デザートより甘い(2)

 バスは山道で大きく揺れて、その度に真雪の首がぐらぐらするのが、大丈夫か気になる。

 そう思っていたら、次の揺れで、彼女の頭が私の肩の上に、すっぽりと収まってしまった。


 これ、あれだ。

 よく、電車内でいちゃつくカップルとかがやるやつみたいだ。


 そんなことを思うと、急に真雪の体温とかを意識してしまうわけだが、振り払うわけにもいかない。

 気にすればするほど、真雪のローズの香りが気になったりする。


 サラサラの髪の毛がくすぐったい。

 前から少し、触ってみたいとは思っていたけど、まさかこんな形で触れることになるとは思わなかった。


 真雪の寝息が聞こえる。スースーと規則的なその動きを見て、私はつい、真雪のお腹を触ってしまう。

 あ、やっぱり、腹式呼吸なんだ。

 寝ている時は腹式呼吸になりやすい、みたいなことを真雪が前に言っていたから。


 だからこの行為に他意はない、はずだった。

 その辺りのことは、なんとなく記憶が朧げだった。




 耳元でやたら艶々した声がして、我に返る。

 いつの間にか、バスは停車しているようだった。


「美冬、学校着いたよ」

「え! あれ、ご、ごめん」


 私もいつの間にか寝てしまっていたらしい。

 隣の真雪が、私の頭をポンポンする。


「美冬、たくさん練習して、疲れちゃったんだね。帰ったら、ゆっくり休みなよ」

「うん、ありがとう」


 ほわほわした頭のままバスを降りて、帰りの会をする。

 顧問の先生や松岡先輩のお話を頂戴して、解散となった。


「家に帰るまでが合宿ですからね」


 くれぐれも帰り道で怪我などしないように、と。

 何やら小学生の遠足みたいなことを言われてしまう。


 帰り道、なんとなく口寂しくなって、甘いものが食べたくなってしまった。


「真雪、あのさ」

「ん?」

「この後、どこかで、お茶しない?」


 なんとなく、真雪を誘う。

 わざわざ寮生の真雪を呼び出さずとも、駅前まで一緒に行くメンバーに声をかける方が早いのだろうけど。


 それでもやっぱり多分、私は真雪とお茶がしたかったんだと思う。


「いいよ。どこ行く?」

「なんか、甘いもの食べたい」


 真雪のそばにいると、何故かお腹が空く気がする。




 私達は、合宿の大荷物を抱えてカフェを目指した。

 真雪はコーヒーが好きなようで、高校生にしては珍しく、個人経営の雰囲気のいいカフェを知っていた。


「ちょっと高いけど、ここ落ち着くんだよね」


 そこは、綺麗な白髪のおじいさんがやっている小さなカフェで、駅からは少し離れた、公園近くの緑の多い場所にある。


「いらっしゃい。おや、真雪ちゃん、今日はお友達もいるのかい」

「こんにちは。部活の友達なんです」

「初めまして、美冬です」


 真雪はどうやら常連さんみたいだった。

 紹介されたので、私も挨拶する。なんだか不思議な感じだった。


「これ、お願いします」


 真雪は店員さんに何やら手渡している。

 CDだった。いつの間に持ってきたのか、と思ったけど、よく考えたら、合宿にも持ってきていたものかもしれない。


 店員さんはCDと入れ替わりにメニュー表を置いていく。

 確かに、ちょっと大人な価格だった。


 飲み物とデザート、軽食などが色々と載っている。どれを頼もうか迷ってしまう。

 真雪と相談して、ちょっとだけシェアすることにして、私達はケーキと飲み物のセットを一つずつ頼むことにした。


 真雪はコーヒーを、私は紅茶を。

 ケーキは苺のショートケーキと、フォンダンショコラ。

 どちらも美味しそうだった。

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