銀色の降誕祭(3)

 そのままぼーっと携帯を開いたままいると、突然首筋に冷たい感触が走った。


「ひゃっ」


 思わず、叫ぶ。


「真雪。ごめん、びっくりさせて」


 美冬だった。


 最初に思ったのは、涙の跡を隠さないといけないということ。思考が追いつかないなかで、そんなことを思った。でも、間に合わなかった。


 美冬は、私の顔をまっすぐ見て、言う。


「真雪、泣いてるの?」

「泣いて、ないし」

「嘘ばっかり」


 そう言って笑う美冬の目からも、なぜかキラキラ光る粒が落ちる。


「真雪、ごめん」

「美冬……?」


 私が言葉を発するかどうかという瞬間、美冬は私に抱きついてきた。

 美冬は私に抱きついたまま、呟くように言葉を発する。


「私、やっぱり、駄目だった」

「……拓巳の、こと?」

「うん」

「デートだったんじゃないの?」

「うん」


 わからないけど、わからないのに、私の頬もまた濡れていた。

 美冬のコートは、雪のせいで濡れていた。


「中、入ろう」


 私と同じくらい冷え切った美冬の手を取って、寮の部屋に戻った。

 誰もいない部屋は、暖房が効くまでまだ少しかかりそうだった。


「ちょっと、待ってて」


 美冬を自室で座らせて、私は共有スペースのキッチンからお湯を持ってきた。

 とりあえず、近くにあったカモミールティーを選んで淹れる。


「お待たせ」

「……ありがとう」


 カモミールティーを一口飲むと、美冬は『あったかい』と言って笑った。

 一息ついて、私が口を開くよりも先に、美冬は再び話し始めた。


「拓巳に、告白されたんだ。今日」

「うん」

「クリスマスイブだからって、デートに誘われて」


 美冬はそれだけ言うと、小さくため息をついた。

 私は、再び美冬が話し始めるまで待った。

 美冬はしばらく間を置いてから、また言葉を発する。


「私、答えられなかった。『付き合おう』って言われて、即答できなかった」


 そこまで言うと、美冬はまた涙を流し始めた。

 美冬の泣く声だけが部屋に響いていた。


「ごめん、泣いてばっかりで」

「ううん。いいよ、好きなだけ泣いて」


 言いながら私は、美冬の髪を撫でようとして、その手を引っ込めた。今の美冬に触れるのは、何だかずるいような気がする。


 美冬の痛みに付け込むなんて、だめだ。




 しばらく経って、呼吸を整えた美冬は、また話し始めた。

 私はまた黙って、美冬の話を聞いた。


 美冬は、クリスマスイブの今日、拓巳に誘われて、テーマパークデートに行ったのだそうだ。


 初めは良かった。友達同士として普通に仲の良かった二人は、会話も弾んだし、楽しく過ごせていた。

 だけど、問題はお昼を食べて、午後になってからだった。


 クリスマスイブのテーマパークだ。当たり前だけど、カップルだらけだ。

 そういう空気の中で、拓巳は美冬と親密になろうとしたのだと思う。彼は自然な流れで、美冬の手を取った。



「その時に、気づいちゃったんだ。拓巳が私に対して抱く『好き』と、私が思う『好き』は、違うんだってこと」


 美冬は、はっきりとした声で、そう言う。


「美冬は、あくまでも友達としての『好き』だったってこと?」

「多分、そういうことなんだと思う」

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