第54話 消耗戦

「敵対!」


 スキルで敵対心を煽られたスライム達が、アルマへと一斉に襲い掛かる。


「はあっ!」


「やあっ!」


 アルマに群がったスライムへ周りの冒険者たちが次々に剣で切りかかる。

 スライムは冒険者たちの剣を受けて核を砕かれるとその体が水となって崩れ落ちる。


「ありがとうございます」


「ああ。そっちこそ攻撃を引き付けてくれてありがとな。移動が少なくて済むのは助かるぜ」


「はあ、はあ。だが、数が減っているようにみえないな。結構な数を倒しているはずなんだが」


 次々と襲い来るスライムに、アルマは冒険者たちと連携しながら対峙していた。

 自らの攻撃性能が低いアルマはスライムを引き付けることに専念し、同じく近距離部隊に所属する冒険者たちが攻撃を仕掛ける。




 戦闘開始からすでに10分が経過している。

 遠距離部隊の魔法攻撃をすり抜けたスライムたちが次々に近距離部隊が守るダムへと殺到していた。

 スライムたちは、人間やダムへと水魔法で攻撃を仕掛ける。

 人間側はダムに張り付く個体を倒しながら、新たに殺到するスライムたちを警戒する。

 各所でスライムと人間の戦闘が繰り広げられていた。


 一体一体は弱いスライムだが、数が集まれば相応の脅威となる。

 ダムに張り付いてゼロ距離から水魔法を放ちダムを削ろうとするスライムたち。

 自警団のメンバーがそこへ駆け寄ると、氷の力を乗せた長剣の一振りでスライムを薙ぎ払う。


 近距離部隊に所属する冒険者や自警団のメンバーは互いに連携をとりながら、何とかスライムの猛攻からダムを守る。



「「「『ファイアボール』!」」」


「「「『アイスバレッド』!」」」


 ダムの上に陣取る遠距離部隊の魔法攻撃がスライムの群れの中で炸裂する。

 魔法を受けたスライムは、核を壊された個体は崩れ落ち、そうでなくとも体の一部を削られた個体の動きは著しく落ちる。


『さあ、猫神様の宅急便だ。有難く受け取れよ!』


 魔法やスキルの発動で消耗したメンバーへは謎猫がペットボトルに入れられた回復薬を届ける。

 これは大樹の森で取れた薬草から体力や魔力の回復、傷の治療に効果のある成分を煮出したものだ。


 薬を飲んだ遠距離部隊の面々の顔には活力が宿り、攻撃を受けた近距離部隊の面々の体からは傷が癒えていく。

 コウノさんの話では薬品の在庫はまだあるという。

 後方支援を買って出てくれた町人たちも薬の増産を行ってくれているらしい。


 回復薬により消耗を気にせずに遠距離攻撃を繰り返す。

 俺は適当な石を引き寄せると集中で敵へとぶつける。

 ウグイは風魔法に乗せた歌で、キツネはレイブンの姿を借り二人で爆発の魔法で攻撃をする。

 冒険者や自警団の面々も各々が得意なスキルや魔法で遠距離攻撃を繰り出していく。


 俺たちは全員が一丸となって戦い戦線を維持していた。




「のどの調子は大丈夫か?」


「えっ? ロンリ、私のこと心配してくれてるの」


「そりゃそうだろ。戦闘開始から今まで歌いっぱなしだったんだから」


 戦闘開始から30分。

 俺はウグイと共に一度休憩を取っていた。


 回復薬があり体力を気にせずに魔法やスキルを放てるといっても、それには相応の集中力がいる。

 俺たちは交代で休憩をとりながら戦いを続けていた。


「ふふふ。私のことは心配いらないよ。伊達にボイストレーニングを積んでいる訳じゃないからね。それよりも目の前の戦いだよ。今のところはみんなの頑張りでなんとかスライムたちの動きを抑えられてるね」


「ああ。スライムたちがあまり賢くないのが幸いしたな」


 スライムたちはゲンテーンの村を目掛けてまっすぐに南下してきている。

 ダムを回り込むように迂回したり、横に大きく広がって移動されれば、人数の少ない俺たちにスライムたちのゲンテーンへの侵攻を止める手段は無かったのだが、スライムはまっすぐに俺たちが築いた防衛線へと突撃していた。


