異世界テストプレイ ~転移した世界は難易度未調整? ユニークスキル『集中』が意外と最強だったので堅実にスキルを育て生き延びてやる!~

滝杉こげお

プロローグ

序章 ロンリーウルフ

 帰宅部の俺が授業を終えて、校舎を出た帰り道。

 通りがかった校舎の裏で、その事態は進行していた。


「今日こそは金は持ってきたんだろうなあ」


「ひぃ。ご、ごめんなさい」


 髪を金に染め上げ、制服を着崩した大柄の男子学生が、気弱そうな小柄の男子学生の胸倉を掴み上げている。

 授業が終わったばかりで周囲には人がいない。

 

 金髪の男の方は顔に怒りを浮かべており、明らかに頭に血を上らせている。

 このままでは詰め寄られている男子学生はひどい目に合うことだろう。


 目の前で現在進行形で進む“問題”。

 君子危うきに近寄らず。

 大半の人は自分にその影響が降りかかってこない限り、積極的に問題の解決に動くことは無いだろう。

 それが賢く生きるということだ。


 だが。


「おい」


 俺は顔を伏せながら二人へと声をかける。


「ああ? なんだよ、いきなり声を掛けて来やがって……って、ロンリさん! なんでこんなところに」


「お前らは、ここで何をしている?」


 金髪の男は俺の姿を認めると、突然おびえたように身を縮める。

 今まで尊大だった態度はどこ吹く風で、眼を白黒させている。

 そして変化があったのはそいつだけじゃない。


「ひ、ひぃ!? オオカミ、さん!? ご、ごめんなさい! 許してくださいっす!」


 やられていた男子生徒の方も、なぜか地面にめり込む勢いで土下座を始める。

 何度も頭を上げ下げする彼の眼は完全におびえきっており、その視線は俺へと向かっていた。


 俺へと向けられる二人の視線。

 俺はそれを受け、再び声を発する。


「おい……なんで俺に謝るんだ?」


「い、いや違うんですよ、ロンリさん。別にやましいことがあるわけじゃなくて。俺たち、そう! 友達で。今、一緒に今度の休みに遊びに行こうって計画を立てていたんだ。なあ?」


「えっ、ええっと。僕は、その」


「おい! てめえ」


「は、はいっ!」


「……」


 二人は焦ったように言い訳の言葉を並べ立てる。

 俺はそれに応えるように伏せていた視線を上げる。


「や、やめてくれよ、ロンリさん。そんな眼で睨まないでくれよ。お、俺が悪かったから……う、うわああああああああああああああああああ!」


「ご、ごめんなさい。ぼ、僕が悪かったっす。反省するっす。だ、だからゆるしてくださいいいいいいいいいいいいいいいい!」


 俺が何も言わないうちに二人は示し合わせたように回れ右をするとその場から走り去っていく。


「おい。 ……なんなんだよ、あいつら」


 俺のかけた声には反応せず、一目散に校舎の蔭へと消えていく二人。

 その後ろ姿を見送ると、俺は静かに歩き出す。

 

 さっき出てきたばかりの校舎。

 もう用が無いその中へと俺は入る。


 玄関の右手にはトイレがある。

 職員室に近く、教室からは離れたそのトイレは普段使うものが少ない。

 俺は迷わずその中に入り、入り口付近の洗面台にもたれかかる。

 周囲に誰も居ないのを確認し、鏡に映る自分の顔を見る。

 そこに映るのは鋭く細められた凶悪な光を湛える一対の眼。

 見る物を威嚇し、恐怖を与える俺の眼だ。


 俺は先ほどの二人の様子を思い返し、そして。



(なんで。なんで俺が怖がられるんだよおおおおおおおおおおおおおお!!)



 心の中で叫び声をあげた!


 なんでいじめていた奴だけじゃなくて助けた奴まで逃げ出すんだよ。

 俺がそんなに怖いかよ!?

 俺はできるだけ刺激しないように優しく話しかけたじゃねえか。

 俺が声を掛けたのは完全に善意からだぞ。

 ただ、ちょっとコミュニケーションが苦手だから口数が少なくて、無駄に図体がでかいせいでほんの少しだけ威圧感を与えちまったかも知れねえけど、でも逃げることはねえだろ。

 泣きたいのはこっちの方だよ。


 それに、いうに事欠いてそんな眼で睨まないでくださいだと? 

 この眼はもともとだ。

 俺だって好きでこんな眼でいるわけねえだろ。

 

 せっかく人が勇気を出して助けてやろうとしたのに。

 俺が声を掛けるのにどれだけの勇気が必要だと思っているんだ。

 何とか気持ちを奮い立たせて声を掛けたっていうのに逃げて行かなくたっていいだろ。

 別に感謝されたいわけじゃ無いが、それでも礼儀ってものがあるだろうが。


 ああ、もう嫌だ。

 なんで俺はこんな3K(巨大キョダイな体、凶悪キョウアクな目つき、口下手クチベタ)に生まれちまったんだよ。




 俺は鏡に映る自分に向かって、気が落ち着くまで怨嗟の言葉を吐き出し続けた。





「ロンリ! 一緒に帰ろ!」


 トイレでの反省会を終えた帰り道。

 背後から厄介なやつに声を掛けられる。


「なんだ、ウグイか」


「なんだとは何よ! それに私のことはウグイスって呼んでっていつもいってるでしょ」


「ああ、はいはい。分かったから、耳元で叫ぶな。ただでさえお前は声が大きいんだからな」


「ふふふ。それはそうよ。私は歌手を目指してるんだからね。ボイストレーニングは毎日欠かしてないわ」


「いや、褒めてるわけじゃねえぞ」


 俺の言葉になぜか胸を張るこいつの名前は宇喰ウグイ純恋スミレ

 家族同士でも親交がある同い年の幼馴染だ。


 こいつはウグイという苗字にコンプレックスを持っており、呼ぶときは名前であるスミレや、苗字と名前の頭文字を合わせてウグイスと呼ぶよう強要してくる。

 なんでも小学生当時、水泳部に所属していたのを、ウグイという苗字と関連付けて魚女や魚人とからかわれたことが原因らしい。

 

