第33話 ゴブリン集落の決戦

 ゴブリンの集落に到着する。

 すでに爆発の火は鎮火しており、集落の奥、キツネさんの友人が捉えられている檻の周囲からは煙が上がっていた。


「まだ、キツネさんの友人は無事なんだな」


「は、はい。魔法でバリアが壊れなかったのを見てえ、ゴブリンメイジからの攻撃は止んでいるみたいですう。ただ、いつもう一回攻撃をされてもおかしくない状況のようですう」


 状況は予断を許さない、か。

 ゴブリンたちは未だ煙の上がる檻を取り囲んでいる。


 見えるゴブリンの中に上位種の姿は見えない。

 ローブ姿のゴブリンの姿もないが、一度建物の中に戻ったのだろうか。


 見えているゴブリンの数は三十体以上。

 その数であれば相手がゴブリンやホブゴブリンだけなら俺たち六人でも殲滅は可能なはずだ。

 ただし、ここで戦えば上位種のゴブリンは必ず動いてくるだろう。

 そうなれば苦戦は必至である。


「こちらの存在に気づかれる前にゴブリンたちの数をできるだけ減らす。先制攻撃だ。岩集中!」

 

 ただのゴブリンでも、上位種と共に掛かってこられれば厄介だ。

 ならば先に倒しておくべきだ。


 俺はキツネさんの友人が囚われているという檻に当たらないように配慮しつつ、ゴブリンの密集する部分へと岩を放つ。

 衝撃音と共に、岩の着弾点周囲にいたゴブリンはその肢体を爆散させる。


「あなたに活力を~♪」


「もう一発、岩集中!」


「火遁の術っす!」


 ウグイの歌で体力を回復した俺は、遠距離攻撃手段を持つウサギと共にゴブリンたちに攻撃を繰り返す。

 こちらの存在に気づいたゴブリンたちだが、俺たちの攻撃の威力から恐慌状態に陥る。

 こちらに向かってくるもの、背を向け逃げ出すもの、その場で右往左往するもの。


 俺はこちらに向かってこようとするゴブリンに狙いを定め、岩を、そして矢を次々と放っていく。


「『虚飾』! オオカミさん。あなたの姿をお借りしますう」


 キツネさんは俺の姿に変身。

 手にはポイントで交換した弓と矢が握られている。


 キツネさんはこちらに向かってくるゴブリンの一体に狙いを定めると矢を放った。

 矢はゴブリンの体の中央を捉え、射られたゴブリンの動きは明らかに低下する。


「敵対!」


「インファイト!」


 流石に数が多い。

 遠距離攻撃で仕留めきれなかったゴブリンが俺たちの下にたどり着く。

 アルマとキツツキはゴブリンの敵対心を煽ると、近づいて来たゴブリンの攻撃を引き付ける。


「マーキング」


 俺は地面に落ちている拳サイズの石を見つけてはマーキングを施す。

 マーキングのスキルレベルは現在3。

 スキルレベルが上がったことで、今なら五つの物まで印を付けておくことができる。


「ウサギ頼んだぞ」


「ハイっす」


 俺はマーキングした石をウサギに渡す。

 ウサギは『脱兎』のスキルを使い、高速で森の中へ消えていく。


「よし。石集中!」


 アルマ達に張り付いたゴブリンは狙うことができない。

 俺はウサギが石を設置したのを確認し、こちらに向かってくるゴブリン目掛け石を放つ。

 ゴブリンの頭に石は命中、そのまま頭を吹き飛ばす。


 これが事前に俺の考えていた作戦だ。

 ウサギにマーキングした石を遠方に運んでもらうことで、何度でも石集中を使うことができる。

 消耗は激しいが、ウグイの歌があれば集中を連発できる。


 俺は石集中を連発し、1分ほどの時間で十二体のゴブリンを倒すことに成功する。




「ゴブゴブー!」


 集落中に響く、低く力強い声。

 集落の奥から四体のゴブリンの上位種を引きつれたフード姿のゴブリンが現れる。


 響いた声で混乱の最中にあったゴブリンたちが冷静さを取り戻す。

 おそらく『統率』のスキルの効果だろう。

 ローブ姿のゴブリンが再び声を発すると、いままで俺たちに背を向け逃げ出そうとしていたゴブリンまで俺たちへ向け敵意をむき出しにし、駆け寄ってきた。


「ボスのお出ましですね」


「ひええ。強そうなのがたくさんっす」


「よし、ウグイ。頼んだぞ」

 