「だが、向こうにはスライムボスがいる」


 俺は遠目に見たあの巨体を思い出し表情を暗くする。


「巨体だから動きが遅いんだよね。だから先にスライムたちが押し寄せてきてる」


「ああ。だが到着するのは時間の問題だ」


「魔族っていうぐらいだもん。スライムボスはめちゃくちゃ強いんだろうね」


 いくら弱いモンスターであるスライムがベースとなっているとは言っても相手は魔族だ。

 ゴブリンメイジや、A級トード。

 今まで戦ってきたどんなモンスターよりもずっと強力な存在であることは間違いないだろう。


「スライムボスが前線に到達すればスライムなんて目じゃない攻撃が飛んでくるはずだ」


 だから俺たちは回復薬もガンガン使ってでも、今のうちに取り巻きのスライムを倒しておく必要がある。

 スライムボスが来たらスライム達に構っていられる余裕はないだろうからだ。


「よーし。じゃあ、もう一頑張り行くよ!」


「ああ。行くか!」

 俺は手にした回復薬を飲み干すとウグイと共に立ち上がる。




「石集中!」


「みんな燃えちゃえ~♪」


 スライムの群れ目掛け俺たちは攻撃を繰り返す。

 すでに地面は倒したスライムたちが残す水分で、雨が降った後のようにぬかるんでいる。

 しかし後続のスライムたちは味方の死を気にせずに次々とこちらに殺到してくる。


 続く戦いに俺たちの間には疲労の色が濃くなっていく。

 いったいいつまでこの戦いは続くのか。


 それでも俺たちは気力をふり絞り、攻撃を続けていた。


『スライムボスが動き出した! みんなダムに掴まれ!』


 俺が次なる攻撃目標を探していると突如傍らを歩いていた謎猫が警告を発する。


 慌てて視線を上げる。

 遠見を使わずともギリギリ視認できるぐらいの位置に居たスライムボスの前方に巨大な水の玉が出来上がっていた。

 俺は急いで近くのダムの突起に掴まる。



「きゃああああああああ!」


「ぐわおおおおおおおお!」


 轟音と共に、ダムが大きく揺れる。

 スライムボスが放った巨大な水魔法がダムへと直撃したのだ。


「みんな無事か!?」


「うう。なんとか。レイブンちゃんがとっさにバリアを張ってくれたから大丈夫。レイブンちゃん、ありがとうね」


「いえ。何とか間に合ってよかったです~」


 どうやらウグイたちも無事だったようだ。

 見回すと他の冒険者たちも謎猫からの警告を受け、身を守っていたようで遠距離部隊に大きなけがをしたものは居ないようだ。


 俺はダムの下に目を向ける。

 すると攻撃を受けたダムの一部には大きな穴が開いており、その周りには何人か攻撃の余波を受けたのだろう人間が倒れていた。


『みんな、無事か!?』


『何とか無事っす! 今の攻撃の威力、なんなんすか!? 全力で逃げてなきゃ死んでたっすよ!』


『ウチは攻撃の範囲から外れてたから大丈夫だよっ!』


『僕も直接攻撃を受ける位置には居ませんでしたから無事です。ですが、何人か冒険者の方が攻撃に巻き込まれたようです』


 近距離部隊に配属されたチームのメンバーの生存を知り、俺は安堵する。


『ウチは今から救援に向かうよっ!』


『ダムにも穴が開いちゃったっすね。あっ! 土魔法を使える冒険者さんたちが穴を塞ごうとしているっす。僕も土遁の術で手助けに入るっすよ!』


『では僕はこちらに向かってくるスライムを引き付けます。ダムは何としてでも突破はさせません』


『ああ。みんな、頼んだぞ』


 ウサギたちは既に次なる行動を起こしていた。

 ダムに開いた穴は土魔法を使える面々が塞いでくれるだろう。


「しかし、なんて威力だ。ダムに一撃で穴が開いちまった」


「やっぱりスライムボスを何とかしないと、どんどんダムに穴を開けられちゃったらスライムたちを止められなくなっちゃうよ」


 ダムはスライムボスの攻撃で一部に穴が開いてしまっている。  

 ダムの穴が一か所だけならそこを守れば問題ない。

 しかし他の場所を次々に攻撃され、ダムが機能しなくなればスライムたちの侵攻を止める手段が無くなる。


 やはりスライムボスが自由に攻撃できる今の状況はまずい。




『お前ら、特攻作戦に切り替えるぞ! 団長たちがスライムボスのもとに突っ込む。道を作ってくれ!』


 謎猫から俺たち全員に指令が下る。

 それは最初に団長さんから伝えられていた作戦行動の一つを指示する内容だった。


「遠距離部隊の皆さん。ここからスライムボスの下まで、進路上に居るスライムを一掃します。遠距離攻撃の準備を!」


 コウノさんの号令が響く。

 伝えられた作戦の内容はシンプルだ。

 高い攻撃力を持つ団長さんを先頭に近距離部隊に配属された自警団のメンバーがスライムボスへ攻撃を仕掛ける。

 残った近距離部隊は引き続きダムを守り、遠距離部隊は団長さんたちの進路上にいるスライム目掛け遠距離攻撃を集中させスライムボスへの道を作るというものだ。


「でも、コウノさん。団長さんたちじゃスライムボスに決定打を与えられないんじゃ?」


「それは大丈夫です。ビイバ君が作ったこの砦がこの作戦の勝機だとすれば、私達にはまだ“奥の手”がありますからね」


「奥の手、ですか」


 不敵に笑うコウノさん。

 奥の手とは何なのか、追求しようとするがコウノさんは質問をはぐらかすように笑うだけだ。

 どうやらこれ以上の詳細は教えてくれないらしい。



「おめえたち。頼んだぜ!」


 そうこうするうちに、ダムの下から団長の大声が響く。


「お任せください、団長! 皆さん、行きますよ! 放て!」


「「「『ウインドショット』!」」」


「「「『ファイアボール』!」」」


「「「『アイスバレッド』!」」」


「「「『ライトニング』!」」」


「魔力集中!」


「燃えちゃえ~♪」


「「『エクスプロ―ジョン』!」」


 魔法の雨がスライムたちに降り注ぎ、団長たちの前に一本の道が出来上がる。


「おめえたち、行くぜ!」


 開いた空間を埋めるように左右から迫るスライムを団長は羽虫を払うかの如く鉄のこん棒を振り回し、打ち払っていく。


「団長に続け!」


「「「おおおおおお!」」」


 自警団の団員達も団長に続きスライムの群れの中へと飛び込む。

 向かう先は強大なる敵、スライムボスの下だ。


 俺たち遠距離部隊も味方にあたらない位置に今まで以上の勢いで攻撃を打ち込んでいく。




 スライムボスが生存している限り俺たちに勝ち目はない。

 コウノさんの言う“奥の手”が何なのか疑問に思う中、事態は進展していく。


 俺たちは一丸となってスライムボスに挑む。

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