 そんな小さい頃のいさかいを起因に俺が怒られるのはなんとも理不尽な話である。




「どうしたのそんな不機嫌そうな顔して。また何かやらかしたの?」


「別にやらかしてねえよ。ただ、喧嘩を仲裁したらなぜか俺が悪者みたいな流れになっただけだ」


「もう。ロンリはただでさえ顔が怖いんだから。人を怖がらせちゃダメだよ」


「はあ? うるせえ。俺は悪くない。ただ目つきが悪いだけだ」


 ウグイの言葉に俺はため息交じりに返す。

 学校中の皆から怖がられている俺だが、ウグイだけは俺に普通に話しかけてくれる。

 まあ、それは有難いのだがこの遠慮しない物言いはどうにかならないものだろうか。


 俺は気落ちしているのだ。

 もう少し優しくしてくれても罰は当たらないだろう。




「フフフ。ロンリの短気は相変わらずだね。そういえば、一緒に帰るの、久しぶりだね」


「……ああ。お前は合唱部で、俺は帰宅部だからな。そういえばお前、部活は参加しなくて良かったのか?」


「今日は担当の先生が風邪をひいちゃったから活動が休みなんだ。あっ! そうだ、ロンリ。一緒にカラオケに行こ! 私、歌わないと調子でないし、ロンリも歌えば嫌なことなんて忘れちゃうよ!」


「いや、遠慮しとく。お前の歌を聞いた後で歌う勇気はねえよ」


 ウグイは歌手を夢見るだけあって歌が上手い。

 確か、地元で開かれた歌唱大会では金賞を受賞したこともあったはずだ。

 そんな奴の後に、歌が得意でもない俺が歌うとかただの罰ゲームだろう。




 たわいない会話を続けながら久しぶりに二人で帰る道中。


「なんだ、このメール?」


 俺の携帯にメールが届く。


~~~~~


件名:おめでとうございます!

送信者:God Bless You


初めまして。異世界の皆様。

この度は大守論理様の所属する『公立千文高校 2年3組』が、私の新しく手掛ける世界『クレードル』のテストプレイヤーに選ばれたことをお報せいたします。


このメールを展開後3分経過時点で皆様は異世界へと転移いたします。


世界『クレードル』は私が創造したばかりの新しい世界。

今後この世界がどう発展していくかは転生者の皆様方のお力に掛かっております。


ぜひともご協力のほどをよろしくお願いします。



幸運の女神 メネカ 


~~~~~ 




 ……なんだ、これ。

 俺は本文の内容を読み首をひねる。


 迷惑メールだろうがURLの記載や、金銭を要求するような文言がない。

 何の意味があってこんなものを送ってくるのか。


 まあ、ただのいたずらだろう。

 ただし気になるのがメール本文に俺の名前である大守オオカミ論理ロンリと書かれているだけでなく、所属まで書かれている点だ。


 千文せんぶん高校は俺が通う高校の名前であり、2年3組は俺が所属するクラスだ。

 学校名はまだしも今のクラスまで載っているのは流石に気持ち悪い。

 考えられるとすれば俺の友人の電話帳からクラス名と共にメールアドレスが流出したという可能性。

 だが、自慢では無いが俺にメールアドレスを交換するような親しい友達はいない。

 つまりそこのセキュリティは完璧なはずだ……あれ、なぜか目から水が。



「もー、ロンリ。人と話す時にスマホを見るとか非常識だよ。って、私にもメールが来たみたい。でも、この着信音聞いたことないなあ。どこからの連絡だろう」


「ウグイ、お前のスマホ変なウイルスに感染して無いよな?」


 俺のクラス、そしてアドレスを知っているのは家族と、そしてウグイぐらいだろう。

 俺は疑いのまなざしをウグイに向ける。


「なによ、その目。人を根拠なく疑うとか失礼でしょ」


「いや、俺のスマホに明らかに個人情報が漏れていると分かる変なメールが届いてな」


「えっ。そのメール。私の所に届いたのと同じだよ」


 俺がメールを見せるとウグイは驚いたような反応を見せ、俺にスマホの画面を見せてくる。

 そこには名前の部分が宇喰純恋に変わった同一内容のメールが映し出されていた。


「やっぱりお前が情報漏洩の原因じゃねえか」


「違うよ! そんなこと言ったらロンリの方から漏れたかもしれないじゃん」


「俺はセキュリティには気を使ってる。絶対無いとは言わないが可能性で言ったらウグイのスマホから漏れたという方が高いだろ」


「もう。だから、根拠もなく人を疑うのは良くないって!」


 届いたメールを話題に俺たちが言い争っているその時。


「えっ、何だこれ?」


「光? きゃっ!?」


 突如眼前を覆うまばゆい光。

 反射的に瞼を閉じた上からでも感じる圧倒的な光量を前に視界の全てが白に染まる。


 聞こえるウグイの悲鳴。

 俺は反射的にウグイへと手を伸ばす、が。

 

 そこに居たはずのウグイに触れられずに伸ばした俺の手は空を切る。 

 突如襲い来る強烈な眠気が俺の意識を奪っていく。

 なんなんだよ、これ。


 何もわからないまま、俺のでの記憶はそこで終わりを迎えた。

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