「うん。全力でいくよ! みんな燃えちゃえ~♪」


 俺はウグイと頷きあう。

 まずはウグイが『熱唱』を発動。

 スキルの効果を受けた周囲の木々が燃え上がる。

 

「炎集中!」


 俺は集中を発動。

 狙うはもちろんローブ姿のゴブリンだ。

 俺はローブ姿のゴブリンへと視界内のすべての炎を引き寄せる。



「ゴブブー!」


 ローブ姿のゴブリンが杖を振り上げると、杖の先から水が噴出。

 その水は意思を持っているかのようにうねりながら迫りくる炎へとぶつかり飲み込んでしまう。


「ちっ。水の魔法か。使えるのは炎の魔法だけじゃないのかよ」


 あのゴブリンは周囲一帯を焼き払えるほどの威力を持った魔法を扱えるのだ。

 だから俺はそれを放たれるより早く攻撃を仕掛けたわけだが、まさか他の魔法まで使えるなんて。

 水と炎がぶつかり合い水蒸気が発生、視界を覆う。

 視界が晴れると、そこには当然のように無傷の体で宙に浮くゴブリンの姿があった。


 くそ。こちらの最大火力の攻撃は防がれた。

 だが、まだあきらめるわけにはいかない。


 火の魔法は発動までに溜めがあり、水の魔法は見たところあまり速度がない。

 ならば、魔法の迎撃が間に合わないほどの速さで攻めればいい。

 俺は弓を構えるとローブ姿のゴブリン目掛け放った。


 これが当たれば矢には麻痺毒が塗られている。

 『状態異常耐性』を持っているだろうが、それでも多少の効果はあるはずだ。


 しかし、俺の放った矢はゴブリンに到達する直前、大きく進路を変えてしまう。

 狙いを外した矢は、ゴブリンの頭上を通り過ぎていく。


「馬鹿な。集中まで使ったんだ。外れるわけが無いはず」


「ロンリ。なんか、ゴブリンの周りで土埃が舞ってない?」


 ウグイの指摘を受け、目を凝らす。

 ローブ姿のゴブリンは動いていないはずなのに、その周囲では確かに土が巻き上げられていた。


「風か」


 おそらく魔法で風を起こして身を守っているのだろう。

 矢は風に煽られ軌道をそらされたのだ。

 

 火に、水に、風まで。

 いったいあのゴブリンは何種類の魔法を使えるんだ?


「『虚飾』!」


 俺の疑問に応えるかのようにキツネさんの姿がゴブリンのものに変わる。


「名前は、ゴブリンメイジですう。使える魔法は火、水、風、そして治癒の四種類みたいですう」


 俺がローブ姿のゴブリン――ゴブリンメイジに視線を向けると、杖を上空に向け掲げていた。

 そこから光の粒子があふれ出し、光が降りかかったゴブリンの傷が癒えていく。


「くそ。回復魔法まで使えるのかよ」


 傷を癒されたゴブリンたちは活気を取り戻し戦線に復帰していく。

 さすがに頭が吹き飛ばされているような明らかに死んでいる個体に変化は無かったが、倒したそばから復活されては長期戦になるほどこちらが不利になる。


 ゴブリンメイジも無尽蔵に魔法が使えるわけでは無いだろうが、その表情には今のところ疲労の色は無い。




 俺は対峙する敵の強大さを改めて確認し、背に冷たいものが走るのを感じていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る