一番大切な人(1)

 テーマパークデートはあっという間に終わってしまい、後は帰りの満員電車に揺られるだけだ。


 ここから自宅に帰るなら、片道三時間半は覚悟しなければならないところ、真雪の寮に泊まれるおかげで、一時間ちょっとの我慢で済むのは、とてもありがたかった。


「美冬、大丈夫? こっちおいで」


 混雑する車内で、はぐれないように、私達はまた、自然に手を繋いでいた。何だか、テーマパークの夢の世界の名残りみたいだ。やっぱり真雪は、『王子様力』、持っている気がする。

 



 駅について、寮までの道のりを歩く。桜の木に頭上を覆われた坂道は、少ない街灯で照らしきれない闇がそこかしこにあって、何だか怖い。


 真雪はいつも、私と別れた後は、こんな道を通っているのかと思うと、何だか申し訳なくなる。


「美冬、こっち歩いた方が楽だよ」


 真雪が私の手を引いて、誘導してくれる。


「ありがとう」


 私はつい、その手を捕まえて、テーマパークにいた時のように、手を繋いでしまう。


「美冬は甘えん坊だなあ」

「そんなことないもん」


 真雪に茶化されつつも、この温かい手を逃したくはなかった。ただそれだけなのだ、多分。

 坂を上まで上がりきって、寮に行く。


 もう遅くて、他の人は寝ている時間だ。静かにこっそり、真雪の部屋に向かう。


 前と同じように、一緒にお風呂に入ってから、お布団を並べて敷く。

 真雪とお風呂に入る時に、やっぱり少しだけ、真雪の胸元を自分のと見比べてしまう自分がいて、何だかこう、コンプレックスって嫌だな、と思う。


「ねえ、真雪ってさ。……胸、おっきいよね」

「え、ちょっと、何言ってんの、急に」


 僻んだ私の発言に、真雪はあからさまに恥ずかしがっている。

 やっぱり真雪は可愛い、と思った。


 布団に入って寝転んで、消灯した。でも、やっぱり二人とも眠りたくなくて、ついついおしゃべりしてしまう。


 音楽の話が多いけど、他にも好きな本の話とか、真雪の得意料理についてとか、話題は尽きないものだ。

 真雪の得意料理のミートパイの話なんかを聞いていると、夜中なのにお腹が減ってきてしまったので、その話はすぐ終わりにしてしまった。


「そろそろ、寝ようか」


 話題がひと段落して、真雪が言う。

 でも、私は、まだ寝たくなかった。


 一日テーマパークで過ごして、すごく疲れているはずなのに、真雪とまだまだ話がしたくて堪らなかった。


 私は一体、どうしてしまったんだろう。


「あのさ、真雪」

「うん?」

「私、まだ寝たくない」

「どうしたの」


 私が駄々をこねるように言うと、真雪は『仕方ないな』と言って、転がりながら私の布団の方までやってきた。

 その動作が面白くて、つい笑ってしまう。


「なんか、話したいことでもある?」


 顔をすぐ側まで近づけて、真雪は言う。

 どうしよう。なんだか身体が熱くなってくる。


「真雪に、聞きたいことがあって」

「うん」

「真雪は、私のこと、どう思ってるの?」


 つい、思っていたことが出てきてしまった。

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