文化祭デート(2)

 しばらく話した後、祐希先輩は松岡先輩のところに戻っていった。


「さて、行こうか」

「うん」


 約束通り、ここから二時間だけだけど、美冬と文化祭デートだ。

 短い時間だけど、制限付きのデートって、まるで禁じられた関係みたいで、かえって盛り上がるかもしれない。


 そんな、訳のわからないことが頭に浮かぶ。


「とりあえず、最初はどこ行こうか」

「私、お腹すいちゃった」

「私も」


 顔を見合わせて笑い合う。美冬も、お昼ご飯を食べ損ねたらしい。


 いくつか食べ物屋さんがある中で、私達は、三年I組のうどん屋さんにいくことにした。

 私はかけうどんを、美冬は焼うどんを選ぶ。

 ほんのちょっとだけ、分け合ったけど、どちらも美味しかった。


 かけうどんのスープは、市販のものを使っているようで、多分本当はなんてことはないものなんだろうけど、お腹が減っているからなのか、特別に美味しく感じられた。

 美冬もニコニコして、ずいぶん幸せそうな顔をしていた。


 うどん屋の後は、書道部や美術部の展示を見たり、演劇部の舞台を見たり、少し落ち着いた雰囲気のところを中心にまわる。


 途中で、噂のフィーリングカップルをやっている教室の前を通ってみたけど、あれはあれで、楽しそうにやっていて、少し気になった。

 まあ、男子との連絡先交換なんて、自分にとっては全く魅力的でない景品だから、参加することは一生ないだろうけど。


「真雪、あれ行ってみない?」


 美冬の指差す先には、お化け屋敷があった。


「美冬、ああいうの得意なの?」

「うん、なんか好き」

「そっか……」


 私は思わず、元気のない声を出してしまう。

 ちなみに、私はお化け屋敷が大の苦手である。


「真雪が、苦手なら、別のとこでいいよ」


 私の態度で察したのか、美冬は別のところに行こうと提案してくれたのだが、なんだか申し訳なくて、でもやっぱりお化け屋敷は苦手で、どうしようか迷ってしまう。


 その時、ああだこうだ譲り合っていてまとまらない私達の前に、通りかかったのは、拓巳だった。


「二人、お化け屋敷行くの?」

「ううん、真雪が苦手みたいだから、違うところ行こうかなって話してて」

「あー、真雪、こういうのダメだもんな。もしよかったら、美冬、俺と一緒に行かない?」


 拓巳が提案する。お化け屋敷、どんなに好きでも、一人で入るのには少し抵抗があるだろうから。


「うん……でも、真雪は?」

「ああ、いいよ。私、先に戻って磯山先輩と合流しとく。二人で行っておいで」


 遠慮がちに言う美冬の背中を押す。

 私達のデートがここで終わってしまうのは残念だけど、実際もうそんなに時間はなくて、あと一箇所くらいしか行けそうにないし。


「うん、真雪がそう言うなら……ごめんね」

「じゃあ、美冬、行こっか」


 申し訳なさそうな美冬と、妙に楽しそうな拓巳との対比が、なんだか面白かった。

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