嫉妬じゃないなら、なんなんだ(1)
翌日の放課後も、私は拓巳とデートをした。
『デート』じゃないって、なかなか理解されないから、私の中では、半ば意地になっているところがある。
「美冬って、苦手な科目とかあるの?」
「うーん、強いていうなら、数学」
「そっか。数学、俺も苦手だしな。残念ながら」
「いつもは、時々、真雪と勉強してたんだ。でも今、真雪は磯山先輩に夢中だし」
つい、拗ねたように言ってしまう。拓巳にそんなことを言っても仕方がないのに。
「美冬、ヤキモチ妬いてるんだ。かわいいね」
拓巳は笑う。
拓巳の言う『かわいい』は、なんだかちっとも嬉しくない。
「美冬は、好きな人とかいないの?」
「えっ」
ついに拓巳にまで、恋バナを振られてしまった。拓巳とこういう話をするのは初めてだから、少し面食らう。
「私は、いないけど」
「そうなんだ。でも、真雪たちのそういうのは、興味あるんだ?」
「うーん、そういうわけじゃないけど」
そんなふうに突っ込まれると、少し恥ずかしくなる。
「真雪のこと、気になるならさ。ちょっとだけ秘密教えてあげようか。昔のことだけど」
「秘密って?」
「真雪が好きだった人のこと」
真雪が好きだったのは、祐希先輩っていう女の先輩だ。
もしかして、拓巳もそのことを知っているのだろうか。
「多分なんだけどね、真雪、松岡先輩のこと好きだったんだと思う。それで、多分それは、今でもそうなんじゃないかな」
「えっ、それ、本当?」
今でも、という言葉に、私は敏感に反応する。
どういうことなんだろう。
「真雪、土日の練習の帰り、よく松岡先輩と一緒に帰ってるの見るんだよね。なんか俺すら入り込めない雰囲気っていうか」
私はそんなこと、全然知らなかった。最近磯山先輩に気を取られていて、松岡先輩のことなんて、考えたこともなかった。
でも、確かに。
私はいつぞやの演奏会に行った日のことを思い出す。確かに、松岡先輩とはたまに会ったりしてるって言っていた。
それに、松岡先輩のソロを聴いた後の真雪の表情といったら、とろーんとした目をしていて、いかにも恋する乙女のような雰囲気だったような気もしなくもない。
「拓巳、お願いがあるんだけど」
私は、気づいたら、とんでもないことを提案してしまっていた。
その週の土日、いつものように全体合奏が終わって、私は楽器を片付ける。
コントラバスを丁寧に拭いている拓巳に、アイコンタクトを送る。
拓巳はニコッと笑って、それに応える。準備はバッチリだ。
「美冬、お疲れ様。じゃあ、また明日ね」
「うん、また明日」
いつものように、真雪と別れの挨拶をする。
真雪は楽器をしまうと、颯爽と帰っていく。
少し前までは、時々一緒に駅まで行って、お茶をしたりしたのだけど、最近はやっぱりつれない。
だけど今日に限っては、そのほうが都合がよかった。
下駄箱前で、私は拓巳と待ち合わせていた。少し遅れてやってきた拓巳と合流する。
「お待たせ。行こうか」
玄関を出て一緒に歩き出す。校門とは反対側の、今はすっかり葉の落ちた桜の木の下に、先に帰ったはずの真雪が立っていた。
なんと、私服姿で。
そして、しばらくした後、そこには予想通りの人影がいた。松岡先輩だ。
二人が一緒に歩き出すと、私達も密かに、後を追った。
そう、私は、一緒に二人を尾行しようと、拓巳を誘ったのだった。
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