子は、テトラだ。昔からずっと一緒にいる女の子。
しっかり者のテトラは、いつもなにかと俺のことを気にかけてくれる。
「ん、これでよしっ」
テトラがタオルを自分の胸に抱き、顔を綻ばせて微笑んでくれる。
そして俺たちは手を繋ぐと、二人で木陰へと移動した。
俺とテトラの出会いは数年前。
あれは、物心ついてすぐことだった。
ある日、俺が一人で村の外を歩いていると、一人の少女が倒れているのを見つけた。
地面に倒れていたその子はひどい怪我をしていた。体は傷だらけで、血が出ていて、死んでしまいそうだった。
だから俺はすぐに応急処置を行なった。
そのまま彼女を抱えて、当時、一緒に暮らしていたおばあちゃんに見てもらうことにした。
その女の子がテトラだった。
「はいテオ。今日は自信作なんですけど、どうでしょうか……?」
森の中、木陰に座って昼食を食べながら、隣に座っているテトラが訪ねてくる。
テトラが作ってくれたサンドイッチだ。
パンの間に、みずみずしい野菜が少しだけ挟んである。噛むと慣れ親しんだ味がした。
「うん、美味しいよ。テトラが作ってくれるご飯はいつも美味しいからさ」
「ん、もぉ〜、テオってば褒め上手なんだから〜。ほら、パンのお代わりまだあるから、食べて食べて!」
屈託のない笑みを浮かべてくれるテトラから、おかわりのパンを受け取って食べる。
その顔を見ていると、いつも思う。……テトラには、もっと色んなものを食べさせてあげたい。笑っていてもらいたい。だから、稼ぎもよくしたいって。
出会ったあの日から、俺とテトラはずっと一緒の家で暮らしている。
帰る場所もない。行くあてもない。自分自身のことも覚えていない。そんなテトラはうちで暮らすことになっていた。
昔の俺は、おばあちゃんと二人暮らしだった。親のいない俺にとって、そのおばあちゃんが親代わりだった。
だからおばあちゃんがいなくなった後は、俺とテトラの二人だけで暮らしている。
だけど、うちは貧乏だ。
俺は小さい頃からおばあちゃんと二人暮らしだったから、他の子供たちには親のいない不気味なやつだと馬鹿にされてもいた。
食べ物を食べるために俺が稼がないといけない。けれど、昔の俺はまだ子供だったから働かせてもらえなかった。
それなら自給自足をしようとしたけれど、簡単にいくものではない。
うちの周りの土は質も悪いし、せっかく作物を作っても荒らされるのなんていつものことだった。
それは今も変わらない。
だけど、かろうじて、どうにかなっている。
森で取れた野草や果物。そして昔、おばあちゃんが教えてくれた魔石の加工をすれば、村の人たちのうちの何人かは気に入ってくれて、買い取ってくれるのだ。
食料と交換もしてくれるから、今日も俺たちは森に来て加工に使える魔石を探しているというわけだった。
「あ、パン屋のアイリスさんが今朝ね、言ってたよ。昨日テオが売ってくれた魔石の効き目がすごかったって。疲労回復の効果のおかげで、体の調子が良かったんだってっ」
「それならよかった」
アイリスさんにはお世話になってるから、そう言ってもらえると安心する。
「今度焼きたてのパンを食べさせてくれるから、おいでって言ってたよ?」
「そっか」
「あ、それとね、ほっぺたを赤くして、こうも言ってたよ。『最近のテオくん、ますますカッコよくなったね』って。今度パン屋によったらサービスするっても言ってたよ。…………色々と」
「…………」
じとっとした目で報告してくれるテトラ。
俺はパンを持ったまま顔を逸らす。
「「…………」」
……これはいつものやつだ。
テトラがこういうことを言い始めた時は、いつも少しだけ不機嫌そうになる。
「……テオくんはここで動揺するんだ。何かアイリスさんとの間に、やましいことでもあるのかな」
「な、ないよ……」
「そうなんだ。……でもテオくんはかっこいいし、アイリスさんと仲がいいもんね」
さらにじとっとしたテトラが、つまらなそうに唇を尖らせる。
……だけど、それはテトラの思い違いだ。
アイリスさんとは本当に何もない。
アイリスさんはパン屋さんで、美人なお姉さんだと評判な人だけど、ただそれだけだ。たまに会話をするぐらいで、特別何があるわけではない。
「ふぅん……。……じゃあ、私なんてどうでしょうか?」
そう言ったテトラは甘えるように俺に寄りかかってきて、上目遣いで聞いてきた。
だから俺は、そのテトラの手をゆっくりと握った。
「もうっ、テオったら……っ」
そうするとテトラの頬が赤く染まり、照れたように俺の首筋に顔を埋めてきた。
そして思う。これからもテトラと一緒にいたい、と。
あの日、テトラと出会った時に思ったことがそれだった。
だからこそ、俺はテトラのためならなんだってできる。
苦労はかけさせたくないし、これから先も元気でいてほしい。
「でも、この村で過ごすのも、もうあとほんのわずかなんだよね。私のスキル、どんなやつかな」
瞳を輝かせて言うテトラの視線の先には、どこまでも澄み渡る空が広がっていた。
俺たちはもうすぐ、この村を出る予定だ。
スキルが判明し、それがどんなスキルだとしても俺とテトラ、二人で旅立つことになっている。
この村での暮らしには色々あるけど、やっぱり今まで住んできた村だ。それをなんとも思わないわけじゃない。
だけど、村から出て、二人でいろんなことをしようとずっと前から決めてきた。
だから、もう少しだけ……。
その時が来ることを楽しみにして、俺は今日もテトラと一緒に過ごしている。
それが俺たちの毎日だった。
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