駅に潜むもの~最終章~
マサユキ・K
風神雷神
改札を
湿ったトンネルに入った時のあの感覚だ。
俺……
この駅で二か月の間に七人の自殺者が出ている。
最初の被害者は主婦だった。
その後男性会社員、男子高校生、OL、老婦人、女子中学生と続き、直近では若い男性駅員が犠牲となった。
目撃情報を含めた警察の所見では全て自殺となっている。
このうち三人が俺の会社の顧客だった。
落書きの
人影は
平日の昼間という事もあるが、ネット情報の影響もあるのだろう。
あの駅では人が死ぬ
そんな風評がたっているからだ。
俺は
くすんだ
一切の音が遮断され視界に濃い
足元が震え、体が風に吹かれたように揺れ出した。
あとひと揺れで落下する直前で誰かが腕を掴んだ。
か細いが強靭な力が俺を引き戻す。
まだ
「危なかったですね」
ようやく意識の戻った耳にハイトーンの声が響いた。
目前に小学生くらいの少年が立っていた。
色白で端正な顔立ち。
肩にかかった黒髪が中性的な雰囲気を
ただその
純白の
肩掛けにした小さなポーチを除けば、どう見ても
「す、すいません。ありがとう……」
やっとの事で声を絞り出す。
何故こんな所に巫女さんが……と思ったがとりあえず頭を下げた。
「【
背後からまたハイトーンの声が聞こえたので、俺は慌てて振り向いた。
そこには全く同じ様相の少年……いや、長髪と体の線から恐らくは少女だろう……が立っていた。
「君たちは!?」
目を丸くする俺の顔を見て二人の巫女は頬を緩めた。
「あなたの目がおかしい訳ではありません。私たち双子なんです」
少年の方が言葉を
なるほど、二卵性双生児か。
だが俺が言いかけたのはその事では無かった。
「
今度は少女が少年の横に並びながら言った。
「この場にいる理由はあなたと同じです。ここで起こった事の真相を調べています」
真相? 調べる? 巫女さんが?
なぜ俺が調査していると分かった。
「あなたの挙動と雰囲気を見れば察しがつきます」
俺の心中を見透かしたように少女が呟く。
大きな瞳が
そんなに不審な様相をしていたのかと俺は慌てて服装に目をやった。
それを見て少女がくすりと笑う。
「凄いんだな、君たちは」
俺の飾り気の無い称賛に二人の巫女は同時に
「だが君らは一体何者だ。見たところ、その……どこかの巫女さんのようだけど。誰かに頼まれたのかい」
俺の質問に、二人の表情が一気に
図星のようだ。
俺だってだてに何年もこの仕事はしていない。
「申し訳ありませんがお答え出来ません」
真顔に戻った少女が冷たく言い放つ。
だが俺はすでにピンときていた。
被害者たちの身元情報は頭に入っている。
その中の老婦人は某宗教団体の教祖夫人だった。
恐らくその筋からのツテで派遣されて来たのだろう。
それならこの出立ちの説明もつく。
「そうか。人に名前を聞く時はまず自分からが礼儀だな。俺は佐伯貴志。保険会社の調査員をやってる。お察しの通り一連の自殺の件を調べてるところだ」
俺は人懐っこい笑みを浮かべ自己紹介した。
双子は顔を見合わせ何か思案している風だったが、やがて少女の方が口を開いた。
「私は
小学生とは思えぬ大人びた口調で少女が答えた。
竜宮寺? どこかで聞いた事があるような……
記憶を
それにしてもこんな子どもが事件調査とは……
何か特別な理由でもあるのか。
「なるほど。ところでさっき【穢れ】とか言ってたがありゃ何だい」
俺はそれ以上の追求はせず話題を変えた。
二人はまた顔を見合わせた。
どこまで話して良いか精査しているようだ。
「神道では
意を決したように少女が口を開く。
「憎悪、嫉妬、堕落、
朗々とした声がまるで呪文のように耳に響く。
「どうもこの場所には【穢れ】が吹き
少女は眉間に皺を寄せ構内を
「じゃあ俺はその毒気に当たってしまったという訳か」
俺の質問に風はコクリと頷いた。
「霊的感受性の強い人は大半が心身に変調をきたします。体調が悪くなったり、幻視や幻聴に
その一言に俺は一瞬凍りついた。
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