文化祭デート(1)
最近、美冬の様子がおかしい。
よく、ぼーっとしていることがあるし。それから、なんだか、私を避けているような気もする。
なぜなんだろう。私、何か気に触るようなことでもしただろうか。
気になるけれど、流石に本人に聞くわけにもいかなかった。
そうこうするうちに、文化祭の当日を迎えた。
まず、午前中は講堂で全体合奏を行う。美冬の初めてのソロデビューだ。
ハラハラしていたけど、夏合宿をきっかけにすっかり上達してきた美冬は、立派にソロを吹き切ることができた。
やっぱり、松岡先輩の指導のおかげかな、と思う。
和音の音程を合わせたり、音色を揃えたりする練習なら、私でもある程度できるけど、ソロのフレーズ感とか、曲全体における解釈だとか、そういうものは、やっぱり松岡先輩なしではできない。
私も、彼には、同門のよしみで、部活の終わりとかに何度かアドバイスをもらいに行ったりしていた。
音大で学んでいる松岡先輩からは、専門的な話が聞けて面白かった。それに、相田先生に普段教わっていることと、関連づけて話してくれるおかげで、わかりやすいし。
先輩は先輩で、将来音楽教師になることを目指しているらしく、高校オケの指導に携われることが良い経験になっていると、話してくれた。
やはり大学生ともなると、将来の仕事とか、具体的に考えているんだな、と尊敬してしまう。
全体合奏の後は、午後からのアンサンブルの本番に備えて、お昼を抜いて準備をする。
フルートパートの出番は、一番最初で、まず『G線上のアリア』を美冬と二人で演奏し、次に『月の光』を拓巳の伴奏付きで演奏する。
途中危ない箇所もないわけではなかったけれど、なんとか聴ける演奏にはなったと思う。
「真雪、お疲れ」
「あ、先輩、ありがとうございます」
吹き終わった私が、舞台裏に引っ込んで楽器を片付けていると、さりげなく松岡先輩が話しかけてきた。
「お客さん、連れてきた」
「真雪、お疲れ様。久しぶり」
祐希先輩だった。あの卒業式以来、久々に話す。
相変わらず、二人はペアリングを光らせていたけど、もうそんなことは大して気にならなかった。
「真雪、お疲れ様。ごめん、何度かミスっちゃった」
「大丈夫、知ってる。お疲れ様」
三人で話しているところへ、美冬もやって来た。
美冬と祐希先輩を、それぞれに紹介する。他の組はまだ演奏しているから、一応皆の鬼コーチである松岡先輩だけ会場に戻って、残る女子三人は、音楽室の外でフルート談義に花を咲かせた。
「美冬ちゃん、高校から始めたんだ。それなのにそんなに吹けるの、すごいね」
「ありがとうございます。真雪の指導のおかげなんです」
祐希先輩が褒めると、美冬はにっこり笑って答えた。
そんなふうに言われると、なんだか照れる。
美冬のこの様子を見る限り、とりあえず最近の態度は、嫌われたというわけではなさそうだった。
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